○前回の続きから
鬼怒江M「これは……」
じり、と距離を測る鬼怒江。
鬼怒江「上手く姿を隠したつもりでありましょうが……私の目は欺けませぬ」
鬼怒江の手からパッと桜吹雪が放たれ、伊南子に巻き付く。
すると伊南子の体から黒い靄が抜け出て、あやかしの姿となる。
あやかし「ひひっ、失敗!」
目の吊り上がったあやかしが、ケタケタと笑う。
あやかし「妙な術を使うな? 次はお前に憑いてやろう!」
牙を剥き出しにし、鬼怒江に飛びかかるあゆかし。
鬼怒江は彼を冷たい目で一瞥する。
鬼怒江「花術、【赫灼】」
赤い彼岸花が鬼怒江の手のひらに現れる。
鬼怒江が花を放ると、それは炎となってあやかしを包み込む。
あやかし「はっ? ア、あああああっ!?」
断末魔の悲鳴を上げ、あっという間に燃え尽きるあやかし。
あやかしの塵すら消えていく中、鬼怒江は倒れている伊南子の元に行き、彼女の傍にしゃがむ。
伊南子「う……」
小さくうめき声を出す伊南子。
気絶しているが、大きな怪我は無い。
ホッと安堵の息を吐く鬼怒江。
次いで彼女は、あやかしの居た方を見る。
鬼怒江M「仇のことは聞けなかったが、致し方ない。万に一つも、伊南子を死なせるわけにはいかない」
志瑛「絹枝殿!」
走って駆け付ける志瑛。
傍らには紙切れのような式神も居る。
志瑛「あやかしは……? 君の義姉に憑いていたのか」
辺りを見回し、それから伊南子の存在に気付く志瑛。
鬼怒江「はい。ですが悪戯目的だったようです。私が憑依を見抜くと、すぐに逃げてゆきました」
志瑛「そうか、大事なくて良かった」
膝を付き、少し乱れた鬼怒江の服を直してやる志瑛。
鬼怒江は改めて、伊南子を見下ろす。
鬼怒江M「愚かな人間だ。誰も招くなと言ったのに……。大方、私への悪感情を利用されたのだろう」
○数日後・奉行所・昼
奉行所に集まる人々。
無表情の鬼怒江、やや険しい顔の志瑛、茣蓙の上に座らされており青ざめている伊南子・義母・父親、が順に映される。
奉行「……以上の罪状に加え、そなたらは娘である二ノ宮絹枝を虐げていたという話がある」
蛇腹折りにした紙を広げ、その内容を読み上げる厳めしい奉行。
奉行「それが真実なら、罪は更に重くなるが」
そう言って奉行は紙を少し下ろし、鋭い目つきで伊南子たちを見る。
伊南子「ち、違います! 嘘ですわ、そんな話! 私たちは絹枝を大切に、可愛がってきました!」
義母「呪具のことも、全部何かの間違いです! 私たちは無実で、何者かの悪意に貶められただけで!」
慌てて弁明しようとする伊南子と義母。
父親も隣で必死に頷いている。
伊南子「ねえ、そうでしょう絹枝!」
名を呼ばれ、ぴくりと反応する鬼怒江。
義母「わかっているでしょうね!? 私たちは、あなたを大事に育ててきたのよ!」
伊南子「仲良しだったものね、私たち! ね?」
父親「私たちの愛情と、その義理に応えておくれ、絹枝!」
口々に助けを求める3人。
鬼怒江M「義理……」
冷ややかな目で彼らを見る鬼怒江。
鬼怒江の視点では、3人の声が遠くに聞こえる。(※全く心に響いていない。)
奉行「証人、彼らの主張は真か」
冷静に、鬼怒江に証言を求める奉行。
鬼怒江「その者たちは……」
口を開く鬼怒江。
縋るような表情で鬼怒江を見る伊南子たち。
目を閉じる鬼怒江。
鬼怒江「彼らは私を不当に閉じ込め、虐げてきました」
きっぱりと言い放つ鬼怒江。
伊南子たちは絶望の表情。
鬼怒江「数々の疑いについても、すべて事実です。彼らは自覚的に、悪意を持って、罪を犯していました」
伊南子「こっ……!」
わなわなと震える伊南子。
伊南子「この、恩知らずが!!」
鬼怒江に飛びかかろうとする伊南子。
奉行「罪人を取り押さえよ!」
すかさず奉行が役人に命じる。
役人数名がかりで取り押さえられるも、伊南子はなお喚き暴れる。
その様子を、やはり冷淡に眺める鬼怒江。
志瑛「奉行殿、ひとつ進言を良いだろうか」
スッと奉行の方に歩み寄る志瑛。
奉行「陰陽師か。許可する」
志瑛「罪人たちを、厳重な警備の下に置くことを提案したい」
伊南子たちを手で示しながら言う志瑛。
発言を聞いた奉行は片眉を上げる。
志瑛「呪具に関わっていたこと、そして先日、伊南子があやかしに取り憑かれた件もある。よって、あやかしへの対策を通常よりも強化し、罪人が正しく罰を受けられる環境が必要だ」
淀みなく語る志瑛。
奉行「具体的には」
姿勢を崩さず、続きを促す奉行。
志瑛「収容場所を外界から遮断された建物とし、そこから1歩も出さない。また、あやかしや呪術の影響を受けていないか、毎日検診を行う。警備には陰陽寮の者を配置し、式神を用いた監視も実施する」
イメージ図:森の中に建つ小さく簡素な建物。建物の周囲を固める陰陽寮の人間たちと式神。
奉行「……良いだろう。我らとしても、罪人をあやかしなぞに殺されてはかなわん。人間の罪には、人間によってのみ罰を与えられるべきだからな」
ゆっくりと頷く奉行。
伊南子「ちょっ……ちょっと、そんなの監禁じゃない! 私たちに自由は無いっていうの!?」
父親「そうだ! それに私たちは二ノ宮家だぞ、私たちがいなくなったら、多くの商売人たちにも影響が……!」
話が聞こえていた2人が、猛反発する。
プライドが許さない様子。
奉行「元より、そなたらの罪は牢に捕らえられて然るべきものである。むしろ、身の安全を保障されることを感謝すべきだ」
ぴしゃりと言う奉行。
伊南子たち3人は身を寄せ合ってうなだれる。
そんな彼らを、黙って見つめる鬼怒江。
と、志瑛が彼女の肩を叩く。
志瑛「帰ろう」
鬼怒江「……はい」
何事かを喚き続ける伊南子たちを置いて、奉行所を出ていく志瑛と鬼怒江。
○蔵持家
庭にある池の近くに立つ志瑛と鬼怒江。
志瑛「上々の出来だな。これで彼らは正しく罰を受け、同時にあやかしに殺められる心配は無くなる」
淡い光でできた魚型の式神と、池の鯉を遊ばせる志瑛。
鬼怒江「……ありがとうございます、志瑛殿」
目を伏せる鬼怒江。
鬼怒江「あなたがいなくては、斯様な結果を得ることはできなかったでしょう」
志瑛「お安い御用だ。しかし、奉行殿の理解も案外よく得られた。呪術関連罪の刑罰にはこの方式を導入するよう、提言するのも悪くないな」
鬼怒江から感謝され、上機嫌な志瑛。
くるくると指を回し、式神を操る。
鬼怒江M「……約束には背いていない。だが、恐らく……絹枝殿は、家族がこのような様になることを望まなかっただろう」
ぼうっと水面を眺める鬼怒江。
鬼怒江M「絹枝殿は、怒るだろうか。悲しむだろうか」
ぎゅっと胸の前で拳を握る鬼怒江。
鬼怒江M「申し訳ない、絹枝殿。それでも私は、あなたが受けた仕打ちを許せなかった」
志瑛「絹枝殿」
ハッと顔を上げる鬼怒江。
すると、穏やかな笑みを湛えた志瑛が彼女を見ている。
志瑛「俺はこれからも、君のために力を振るう。君が幸福で在れるように、君が安寧を得られるように」
鬼怒江の頬に触れる志瑛。
志瑛「何事でも、何度でも、俺に言ってくれ。きっと叶えてみせよう」
優しく強いまなざしで言う志瑛。
鬼怒江は逡巡するように息を吸う。
イメージ図:かつての花鬼たちの幸せそうな様子。そして、それらを壊したあやかしの姿。
鬼怒江「……志瑛殿、私は……」
自分の頬に触れる、志瑛の手に触れる鬼怒江。
鬼怒江「ある、あやかしを探しています」
意を決し、告白する鬼怒江。
真っ直ぐに志瑛を見据えている。
鬼怒江「その者は私の大切な人を殺しました。私は仇を取りたい。そうでなくては、生きてゆかれません。ですから、志瑛殿。どうか力をお貸しください」
しばし場に沈黙が下り、視線を交し合う鬼怒江と志瑛。
その後、ふっと顔を綻ばせる志瑛。
志瑛「わかった。ありがとう、頼ってくれて」
志瑛は鬼怒江の手を取り、しっかりと握る。
志瑛「復讐を果たすことで、君が前に進めるというのなら、俺は喜んで協力する」
池の鯉と式神が、寄り添い合って泳いでいる。(※鬼怒江と志瑛の関係性が変わった暗示。)
鬼怒江M「これは……」
じり、と距離を測る鬼怒江。
鬼怒江「上手く姿を隠したつもりでありましょうが……私の目は欺けませぬ」
鬼怒江の手からパッと桜吹雪が放たれ、伊南子に巻き付く。
すると伊南子の体から黒い靄が抜け出て、あやかしの姿となる。
あやかし「ひひっ、失敗!」
目の吊り上がったあやかしが、ケタケタと笑う。
あやかし「妙な術を使うな? 次はお前に憑いてやろう!」
牙を剥き出しにし、鬼怒江に飛びかかるあゆかし。
鬼怒江は彼を冷たい目で一瞥する。
鬼怒江「花術、【赫灼】」
赤い彼岸花が鬼怒江の手のひらに現れる。
鬼怒江が花を放ると、それは炎となってあやかしを包み込む。
あやかし「はっ? ア、あああああっ!?」
断末魔の悲鳴を上げ、あっという間に燃え尽きるあやかし。
あやかしの塵すら消えていく中、鬼怒江は倒れている伊南子の元に行き、彼女の傍にしゃがむ。
伊南子「う……」
小さくうめき声を出す伊南子。
気絶しているが、大きな怪我は無い。
ホッと安堵の息を吐く鬼怒江。
次いで彼女は、あやかしの居た方を見る。
鬼怒江M「仇のことは聞けなかったが、致し方ない。万に一つも、伊南子を死なせるわけにはいかない」
志瑛「絹枝殿!」
走って駆け付ける志瑛。
傍らには紙切れのような式神も居る。
志瑛「あやかしは……? 君の義姉に憑いていたのか」
辺りを見回し、それから伊南子の存在に気付く志瑛。
鬼怒江「はい。ですが悪戯目的だったようです。私が憑依を見抜くと、すぐに逃げてゆきました」
志瑛「そうか、大事なくて良かった」
膝を付き、少し乱れた鬼怒江の服を直してやる志瑛。
鬼怒江は改めて、伊南子を見下ろす。
鬼怒江M「愚かな人間だ。誰も招くなと言ったのに……。大方、私への悪感情を利用されたのだろう」
○数日後・奉行所・昼
奉行所に集まる人々。
無表情の鬼怒江、やや険しい顔の志瑛、茣蓙の上に座らされており青ざめている伊南子・義母・父親、が順に映される。
奉行「……以上の罪状に加え、そなたらは娘である二ノ宮絹枝を虐げていたという話がある」
蛇腹折りにした紙を広げ、その内容を読み上げる厳めしい奉行。
奉行「それが真実なら、罪は更に重くなるが」
そう言って奉行は紙を少し下ろし、鋭い目つきで伊南子たちを見る。
伊南子「ち、違います! 嘘ですわ、そんな話! 私たちは絹枝を大切に、可愛がってきました!」
義母「呪具のことも、全部何かの間違いです! 私たちは無実で、何者かの悪意に貶められただけで!」
慌てて弁明しようとする伊南子と義母。
父親も隣で必死に頷いている。
伊南子「ねえ、そうでしょう絹枝!」
名を呼ばれ、ぴくりと反応する鬼怒江。
義母「わかっているでしょうね!? 私たちは、あなたを大事に育ててきたのよ!」
伊南子「仲良しだったものね、私たち! ね?」
父親「私たちの愛情と、その義理に応えておくれ、絹枝!」
口々に助けを求める3人。
鬼怒江M「義理……」
冷ややかな目で彼らを見る鬼怒江。
鬼怒江の視点では、3人の声が遠くに聞こえる。(※全く心に響いていない。)
奉行「証人、彼らの主張は真か」
冷静に、鬼怒江に証言を求める奉行。
鬼怒江「その者たちは……」
口を開く鬼怒江。
縋るような表情で鬼怒江を見る伊南子たち。
目を閉じる鬼怒江。
鬼怒江「彼らは私を不当に閉じ込め、虐げてきました」
きっぱりと言い放つ鬼怒江。
伊南子たちは絶望の表情。
鬼怒江「数々の疑いについても、すべて事実です。彼らは自覚的に、悪意を持って、罪を犯していました」
伊南子「こっ……!」
わなわなと震える伊南子。
伊南子「この、恩知らずが!!」
鬼怒江に飛びかかろうとする伊南子。
奉行「罪人を取り押さえよ!」
すかさず奉行が役人に命じる。
役人数名がかりで取り押さえられるも、伊南子はなお喚き暴れる。
その様子を、やはり冷淡に眺める鬼怒江。
志瑛「奉行殿、ひとつ進言を良いだろうか」
スッと奉行の方に歩み寄る志瑛。
奉行「陰陽師か。許可する」
志瑛「罪人たちを、厳重な警備の下に置くことを提案したい」
伊南子たちを手で示しながら言う志瑛。
発言を聞いた奉行は片眉を上げる。
志瑛「呪具に関わっていたこと、そして先日、伊南子があやかしに取り憑かれた件もある。よって、あやかしへの対策を通常よりも強化し、罪人が正しく罰を受けられる環境が必要だ」
淀みなく語る志瑛。
奉行「具体的には」
姿勢を崩さず、続きを促す奉行。
志瑛「収容場所を外界から遮断された建物とし、そこから1歩も出さない。また、あやかしや呪術の影響を受けていないか、毎日検診を行う。警備には陰陽寮の者を配置し、式神を用いた監視も実施する」
イメージ図:森の中に建つ小さく簡素な建物。建物の周囲を固める陰陽寮の人間たちと式神。
奉行「……良いだろう。我らとしても、罪人をあやかしなぞに殺されてはかなわん。人間の罪には、人間によってのみ罰を与えられるべきだからな」
ゆっくりと頷く奉行。
伊南子「ちょっ……ちょっと、そんなの監禁じゃない! 私たちに自由は無いっていうの!?」
父親「そうだ! それに私たちは二ノ宮家だぞ、私たちがいなくなったら、多くの商売人たちにも影響が……!」
話が聞こえていた2人が、猛反発する。
プライドが許さない様子。
奉行「元より、そなたらの罪は牢に捕らえられて然るべきものである。むしろ、身の安全を保障されることを感謝すべきだ」
ぴしゃりと言う奉行。
伊南子たち3人は身を寄せ合ってうなだれる。
そんな彼らを、黙って見つめる鬼怒江。
と、志瑛が彼女の肩を叩く。
志瑛「帰ろう」
鬼怒江「……はい」
何事かを喚き続ける伊南子たちを置いて、奉行所を出ていく志瑛と鬼怒江。
○蔵持家
庭にある池の近くに立つ志瑛と鬼怒江。
志瑛「上々の出来だな。これで彼らは正しく罰を受け、同時にあやかしに殺められる心配は無くなる」
淡い光でできた魚型の式神と、池の鯉を遊ばせる志瑛。
鬼怒江「……ありがとうございます、志瑛殿」
目を伏せる鬼怒江。
鬼怒江「あなたがいなくては、斯様な結果を得ることはできなかったでしょう」
志瑛「お安い御用だ。しかし、奉行殿の理解も案外よく得られた。呪術関連罪の刑罰にはこの方式を導入するよう、提言するのも悪くないな」
鬼怒江から感謝され、上機嫌な志瑛。
くるくると指を回し、式神を操る。
鬼怒江M「……約束には背いていない。だが、恐らく……絹枝殿は、家族がこのような様になることを望まなかっただろう」
ぼうっと水面を眺める鬼怒江。
鬼怒江M「絹枝殿は、怒るだろうか。悲しむだろうか」
ぎゅっと胸の前で拳を握る鬼怒江。
鬼怒江M「申し訳ない、絹枝殿。それでも私は、あなたが受けた仕打ちを許せなかった」
志瑛「絹枝殿」
ハッと顔を上げる鬼怒江。
すると、穏やかな笑みを湛えた志瑛が彼女を見ている。
志瑛「俺はこれからも、君のために力を振るう。君が幸福で在れるように、君が安寧を得られるように」
鬼怒江の頬に触れる志瑛。
志瑛「何事でも、何度でも、俺に言ってくれ。きっと叶えてみせよう」
優しく強いまなざしで言う志瑛。
鬼怒江は逡巡するように息を吸う。
イメージ図:かつての花鬼たちの幸せそうな様子。そして、それらを壊したあやかしの姿。
鬼怒江「……志瑛殿、私は……」
自分の頬に触れる、志瑛の手に触れる鬼怒江。
鬼怒江「ある、あやかしを探しています」
意を決し、告白する鬼怒江。
真っ直ぐに志瑛を見据えている。
鬼怒江「その者は私の大切な人を殺しました。私は仇を取りたい。そうでなくては、生きてゆかれません。ですから、志瑛殿。どうか力をお貸しください」
しばし場に沈黙が下り、視線を交し合う鬼怒江と志瑛。
その後、ふっと顔を綻ばせる志瑛。
志瑛「わかった。ありがとう、頼ってくれて」
志瑛は鬼怒江の手を取り、しっかりと握る。
志瑛「復讐を果たすことで、君が前に進めるというのなら、俺は喜んで協力する」
池の鯉と式神が、寄り添い合って泳いでいる。(※鬼怒江と志瑛の関係性が変わった暗示。)

