命取り

 翌日にはいつも通りの日常を開始した。僕は朝六時三〇分に目覚め、インスタントのコーヒーを飲んでトーストにバターを塗り、その上にいちごジャムを塗って三枚食べた。どれだけ空腹でもお腹が空いていなくても、必ず三枚と決めている。使った食器を確実に洗ってから、出勤するようにしている。その日もいつも通りだった。普段より強い眠気に悩まされている以外は、これといった変化はなかった。
 車に乗って三〇分の出勤を終えると、山間の小さな事務所で勤務開始となった。僕の勤めているのは町のしがない建築事務所であり、社員は一〇名、それに加えて創業者の社長が一人いるくらいのこぢんまりとした職場だった。この職場で行うことといえば、そう多くはない。国や自治体や民間企業が土地を買い、そこに建物を建てる際にちょっとしたお手伝いを担うのが業務、一言でまとめれればその程度のことだ。直接現地に赴き、敷地の実際の面積や傾斜、植生、そういったものを測定するだけ。業務内容は下調べですと、さらに短くまとめることもあるいは可能かもしれない。
 仕事は場合によって規模の大小があり、時には貯水池や変電所、面白くないものを挙げればアパートメントや小規模な公民館のための敷地測定を請け負っている。
「今は何かと法律が厳しいから、細かい事前調査をしているウチには需要がある」
 これが、社長の言い分だった。特に日本国内では、一九七〇年代ごろから(おおよそこの時期だと僕は思っている)古代遺跡の発掘調査に熱心になった傾向がある。長野県の有名な湖とか、鹿児島県の古生代生物の化石だとか、沖縄県の古代人の全身骨格だとか、そうしたものに夢中になっている。多くはヨーロッパの先進的な調査・研究に追いつこうとする理想あってのことであろうが、僕はこれを好いていない。こうしたものは、建築や土地開発の妨げになるからだ。