因習と春一番


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 三月二十二日。あの日、度胸試しの橋渡りをクリアした僕たちは家に帰り、神妙に過ごした。夜になると交代で寝て、二十三日の朝を迎えた。

 春彼岸の最後の日、三月二十三日。ちょっと格好よく言うと、運命の審判が下る日。そのまんま言うと、死ぬかもしれないやばい日。

 結論から言うと、なにも起きなかった。

 何事もなく、【なにか】に殺されることもなく翌日の二十四日の朝を迎えた。

「──保科が猿千村の村人だって認められたんだ」

 と、犬塚はまだ喜んでいいものかどうか悩んでいるみたいな、半信半疑の顔をして言った。ぬか喜びをして油断したところに【なにか】が現れるんじゃないかって、午前中はずっとふたりでびくびくしながらぎこちなく過ごしていた。
 でも午後になってもなにも起こらない。そこでやっと本当に大丈夫なんだと思えて、犬塚と抱き合って喜ぶことができた。バレーの試合に勝ったときも、たぶん犬塚はあんな風にチームメイトと力いっぱい抱き合って喜ぶんだろうな。きっと。

 いいことはそれだけじゃ終わらなかった。帰り支度をしているとショーマがやってきて、行方不明になっていたハシバ家のおじさんが見つかったと教えてくれた。
 猿千村の滝のそばで倒れているところを村の人に朝見つけられたんだという。おじさんは怪我もなく元気でぴんぴんしているものの、どうやって村まで帰ってきたのかとか、なぜ倒れていたのかは記憶にないと話しているらしい。

 どうしてハシバさんが戻ってこれたのか。度胸試しが効いて僕が村の人間として認められたんだとしても、ハシバさんには関係がないはずなのに。

 その理由について犬塚は、僕が村の住人として認められたからじゃないか、と考察していた。

 猿千村という限界集落で、年々人が減り続けているなかで僕という村人がひとり増えた。村に棲む【なにか】にとってそれは喜ばしいことのはずだ。犬塚が村の外から人を連れてきて、村の住人に加えた──そんな風に【なにか】には見えたんじゃないか。だから犬塚のその働きを評価して、見返りとしておじさんの命は奪わずに戻した。──犬塚の考えはだいたいそんな感じだ。

 犬塚の考えが正しいのか、それともただ気まぐれに命を助けたのか。真相は闇の中だけど、とにかく今回だけは見逃してもらえたことだけはたしかなようだった。僕も、ハシバさんも。

 そういうわけで、二十四日に僕らはショーマたちに別れを告げて、なんとか東京へと帰った。
 そして今日、二十五日の修了式に滑り込みセーフで参加することができたのだった。