水に還る


 二階に上がると、陽翔がカメラの液晶を確認し始めた。
「ちょっと待って。さっき撮ったやつ、一旦確認させて」
 全員が足を止めた。薄暗い廊下の中で、カメラの液晶だけが青白く光っている。陽翔が画面を操作して、さっきの映像を巻き戻す。
 画面の中で、撮影者が先陣を切って廊下を歩いている。ライトの光が壁を照らし、複数人の足音だけが響いている。何もない。普通の映像。
 陽翔が早送りにする。教室。理科室。保健室の前。廊下。
 その時、湊が声を上げた。
「止めてください。今の」
 陽翔が巻き戻す。
 廊下の映像。画面の右端、窓際の柱の影に——何かが立っていた。
 制服姿の人影。こちらに背を向けている。顔は見えない。ただ立っているだけ。背は高くない。制服の柄が、見えるか見えないかの暗さの中で、わずかに濡れているように見える。
 次のフレームでは消えていた。
「……え」
 旭の声が裏返った。
 陽翔がもう一度巻き戻す。再生する。コマ送りにする。確かにそこにいる。一フレームだけ。輪郭はぼやけていて、拡大しても顔の判別はできない。ただ、制服を着ていることだけはわかる。六人以外の、七人目。
「やばい。やばい、マジで映ってる」
 陽翔の声が震えと興奮で混ざっている。
「光の加減だろ」
 蓮司が言った。ただし、その声にはいつもの確信がなかった。
「光の加減で制服は映らないっすよ」陽翔が返す。「これ、もう一回あの場所で撮ったらまた映るんじゃね?」
 湊が陽翔から一歩離れた。
「帰りたいです」
 小さく、でもはっきりと言った。蓮司が「あと五分で出るからね」と安心させるように優しく答えた。
 冬馬は画面を無表情で見ていた。朔夜は画面ではなく、冬馬のその顔を見ていた。