夏の夜にキミと2人で

 暗闇の中の校舎、優斗と結生は一休みするため自分たちの教室に向かうことにした。2階以上から飛び降りるわけにはいかないが、全ての教室を巡り窓から出られないか確かめてみた。結果、どの窓も最初のものと同じく鍵はびくともしなかった。

 「やっぱ呪いなのかな……」

 自分の席に座った優斗がポツリとこぼす。

 「現実的にはありえないけど……実際に閉じ込められてるからなぁ…」

 椅子に横向きに座った結生が、優斗の机で頬杖をつきながら答える。視線の先の廊下は、蛍光灯で煌々と照されている。待ち合わせをした時、校舎に明かりは1つもついていなかった。

 (窓から入った時、すでに廊下の電気がついてたんだよな……)

 いくつもの奇妙な点がじわじわと不安を煽ったが、結生は口を噤んだ。

 「茂木もどこに行ったのか分からないし……あっ!茂木に連絡してみれば良いんじゃね?!」

 外に出ることに全ての意識を向けていたため、スマホを使って連絡を取るという手段が完全に頭から抜け落ちていた。ガタッと立ち上がった優斗は、慌ててスマホを取り出しホーム画面を開く。そして、メッセージアプリを起動しようと画面をタップした。

 「圏外………」

 今まで、学校にいて圏外になったことなど1度もない。

 「待て、圏外でもSMSなら衛星通信で送れるはずだ」

 「そうなのか?!何かよく分からないけど、すごいな!!」

 優斗が目を輝かせる。その視線を受け、同じように立ち上がった結生は衛星経由で茂木にメッセージを送った。

 「とりあえず、今どこにいるのか聞いてみた」

 ブブッとスマホが振動し、メッセージの受信を知らせる。しかし、そこに表示されていたのは茂木ではなく椎名の名前だった。

 (椎名…?椎名の連絡先なんて入れてたか…?)

 不審に思いながらも、結生は送られてきたメッセージを開く。



 『髻ウ讌ス螳、縺ォ陦後▲縺ヲ荳九&縺�€�
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 「なんっ……だ、これ……」

 表示された文章に、結生は思わず身を固くする。

 「結生…?」

 見たことのない結生の表情に、優斗は奪い取るような勢いでスマホの画面を覗く。

 「文字化けしてる…?これ茂木から送られてきたのか?」

 「いや……メッセージは茂木に送ったんだけど…椎名から送られてきた…」
 
 「椎名……?」

 確かに一緒に肝試しをする約束はしたが、結生が椎名と個人的に仲良くしている印象はなかった。

 「連絡先…交換してたのか?椎名と…」

 「いや……オレも表示された名前を見て引っかかったんだけど、椎名の連絡先なんて入れた覚えないんだよ……」

 結生の顔が青ざめ、スマホを持つ手がカタカタと震える。それを見た優斗は結生の手からスマホを抜き取り、自身のポケットにしまい込む。そして自分よりも大きな身体をギュッと抱きしめ、背中をポンポンと優しく叩いた。

 「大丈夫、結生のことはオレが絶対に守るから」

 「優斗……」

 力強く見上げる瞳に、ほっと身体の力が抜けるのを感じた。

 「ほんと、優斗には敵わないな…」

 結生は柔らかな笑みを浮かべ、もう大丈夫だと優斗の背中を軽く叩く。

 「歩き回って少し疲れたし、そのお菓子食べない?」

 結生は机の上に置かれた紙袋を指差す。

 「そうだな!いや〜手土産を持たせてくれた母さんに感謝だな〜」

 優斗は席に着くと丁寧に包装紙を外し、出てきたお菓子の箱をパカッと開ける。

 「あ!これ、結生が好きなやつじゃん!」

 弾けるような笑顔を向け、同じように座った結生にお菓子を手渡す。

 「流石だなぁ……今度ちゃんとお礼を言わないと」

 「はは、母さん昔から結生のこと大好きだから喜ぶよ。まぁ、それはオレも同じだけど」

 「え」

 驚いて顔を上げると、優斗は袋から取り出したお菓子を美味しそうに頬張っていた。

 「どうした?食べないのか?」

 「あ、いや……いただくよ。ありがとう」

 心臓の音が優斗に聞こえているのではないかと思うほど、全身がドクドクと脈打つ。
 大好きなはずのお菓子の味は、あまりよく分からなかった。


 「さてと──」

 お菓子を食べながら話し合った結果、2人は予定通り肝試しをすることに決めた。

 「あの文字化けしたメッセージは解読できないけど、茂木が話してた怪談の真相を確かめるしかないよな…」

 「まずは音楽室だっけ」

 2人は席を立ち、明るい廊下に向かう。
 残ったお菓子は荷物になるため、ひとまず教室に置いていくことにした。