命取り

 現地調査、とは言いつつ、僕のしたことといえば現場に足を運ぶこと、そして町の役場に赴いてこれまでの発掘調査歴がないかを確認することだった。それだけに終始した。文字通り土を踏むところから始めてみたのだが、めぼしい収穫なんてなかった。現場となっている空き地はまだ誰の手も入っていない土地で、自由気ままに雑草が生活している緑に包まれた場所なのだ。念の為に発掘のされたらしい痕跡でもないかと革靴で分け入ってみたのだが、土には痕跡一つ見受けられない。この辺りはどこにでもあるような田舎だ。少し遠くに照葉樹林があって、手近にあるのは田んぼか古い一軒家か郵便局というくらいのものだ。僕の勤めているあの事務所も、緑に征服されつつある中にぽつんと建っているのである。建物自体が特別大きくはないし、特別新しいわけでもないので目立つはずもない。こうして事務所を離れて調査に出発すると、いよいよ己のいる場所がどこなのかわからなくなってくる。僕は一体、どこに来たのだろう。これからどこを目指すべきなのだろう。わからない。
 背の高い草たちと戯れるのを早々にやめ、役場に向かった。町立の資料館はいくつかあるのだが、役場に行った方が手っ取り早いと思った。もちろん、快く思わない調査員と対峙しなくて済むという利点もあった。僕は窓口にて来意を告げ、担当している地域振興課の男性職員と一対一の格好になる。結論から言って、あの土地付近の調査記録はないらしいというのが判明した。件のあの縄文遺跡には確かに手がつけられているが、僕の担当した土地については記録がない。行政という立場から改ざんや抹消などはあり得ないだろう。僕のひとまずの役目はそこで終了した。