おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「夕焼けに染まったこの景色も実に美しいな」

 時刻は夕方。今日はミロネス塩湖のミロネス山の麓で野営をすることにした。イスに座って真っ白な地平線に夕日がゆっくりと落ちていく光景を見守っている。

 空は燃えるようなオレンジと深い紫に染まり、その色彩が白色の表面に映り込む。夕日の光が細かな結晶の隙間に差し込み、きらきらと散乱しながら柔らかな光の帯を織りなす。

 太陽が地平線に近付くにつれ、まるで真っ赤な液体が流れているかのようだ。空と白い大地が溶け合う境界線は曖昧になり、まるでこの世の果てに立っているかのような錯覚に陥る。

 俺の陳腐な言葉では表現できないほど美しい光景が俺の目の前に広がっている。

「もしもカメラのような物があれば、この一瞬を切り取ることができるのだが残念だ。まあ、俺の場合はまたいつでも戻ってくることができるからな」

 前世でも旅をしている間はたくさんの写真を撮ってきたし、旅をしている最中にそれを仕事にしている写真家にも出会ってきた。今の一瞬を切り取って一枚の写真として残し、多くの人に見てもらいたいと思う気持ちもよくわかる。

 この世界でもカメラがあればよかったのだが、そういった物はないようだ。だからこそ、この一瞬をしっかりと心に刻んでいきたいものだ。



「……夜は夜ですごい光景だな」

 日が暮れて周囲は真っ暗になった。

 今日は少し雲が出ているが、その隙間から美しい星空が見え隠れする。

 そして何より、先ほどまでその辺りにあった色とりどりの結晶が淡く発光していた。いったいどんな仕組みでそうなっているのか分からないがとにかく綺麗だ。明るいところで光を蓄えて、暗いところで発行する蛍光塗料みたいなものもあったし、その類のものかもしれない。蛍が光るのもそうだけれど、不思議な現象もあるものだな。

 星空と真っ白な地面と瞬く結晶。そのすべてが合わさると、今まで見たことがない幻想的な光景となった。

「観光客が多くなるとこういった景色が汚されてしまうから難しいところだよなあ。やっぱりこの場所はレビューには書かないようにしておこう」

 一人でこの景色を見ていると常々思う。今はゴミひとつない美しい光景だが、人が集まってくれば来るほど、マナーの悪い客も増えていくものだからな。中にはミロネス塩湖から持ち出し禁止の塩やこの結晶を勝手に持ち出す者も出てくるだろう。

 特にここは広くて管理が難しそうだ。この場所は他の人には秘密にしておくとするか。

 本当ならばこの景色は独り占めするのではなく他の者と共有したいところだが、こればかりは仕方がない。とはいえ、せっかのこの場所のことは誰かに話したいし、話しても問題ない女神やニッグにだけ話すとしよう。

 旅人は出会ったおいしい料理やすばらしい光景を語りたいものなのである。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「よし、これでここにはいつでも来られることだし、次の場所へ進むしよう」

 翌日、野営道具やキックボードをバックパックに収納し、ミロネス塩湖の入り口近くまで転移する。本当にすばらしい場所だったし、今度ニッグと会った時に改めてお礼を伝えるとしよう。

 無事に検査を受けて通ることができた。これでしっかりと俺がこのミロネス塩湖から出たとして記録が残る。ぶっちゃけ瞬間転移スキルを使えばいくらでも塩を持ち出すことはできるのだが、そういったマナー違反はなしだ。

 とはいえ、あともうひとつだけ見たいものがあるので、後ほどこっそりとお邪魔させてもらうとしよう。



「ぷはあ~一仕事終えたあとの酒はうめえな!」

「ああ、この瞬間がたまらないよ」

「まったく、明日も依頼を受けるんだから、ほどほどにしておきなさいよね」

「相変わらずみんないい飲みっぷりだ」

 ミロネスの街のとある酒場。先日乗合馬車で知り合った冒険者のヴァルドたちと酒を飲んでいる。

 ミロネス塩湖を観光してきてから、街の近くまで瞬間転移スキルで戻ってきた。この街の市場での買い物を楽しみ、ふと先日出会ったヴァルドたちが気になって冒険者ギルドを覗いてみたら、ちょうど3人を見つけることができたので酒に誘ってみた。

 さすがに乗合馬車の方はもう出発していたが。

「例のブラウンウルフの群れの討伐依頼を達成してくれたんだってな。本当に俺たちが旅をしたり街を移動できるのはみんなのような冒険者のおかげでもあるよ」

 この街へ来る時に遭遇したブラウンウルフの群れ。結構な数だったこともあり、どうやらあのあと冒険者に正式に討伐依頼が出されたらしい。そしてその依頼は複数の冒険者パーティによって達成され、その中にヴァルドたちのパーティも参加してくれたみたいだ。

 冒険者たちがこうして危険な魔物を狩ってくれるおかげで、俺たちがより安全に移動ができるというものだ。