夏の夜にキミと2人で

 時刻は夜8時、校舎の時計の針が4人の待ち合わせの時間を指している。通常なら窓も含めて全ての出入り口が施錠されているのだが、数日前から1階の窓の鍵が1つだけ壊れているという話を茂木がたまたま知っていた。

 「部品を取り寄せないといけないとかで、すぐには直せなかったらしいぜ。ツイてるよな!」

 3人は窓を開け、順番にサッシに手をかけ器用に靴を脱ぎながら校内に忍び込む。

 「うわ、やべ!」

 「どうしたんだよ、茂木」

 「いや〜靴が片方落ちて……すぐ拾って戻るから、ちょっと待っててくれ」

 「早くしろよー。結生、茂木が靴を落としたらしいから、ちょっと待ってー」

 「何やってるんだよ、早く上靴履きたいんだけど……」

 靴下を履いているとはいえ、廊下の床はひんやりと冷えていて足元から熱を奪っていく。

 「結生の足が冷えちゃうから早く──あれ、茂木?」

 早くしろと急かしながら振り返ると、そこに茂木の姿はなかった。

 「茂木ー早くしないと誰かに見られ……」

 窓の外にいる茂木に声を掛けようと近付くと、さっきまで開いていたはずの窓が閉まっていた。

 「優斗、どうかした?」

 「いや……」

 「どこまで靴を取りに行ったんだ……ていうか、何で窓が閉まってるんだ……?」

 怪訝な顔をしながら、結生は靴を持っていない方の手で窓を開けようとした。が、窓は動かなかった。

 「あれ、この窓じゃなかったか……」

 結生が施錠された窓に目をやり、隣の窓を確認する。すると隣の窓も、きちんと施錠されていた。

 「え……」

 急いで反対側の窓を確認するも、同じく施錠されている。

 「……念のため聞くけど、優斗は窓を閉めてないよな?」

 「しっ閉めてない!」

 優斗はブンブンと首を振る。瞬間、結生は手に待っていた靴を床に放り投げ、急いで窓の鍵を開けようとした。しかし鍵はびくともしなかった。

 「…………優斗、こっち」

 床に放り投げた靴を拾い、優斗の手を引き昇降口の方にズンズンと進む。

 「ゆ、結生……?」

 優斗は瞳に困惑の色を浮かべながらも、引かれるがまま結生の後を追う。昇降口に辿り着き、乱暴に靴を履いた結生は無言のまま入り口の鍵を開ける。カチッという音にほっと胸を撫で下ろし、ドアを開けて外に出ようとした……が、どういうことか全く動かなかった。そのまま全ての鍵を開けたが、外に出られることはなかった。

 「はー…………マジか…………」

 結生はドアの前でしゃがみ込み、くしゃりと頭を抱えた。

 「ゆ、結生……」

 「あ……大丈夫、壊れてるだけだろうから別な場所から出よう」

 結生は無理やり作った笑顔を向ける。

 「いや、外が……さ。真っ暗だなって……」

 「え?」

 そりゃ夜なんだから当たり前だろうと、ドアの向こうに目をやると優斗が言う通り暗闇が広がっていた。街灯も周りの建物も全ての明かりが消え、月も厚い雲に姿を隠されている。

 「停電、かな……」

 「いや……それならここも電気が消えてるはずだ」

 「…………」

 「とりあえず上靴に履き替えて、もう1回他の窓を確認してみよう」

 「そう、だな……そうしよう!」

 優斗は明るく答え、自身の靴箱に向かった。結生も同じように上靴を履き、手に持っていた靴をしまう。そして改めて他の窓から出られないか確かめたが、そのどれも開くことはなかった。


 ***

 時を同じくして夜8時、椎名は自室で深い溜息をついていた。
 視線の先のスマホの画面には、茂木から送られてきたメッセージが表示されている。夜の学校で肝試しをしようとしていることが親にバレて、こっぴどく叱られ外出禁止令を出されたらしい。肝試しをせずに済んだのは良かったが……椎名はチラリと机の上の時計に目をやる。

 「DXチーズメンチカツサンド食べたかったなー……」

 ずるずると机の上に突っ伏し、また1つ深い溜息をつく。15秒ほどそのまま落ち込んでいたが、このまま既読無視しているわけにもいかない。椎名は力無く上体を起こし、肝試し中止を告げるメッセージに返信した──……