
「すんませーん、ここって部屋探せるとこやんな?」
カラン、とドアのベルが鳴った瞬間、その声を聞いて梅谷悠音の動きが止まった。頭では誰かの空耳やろ、と思ったけど視線を上げると、そこにいたのは……
「……は?」
「おっ、ほんまにおった! 梅谷やん!」
緑の髪、軽そうな口調、そして変わらないあの笑顔。南春馬がカウンターに立っていた。
「……なんでお前が、ここに来んねん」
「えー、俺、引っ越ししようと思っててん。ちょっと広めで、オートロックあるとこ探しててな」
「……一人暮らしでオートロックとか、必要ないやろ」
「そやけどなー、最近ちょっと怖いことあって。あと荷物増えてん」
「ふーん」
梅谷の頭の中に、知らん女の影がチラつく。寝起きにパンケーキ焼く系の女とか?冷蔵庫に水出しの紅茶とか作ってるタイプか?
「おーい、梅谷〜、この部屋とかどう思う?」
「あ? なんで俺に聞くねん」
「え、担当ちゃうん?」
「ちゃうわボケ。他のスタッフおるやろ」
南は笑いながら言った。
「いや〜でも、梅谷が案内してくれたほうが安心するやん。お前、めっちゃ真面目にやってるっぽいし」
(……なんやそれ)
真面目って、馬鹿にされたんかと思った瞬間、続けて南はこう言った。
「お前みたいなんが不動産やってるとこ、安心できるやん」
(……素直に褒めんな。心臓に悪いねん)
「……真面目で悪かったな」
そう言って、梅谷はそっぽを向いた。その頬は、じんわり熱かった。
数日後。休憩中にスマホを眺めながら、ふと思う。あの日のキスは、やっぱり夢みたいやった。南は、何も変わらん。こっちは仕返しや!ってイキってキスして、勝ったつもりやったのに……。
(なんやねん……。なんで、なんもなかった顔してんねん)
少しだけ、期待してた自分がアホみたいや。でも、避けられへんかっただけで、ホッとしたんも本音で。
「……めんどくさ」
自分の心に向かって、そう呟いた梅谷だった。
To be continued
