
……夜10時過ぎ。居酒屋を出て、駅までの道を3人で歩く。
「今日はありがとな〜、梅谷くん。ほんま助かりました!」
「……ああ、別に」
女の子は南に手を振って、改札の方へ消えていった。残された2人はなんとなく、歩くペースが合わない。
「なあ、なんか怒ってる?」
唐突に南が聞いてくる。
「なんも怒ってへん」
梅谷は前を見たまま、ぶっきらぼうに返す。でも、声のトーンと、歩き方と、雰囲気と、全部が『怒ってる』と叫んでいる。
「……ふーん」
少しの沈黙。夜風が少し冷たい。
「ちなみに、さっきの子な」
「……」
「彼氏、おんで」
「……は?」
梅谷がちらっと横を見る。
「言ってへんかったけど。俺とあきな、そういうのちゃうで。今も昔もな
「ふぅん……」
そう言ってから、また少し間を置いて、ふいに梅谷は顔を背けた。
「だからなんやねん」
南が少しだけ、顔をのぞき込むようにして聞いてくる。
「気にしてるんかなぁと思ってな」
「……なんで俺が気にするねん」
「ま、そうやんな」
また沈黙。でも、さっきよりも少し、静かな。駅のホームに着いた頃には、電車の発車アナウンスが流れていた。
「じゃあ、またな」
そう言って、南は軽く手を振る。
「……あぁ」
梅谷も手をあげる。でもその瞬間、ふいに南が振り返った。
「梅谷」
「……なんや」
「俺な、お前のこと……わりと、大事やと思ってる」
「……」
「じゃあ、ほんまに。またな」
梅谷が何かを言いかけたときには、もう南の姿は人混みに紛れていた。その夜、家に帰っても、梅谷の頭の中には南の声がずっと残っていた。
(……なんやねん、あいつ。そんなこと、軽く言うなや)
でも、その一言に、少しだけ救われた気がしていた。
To be continued

