命取り

 一旦土地の売買が済んでいざ工事に着手し、貴重な土器だか石器だかが見つかった途端無視できない声が『待った』と言って割って入る。こうなれば、ディベロッパーも我々も苦笑いするより他はない。博物館とか大学の調査員がやってきて、短くない期間発掘を行うのだ。半日や一日だけの遅れならいざ知らず、これが半月とか半年くらいの遅延になるといよいよ笑えない。僕たちが調べ上げ、データを採取した土地、どこかの誰かが、大金叩いて買い上げた土地、それが、研究室に篭りきりのよくわからない人間の遊び場にされるのだ。僕は何度となくこの『待った』の声に作業を止められて、暇になったのを機会に発掘調査を見学してみた。そこでは一丁前にヘルメットなんか被った、見るからに年寄りの男たちが何事かを呟き合いながらせっせと土を掘っている。それも細かく、掘っている。僕は呆れて天を仰ぎ見たこともある。彼らはあろうことか、マイナスドライバーを用いて土を掘るのだ。一体どこに、そんな人間がいようか。多くはショベルカー、最低でもシャベルを持ち寄って盛大に穴を作るというのが普通だろうに、工芸品でも作るみたいにチマチマ掘り進めていくのである。もう一度言うが、僕は呆れた。そんなペースで現場を掘っていれば、建築の作業員たちは上の人間からゲンコツを喰らってしまうだろう。本来関係ないはずの僕だって怒られかねない。そのくらいの、罪を犯すに等しい情けないやり方で調査員は化石や遺物を見つけ出そうと必死であるらしい。
 こんなことをしているのだから、工期がどこまでも先延ばしにされるのだ。僕はヘルメットを叩き割ってやりたい気持ちでその場を去る。何が考古だ、何が人類史だ、そんなもの、今ここで調べ上げなくたって問題はないはずじゃないか。気の遠くなるような、もうとっくに終わった出来事を調査するよりこれから先のことに展望する方がよっぽど賢い選択じゃないか。僕はあの学芸員たちに言いたい、にやにやと笑って、もしかしてわざとチンタラ調査しているんじゃないかと疑いたくなるあの学芸員たちに言いたい。工事が遅れたために、せっかく僕たちの顧客が獲得してきた入居予定者が何人も手元から離れていくのだぞ。お前たちの、理由もない余裕のせいで大きな金と、今後の誰かの人生がふいになったかもしれないのだぞ。
 いくら怒っても怒り足りないくらい腹立たしい。発掘調査とはすなわち、この事務所とディベロッパーの敵である。足元の土を払って、いかにも古めかしい紋様の描かれた皿のようなものを発見しても見なかったことにしたという経験も、幾度かあった。
 商売敵。この言葉を去来させながら、仕事を完遂しようと僕たちは必死なのだ。