おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「いやあ~旅の人とは何ヶ月ぶりじゃろう。何もない村ですが、ごゆっくりしていってくだされ」

「ありがとうございます」

 村の中へと入れてもらえ、この村の村長さんの家へと案内される。村長さんは長く白いヒゲを生やしたおじいさんだった。

 それと腕っぷしの強そうな俺と同年代くらいの人が2人ほどいる。これまでいくつかの村を訪れたが、農作業をしている人たちって大抵ムキムキなんだよな。力仕事だし、魔物を狩って生活をしている人が多いから、それも当然なのかもしれない。

「一泊、あるいは二泊させていただきたいのと、その分の食事もいただきたいのですが、おいくらになりますか?」

「いえ、わざわざこんな辺鄙な村まで来てくれたわけですし、それくらいでしたらお代はいりませんよ。旅の疲れを癒していってください」

「………………」

 だいぶ人が良すぎるな。あまりうまい話だと逆に少し警戒度が上がってしまう。人を疑いたくはないが、旅をしているとヤバい人もいるのである。

 そしてその申し出を受けるわけにはいかない。お金にはそれほど困っていないし、対価はしっかりと払わなければな。

「そういうわけにはいきません。お金にそれほど困っているわけではありませんので、遠慮なく受け取ってください」

「いえ、本当にお気になさらず。何もない村ですが、幸い食べる物だけは困っておりませんからのう」

「ですが……」

「それでは対価としてガクトさんの旅の話をみなにしてもらえませぬか? なにぶん辺鄙な場所にある村なので、みなそういった話を聞くのが好きなのですよ」

「ああ、うちのせがれにも旅の話を聞かせてやってくれ」

「俺もぜひ聞きてえな」

「……わかりました。そういうことなら任せておいてください」

 これ以上断るのも野暮というものだ。ありがたくこの村の人たちの厚意に甘えるとしよう。



「視界いっぱいに広がる絶え間なく流れ落ちる白銀の奔流。近くにいるだけで周囲に音が轟いて、水しぶきがそいこら中に舞って、その勢いはまるで地面をズタズタに切り裂く水の刃みたいだった。大自然の前にはひとりの人間なんて本当にちっぽけな物だと改めて考えさせられたよ。あの滝つぼに落ちたりしたら、間違いなく二度と浮かび上がってくることはできないだろうな」

「「「おおお~!」」」

 この村では晩ご飯をみんなで食べるらしく、村の中央に集まっている。俺のことを村のみんなへ紹介され、食事の準備をしている間に旅の話を聞かせてあげたところ、だいぶ好評だった。やはりこういった村の人たちは娯楽話に植えているらしい。

「ふうむ、それほど巨大な滝があるのですな。それに先ほど聞いた火を噴く山やそこから湧き出る温かい風呂があるとは驚きました」

「やっぱり世界は広えんだな!」

「おじちゃん、もっとお話しして~!」

「ああ、任せろ。それじゃあ次は耳の長いエルフという種族に出会った時の話をしてあげよう」

 村にいる子供たちも目を輝かせながら俺の話を聞いてくれている。俺もこれまでしてきた旅の話をするのは楽しいし、これほど喜んでくれるのはとても嬉しい。

「お話はちょっと休憩ね。さあ、晩ご飯ができましたよ」

「ええ~……」

「もっとおじちゃんのお話をききたいなあ」

「あとでまたいくらでもしてあげるよ。おっ、これがこの辺りで採れる『ルミナダケ』ですか!」

 目の前に運ばれたお皿には綺麗な焼き目をした真っ白で30センチメートルほどもある大きなキノコが載っていた。そして薄く切られたルミナダケと野菜の入ったスープのお椀もある。

 元の世界では15センチくらいの大きなキノコを見たことがあるけれど、その倍近くあるキノコは初めて見た。

「ええ。この村の近くでしか採れない珍しいキノコらしいですな。最近では村でも育てることができるようになりました」

「へえ~それはすごいですね。本当に良い香りだ」

 純白の房にほどよく黒い焦げ目が付き、芳醇なキノコの香りが周囲に漂う。

 うん、これは絶対に間違いないやつだ。早くこの大きなキノコをがぶりといきたい。

「それではガクトさんの来訪に乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 持っていた木製のコップを前に突き出して、村のみんなと乾杯をする。中身は普通の水だけれど、今日もひたすら歩いてきて疲れている身体に染みわたった。

「それではいただきます」

 持ってきていたフォークを巨大なルミナダケに突き刺し、口元へと運ぶ。こういうのは上品にナイフで切り分けたりせず、そのまま食べるに限る。まだ白い湯気がたち、アツアツのところへかぶりついた。

「うん、こいつはうまい!!」

 外はとても香ばしく、中は驚くほどジューシーで、まるで肉のような弾力と旨味が口いっぱいに広がった。

 噛むたびに溢れ出す濃厚な出汁のような味わいを目を閉じてゆっくりと味わう。ほんのり焦げた表面の苦みと香ばしさにキノコ独特の深いコクが絶妙に絡み合い、塩だけのシンプルな味付けがルミナダケの旨さを際立たせている。

 椎茸にあるようなキノコ特有の風味が少ないから、これならキノコ嫌いの人でもおいしく食べられるかもしれない。

「……こっちもすごいな。キノコの旨みが凝縮しているぞ。こいつは最高の出汁になりそうだ」

 続いてキノコのスープへと手を伸ばす。

 透明なスープからは考えられないほどの濃厚な味わいが舌へと伝わってくる。それに加えて他の野菜の味もうまく混ざり合って、本当に上質な味になっていた。

「気に入っていただけたようでなによりです」

「はい、これは本当においしいですね!」

 俺が普段使っているキノコよりも一段上の味である。こいつは久しぶりの大当たりだ。

 旅をしていると、稀にこういった食材や料理に出会うことがあるからたまらないんだよなあ!

 さて、こんなうまいキノコに出会ったのなら、やはりあれの出番だ。