おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「……久しぶりの大はずれだったな。スキルのおかげで命拾いをしたか」

 俺はビルグの街の裏路地に立っていた。これは女神から授かった『瞬間転移』スキルの力である。このスキルは多少の制限はあるものの、その名の通り俺が今まで訪れた場所へ瞬時に転移することができるチートな能力だ。

 共通言語スキル、超健康スキル、瞬間転移スキル。この3つのスキルのおかげで俺はこの危険な異世界で快適に旅をすることができるようになった。戦闘能力は皆無だが、盗賊や魔物に襲われた際は先ほどのように一瞬で逃げることができる。

 残念ながらこの異世界にはウェルダ村にいた人たちのように優しい人ばかりではない。ナエル村のように村ぐるみで旅人を襲う悪いやつも多いのだ。

 そしておっさんは戦うような危険な真似はせずにすぐに逃げるのである。ただし、あのまますませるつもりもない。

「さて、先に宿を確保してから報告に行くとしよう」

 時刻はちょうど日の暮れた時間だ。さっさと宿を確保しないと、街中で野宿する羽目になってしまう。



「こんばんは」

「どうした、何かあったのか?」

 安宿を確保し、街の衛兵がいる場所へとやってきた。

 俺を騙して身ぐるみを剝がそうとしたナエル村のことを報告してやらなければな。俺に戦闘能力はないので、こういった手法を取らせてもらう。

 手慣れていたようだし、おそらく初犯ではないだろう。最初の質問で失踪しても問題ない独り身の旅人かを確認してから身ぐるみを剥ごうとしていたから、これまで発覚していない可能性もあるし、他にあの村を訪れる人の注意喚起にもなる。

 俺は衛兵の人に事情を説明した。

「なるほど、それは調査が必要だな。他にも被害に遭った者がいないかもあわせて調べてみよう」

「よろしくお願いします」

 どうやらまともな衛兵のようだ。街によってはこういった面倒ごとが嫌で話を聞いてくれない衛兵もいるからな。

「それにしても、大勢に囲まれてよくたった一人で逃げ出せたな。見たところ、強いようには見えないが?」

「実はちょっと特別な力が使えるんですよ。見ていてください」

「なっ!?」

「とまあこんな感じで俺は一度行ったことのある場所へ瞬時に移動できるんです」

 瞬間転移スキルを発動し、案内された室内から部屋の外に出て、扉を開けてまた部屋に入る。

 俺よりも若い衛兵の男は口をパクパクさせて驚いていた。

「あと、こっちは俺の身分を保証するものですね」

「こっ、これは! 大変申し訳ございません、すぐに上の者を呼んでまいります!」

「あっ、いや。そこまで大袈裟にしなくても」

 バックパックから出した1枚の書状。こいつはとある縁でこの国の王族からもらった俺の身分を保証すると書かれている書状だ。書状を見た瞬間に若い衛兵さんは部屋を飛び出していった。



「部下の者が大変失礼いたしました!」

 しばらく待つと、あごひげを生やした俺と同年代くらいの男が部屋に入ってくるなり俺に向かって敬礼をしてきた。

「失礼だなんてとんでもない。そちらの方はとても真摯に対応してくれましたよ。いろんな街を訪れてきましたが、この街のように衛兵がしっかりとしている街は良い街が多いですね」

「そ、そう言っていただけまして幸いです。ガクト様に不届きを働いたナエル村にはすぐに兵を送らせて調査させていただきます!」

「ええ、よろしくお願いします。どうやら常習犯のようだったので、他にも被害に遭った者もいるかもしれません。冒険者ギルドの方にはこちらから注意喚起をしておきますので」

「承知いたしました! 我が街の名誉にかけまして、必ずや村の者をひっとらえましょう!」

「……よろしくお願いします」

 こういった権力を使う手段は気が向かないけれど、実際にあの村の者に命を奪われた人もいるかもしれないし、今後同じような被害者を出さないためにも衛兵の人たちには頑張ってもらいたいところだ。

「それにしても一瞬で移動できる魔法があるとはとても驚きました。いやはや、さすがこのネフシア国より身分を保証されているガクト様ですね。この街で王印の入った書状なんて初めて見ましたよ」

「他の魔法は一切使えないし、いろいろと制限があるのでただの半端者ですよ。今は特になにをするわけでもなく、いろんな場所を巡っているだけの旅人です」

 先程の書状には俺の身分を保証することと、瞬間転移スキルのことも書いてある。それにさっきの若い衛兵には目の前で実際に使ったからな。

 ちなみにこの異世界には魔法はあるのだが、女神からもらったスキルというものは俺しか持っていないので魔法ということにしてある。そして俺には魔法適正がないので、魔法は使えない。

 こんなチートなスキルをもらっておいて贅沢なことを言うが、一度は魔法とやらを使ってみたかったものだ。まあ、魔力のない俺にも使える魔道具というものがあるのは助かったが。

「とんでもないです! 今回のような村ぐるみでの事件はなかなか発覚しませんからね。ガクト様のおかげで他の者の被害を未然に防ぐことができました。本当にありがとうございました」

「お役に立てて良かったです」

 衛兵への報告が無事に終わり、先ほど確保した宿へと戻った。

 さすがに睡眠薬入りのご飯で今日を閉めるというのは嫌だったので、宿の酒場で少し飲むとするか。