
熱っぽい。喉も痛いし、関節もだるい。けど梅谷は「大丈夫」と言い張って、無理やり出勤して案の定ダウンした。夕方にはフラフラになって早退。家に帰る頃にはまともに歩くのもやっとだった。玄関でスーツを脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込んだところで、意識は途切れる。その後、どうやってベッドに行ったのかまるで覚えてない。
……ピンポーン。
突然のインターホンの音で目を覚ました。時計を見ると、夜の9時すぎ。寝ていたせいか、体温はさらに上がっていた。ふらふらと玄関に向かうと、ドアの向こうから聞き慣れた声がした。
「おーい、生きてるか? 梅谷?」
ドアを開けると、コンビニ袋を提げた南が立っていた。
「……なんで、お前……」
「LINE全然返ってけーへんし、電話も出ぇへんし。なんか変やなって思って」
梅谷は返す気力もなく、そのまま壁にもたれかかる。
「はぁ……」
「おいおい、大丈夫か。……って、めっちゃ熱あるやん。買ってきて正解やったわ」
ずかずかと部屋に上がり込み、手際よく冷えピタを貼り、ポカリを用意し、レンジでお粥を温め始める南。
「……お前、なんや、看病慣れしてんな」
「まぁ、前にルームシェアしてた奴がよく体調崩しててな」
ぽそっと言う南の声が、いつもより柔らかくて、妙に耳に残る。梅谷はいつの間にかベッドに戻され、毛布をかけられていた。
「……なんで、そんなん、優しくすんねん」
「は?」
「今さら……優しくされたら……混乱するやんけ」
そう言った瞬間、梅谷の声が震えているのに気づいた。自分でも、止められなかった。
熱のせいか、心の奥の堤防がゆるくなっている。南は驚いたように目を見開いたが、すぐにふっと笑った。
「アホやな。風邪ひいてるときぐらい、誰かに甘えてええねんで」
「……甘えてへん」
「めっちゃ甘えてる顔してるけどな」
そう言いながら、冷たいタオルで頬を拭いてくれる。南の手が、ひんやりしていて、でもあたたかくて。その感触が、やたらと心に沁みた。
「南……お前、なにがしたいねん」
「さあなあ。でも……放っとかれへんねん、お前のこと」
南はそれ以上、何も言わなかった。けれど、南の声はどこまでも優しくて、その優しさに甘えてしまいそうな自分が、悔しかった。
To be continued

