
朝日が差し込む部屋で、梅谷はゆっくりとまぶたを開けた。喉の痛みも、体のだるさも、ずいぶんと軽くなっている。ぼんやりと天井を見つめながら体を起こすと、視界の端に人の気配。
……南が、ベッドの横で眠っていた。リビングのソファではなく、床にそのまま毛布をかぶって。無防備な寝顔を見て、梅谷は思わずふっと笑ってしまう。
「……風邪、うつるかもやのに」
そのまま、そっと南の髪を撫でた。手のひらが、少しだけ震えていた。
「……ありがとな」
その瞬間、南が目を覚ました。
「ん……あ、起きたん? 体調どないや?」
「……あぁ。おかげさまで、熱は下がったみたいや」
そう答えながら、梅谷は気恥ずかしさをごまかすように目を逸らす。
「そら良かったわ」
南が笑って、いつも通りの声でそう言った。梅谷は、少し躊躇ってから、ぽつりと口にする。
「南……ありがとう」
小さなその言葉に、南はわずかに目を見開いたが、すぐに穏やかに微笑んだ。
「かまへんって。こういう時はお互い様やろ?」
その声に、また心が揺れた。
(なんで、こんなふうに優しくされると、しんどくなるんやろう)
着替えて出勤の準備をする梅谷の背中を、南はソファに座りながら見つめていた。
「なぁ、梅谷」
「……ん?」
「俺の気のせいかもしれんけど……なんでそんな、壁作るん?」
一瞬、梅谷のボタンをとめる手が止まる。
「別に……作ってへん、けど」
「じゃあ、なんで、そんなふうに俺を遠ざけるん……?」
沈黙が落ちた。梅谷は何も言い返さずに、ネクタイを結び終える。
……でも、心の中では、確かに何かが揺れていた。それが恋だと、まだはっきり自覚できないまま。
To be continued

