帰り道。
誰も話そうとはしなかった。さっきまでの笑い声はない。五人分の歩いている音と、押している自転車のチェーンの音と、遠い蝉の声だけが聞こえている。
空はまだ明るい。西の空が少しだけ橙に染まり始めている。まだ夏の途中のはずなのに、昨日とは違う空気が五人の間に流れていた。
交差点で旭が別れた。「ごめん、また明日」と言ったが、手は振らなかった。目が合わなかった。湊は途中まで冬馬と同じ方向だった。別れ際に何か言おうとして口を開き、やめた。頭だけ小さく下げて、自転車を漕いで行った。背中が小さかった。蓮司は同じタイミングで湊の反対方向に向かって帰って行った。カメラを鞄に入れて、一度も振り返らなかった。
冬馬と朔夜が残った。
二人で並んで、坂道を下っている。夕方の風がぬるい。さっきまで旧校舎にいたことが、もう遠い出来事のように感じられる。日常の風景が戻ってきている。住宅地の屋根、洗濯物、どこかの家の夕飯の匂い。子供が庭で水遊びをしている声が聞こえて、冬馬は一瞬だけ自転車のハンドルを握る手に力が入った。水の音。どこにでもある、ただの水の音だけが響いた。
全部がいつも通りで、だから余計に、陽翔がいないことが現実離れしていた。さっきまで隣でカメラを回していた人間が、数時間後にはどこにもいない。電話にも出ない。連絡先の向こうに、もう誰もいない。
しばらく無言だった。
朔夜が言った。
「陽翔、大丈夫だと思うか」
冬馬は少し間を置いた。前を見たまま。
「わからない」
二人の自転車の影が、夕方のアスファルトの上で長く伸びていた。まだ日は落ちていない。まだ夏は終わっていない。けれど、もう昨日と同じ夏ではなかった。
