おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「……何と綺麗な星空でしょう。これほど美しい夜空は初めて見ました」

 晩ご飯を食べ終えて周囲はもう真っ暗だ。

 暗くなっていた明かりの魔導具を切ると、周囲は完全な暗闇に包まれた。周囲を護衛してくれている女騎士の皆さんには悪いけれど、少しの間だけ我慢してもらっている。

 明かりを消して暗闇にしばらく目を慣らしてもらってから空を見上げてもらうと、漆黒の布に無数のダイヤモンドを散りばめたような美しい星空が広がっていた。

「どうしても王城の周りは明るいからな。それに山の上の方が空気は澄んでいて空が綺麗に見えるんだよ」

 王都には魔道具を使った明かりがあり、特に王城の周りでは夜でも比較的明るいこともあって、星空があまりよく見えない。

 そして標高が高くなるほど空気の影響が少なくなり、より星空が綺麗に見えるのだ。まあ、これくらいの高さの山じゃそこまで変わらないかもしれないがな。

 前世では夜も電灯があって明るくて助かるのだが、代わりにこういった美しい夜空は郊外へ行かないと見られなくなってしまった。今のように肉眼でも天の川がはっきりと見るのは難しいだろう。

 もちろんここは異世界なので、星座は元の世界とまったく異なるぞ。

「確かにこの夜空は王都では見ることができませんね。あとは後ろがもっと柔らかければ言うことなしだったのですが……」

「そこは屋外ということで勘弁してくれ」

 現在はシートの上にクッションを置いて寝転がっているのだが、残念ながら普通のベッドよりも寝心地はイマイチだ。

「それにしても、本当に……綺麗で……」

 自然と閉じていくまぶたを見開いて、ブンブンと首を振るカトレア。

「今日はだいぶ疲れただろう。今日見せたかったものはこれで全部だから、このまま寝てしまってもいいからな」

「い、いえ! 私はもっとガクト様と……お話が……」

 そう言いながらもだんだんとまぶたが重くなっていくカトレア。

 朝からハイキングをして海で遊んでおいしいものを食べてと、一日中忙しかったあと横になったからそれも当然だ。大人びていてもまだ子供だからな。

「す~す~」

 しばらくすると、すぐに可愛らしい寝息を立てて眠り始めた。

「寝ちゃったか。ちょうど時間だし、そろそろ王城まで移動しようか」

「はい、承知しました。きっと明日目が覚めたら、ガクト様にご挨拶ができないことを残念がるでしょうね」

 後片付けは簡単にすましておいてここまで来る時と同様にみんなに手を繋いでもらいで瞬間転移スキルを使って王城の前まで帰還した。カトレアからの依頼はどちらにせよ日帰りである。

 寝ているカトレアはシヴィさんが抱き抱えつつ、もう片方の手で他の騎士さんの手を握って転移した。

 王城の前では他の騎士の人たちが待っていた。相変わらずこの瞬間はなにか悪いことをしたわけでもないのに緊張してしまう。威圧感がものすごいんだよ……

「それではこれで依頼は完了ですね。残りの依頼料の方は商業ギルドにてお受け取りをお願いいたします。本日もありがとうございました」

「了解です。こちらこそいつもありがとうございます」

「……姫様もだいぶ楽しんでおられたようだし、それについては感謝する。そして今日の料理も悪くはなかった」

「それはなによりです。では俺はこれにて失礼します」

 無事にカトレアたちを王城へと連れていき依頼が完了したので、早々に瞬間転移スキルを使って先日から泊っている宿の部屋へ転移した。



「ふう~これにて依頼完了っと。この依頼は俺もそこそこ楽しめるんだが、毎回緊張してしまうな」

 大丈夫だとは思うが、カトレアに何かあったとしたら俺もその責任を負ってしまいそうだ。依頼料は高く、俺も楽しみつつ案内をできるのはいいが、それだけが心配である。

 あれだけの屈強な騎士たちを前にすると、つい敬語に戻ってしまうぞ。

「少なくとも今回は以前よりも喜んでいたようだから問題なさそうか。シヴィさんもあの反応なら喜んでいたみたいだな」

 シヴィさんの反応はあれでもだいぶ良くなってきたほうである。最初は俺に対して本当に敵意がむき出しだったもんなあ。

 まあ、日々鍛えている騎士の人たちからしたら、何の努力もせずにふらふらと旅をしている俺を快く思わないのもわからなくない。

「さて、明日は商業ギルドへ寄って依頼料を受け取ってから、市場でいろいろと買いものをしていくとしよう」

 すでにニッグから受け取った資料を読んで次の目的地は決めてある。

 王都へ来た日にざっと欲しいものに目星をつけておいた。買い物をしてからそのまま王都から出発するとしよう。