
あれは、梅谷悠音にとって忘れられない夜だった。
「なあ、梅谷~、今でもあのメガネかけてんの~?」
酔っぱらった南春馬が、昔と変わらない調子で絡んでくる。高校の同窓会で6年ぶりの再会。ふざけた言葉とは裏腹に、緑色の髪に光るピアス、都会っぽい雰囲気に梅谷は内心ドキッとしていた。
「うるさいな。見た目だけチャラくなって、中身は全然変わってへんやん」
「えー、俺、イケてるやろ?人気ピン芸人やねんで、大阪で」
「はぁ?」
「なあ、梅谷、昔おもろかったよな〜。お前、怒るとこまでがおもろいねん」
酔いが回ってきた南が急に近づいてきて、梅谷の肩に手を置く。
「……近いっちゅうねん。酔いすぎやろ」
「なーんか、安心すんねん。お前見てると」
——ドクン。
梅谷は心臓が跳ねたのが自分でもわかった。
そして夜も更け、気付けば南は潰れていた。とあるホテルに酔いつぶれた南を担ぎ込んだのはいいが……。帰ろうとする梅谷の手首を、ソファで寝転がったまま掴んでくる。
「……帰らんといて、梅谷。ここ、おって」
その声が、あまりに寂しそうで。高校の頃と同じ声で、自分の名前を呼ばれて、胸がぎゅっと締め付けられた。
◇◇◇◇◇翌朝◇◇◇◇◇
「………は?」
窓から差し込む明かりで、今の時刻が朝なんだと教えてくれる。薄暗い部屋の中、パンツ一枚で目が覚めた南は、今の状況に軽くパニックだ。
(あれ? ここ、ラブ……ホ? ってか俺、裸やん! なんで? なんも思い出されへん!)
頭を抱えてぐるぐると混乱していると、もぞっと布団が動き人の気配を感じた。
(え? え? まって、誰?)
布団の中で寝返りを打ったその相手は南もよく知る人だった。
(あれ………男!? って、う……梅谷?)
昨日の同窓会に参加していた梅谷。そんなに仲は良くなかったはず……やのに、なんでこうなった。
(あかん、頭痛くてなんも考えられへん………ていうか女の子でもないやん、なんでやねん。昨日の俺はどないしてん!)
なにも思い出せない記憶に南の頭はショート寸前。そうしているうちに梅谷がもぞもぞと身じろいでゆっくりと眠りの世界から目が覚めた。
「……もう起きていたのか、早いな」
「お、おぅ………お、おはよう梅谷! うわ、昨日俺、ちょっと飲みすぎたかも。なーんか記憶ないねんけど、俺なんかやらかした?」
南は悪びれた様子もなく笑っている。
「……なんもない。全部、夢やったんやろ」
「え、なになに、意味深やなあ~」
「アホか」
普段は眼鏡をかけているはずの梅谷が眼鏡を外している。同級生の意外な一面を見て親近感が沸いた。だけど、上半身裸だった。
(裸ぁぁーーーー!? ヤってもうたんか!? いやいやいやいや、男相手にそれはないか………って、なーんも思い出されへん!! どないしよー!?)
なんとか平静を装ってはいるが、冷や汗が止まらない南。
「あ、あの……梅、谷……?」
「……どうせ、覚えてへんねんやろ?」
「え?」
その一言と同時に、梅谷は南の胸元をつかみ、グッと顔を寄せて、唇を奪った。一瞬のことで、南は目を丸くする。
(え? は? キス………されてる?)
ぐるぐると回る見えない砂時計に本日二度目のパニック。触れた唇から梅谷の熱を感じ始めたころ、ようやく南は状況を把握した。思いのほか柔らかいその感触に一気に頬が熱くなった。
「ん、んん……」
どうしていいか分からず戸惑う南に梅谷は両手で頬を包み逃げられないように抑え込む。僅かな隙間から舌を滑り込ませて南の口内を一通り巡ると満足したように唇を離した。
「はぁっ……え、なん………?」
「今のもどうせ夢や。二度と思い出すなや」
梅谷は背を向けて、さっさとドアを開けて出て行った。残された南は、ぽかんと立ち尽くすだけだった。
To be continued
