毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 更に数日後、僕は軍の施設に来るようにとの通達を受けた。
 魔法の訓練もするそうだが、別件の話もあるという。
 どんな話なのかと思いながら、僕とスラちゃんは準備をしていた。
 折角なので、チビスライムも魔法の訓練に一緒に連れて行くことにした。
 僕たちは日々の訓練で段々と魔法も上達しているが、ここは専門家からの指導を受けた方が更に成長できるはずだ。
 そう思いながら、久々に軍服に袖を通して馬車に乗り込んだのだった。

「ケン君、楽にしてくれ」

 軍の施設に到着すると、直ぐに事務棟の応接室に案内された。
 応接室にはヘルナンデス様がいて、僕も直ぐにヘルナンデス様の向かい側に座った。
 どうやら大切な話らしく、僕は姿勢を正した。
 スラちゃんたちも、僕の横でビシッとしていた。

「話というのは、ケン君の父親と兄のことだ。正式に軍事裁判の結果が出たから伝えようと思ってな」

 ヘルナンデス様の真面目な声に、僕はコクリと頷いた。
 近々、軍事裁判が行われるということは聞かされていた。

「まずケン君の父親だが、降格の上で後方部隊に配置換えだ。とはいえ、直ぐに動けるようにと特別訓練も課す。贅沢派の連中は、全員後方部隊に下げた。問題が起きても、周囲に影響が出ない様に全く問題のない所にな」

 窓際部署に配置になったが、バリバリ訓練はすると。
 要約するとこんな感じだ。
 本人たちからすればかなり不名誉な部署だが、命令なので拒否はできない。
 拒否をしたら、もっと大変な事になってしまうのは目に見えていた。

「そして、ケン君の兄はもう一年間新兵として訓練を行う。元々訓練成果も悪く、良い理由ができた」

 ヘルナンデス様は、苦笑いしながら説明していた。
 昨年入隊した新兵の中では圧倒的に出来が悪く、同じ新兵だったセレナさんやユリアさん、そして帝国の捕虜となっていた二人の友人と比べるまでもないという。
 しかも、更に酷い場合は特別訓練が待っているらしい。

「ギャイン騎士爵家は、既に貴族社会でも最悪という烙印を押されている。軍でも最早出世の見込みはなく、このまま一般兵として最後まで過ごすことになるだろう」

 父親と兄の暴挙の結果に、僕は何も言うことはなかった。
 そもそも、僕自身が父親と兄の暴挙の被害者だ。
 とはいえ、こんな懸念もあった。

「その、父親と兄の性格からすると、また何かをやらかしそうです……」
「私もそう思っている。なので、監視をしやすい部署に異動させたのだ」

 父親と兄を含む贅沢派は、自己の権利を主張する貴族主義勢力の中でも更に過激的な存在だという。
 警告はしてあるらしいが、果たしてどこまで効くのかは全くの未知数だった。

「話しはこれで終わりだ。難しいことは大人が対応する。ケン君は、この後の訓練を頑張ってくれ」

 ヘルナンデス様の言う通り、難しいことはお任せだ。
 僕たちは、ヘルナンデス様に一礼してから応接室を出た。
 そして、兵の案内で魔法兵用の訓練場に向かった。

「こちらです」

 案内されたのは弓矢の的に似たものもあるところで、周辺に魔導具なども置かれていた。
 ここでは、いったいどんな訓練をするのだろうか。
 そう思っていたら、複数の魔法兵が姿を現した。

「セレナさん、ユリアさん、おはようございます」
「ケン君、おはよう。今日は、一緒に頑張ろうね」
「ケン君にとっては簡単な訓練かもしれないけどね」

 セレナさんとユリアさん以外の魔法兵も挨拶をするが、女性の方が割合として多いんだ。
 うーん、魔法使いは女性の方が多いのかな。
 すると、セレナさんはスラちゃんの周囲でぴょんぴょんと飛び跳ねている三匹の小さなスライムに気が付いた。

「ケン君、この小さいスライムは新しいお友達?」
「実は、実家にいた頃から庭にいたスライムなんです。アクアちゃん、リーフちゃん、シロちゃんで、みんな魔法が使えます。シロちゃんは、先日メアリーさんと一緒に治療施設で治療しました」
「ということは、ケン君の昔からのお友達なのね。しかし、ケン君とスライムたちだけでとんでもない戦力になりそうね」

 セレナさんはしゃがみ込んで、ペコリと挨拶する三匹のチビスライムを撫でていた。
 みんなまだ体は小さいけど、きっと凄い魔法使いになるはずだ。
 すると、僕に悪態をついてくるものがいたのだ。

「けっ、凄い魔法使いが来るって聞いたが、ただのスライム使いのガキじゃねーかよ」
「リーベル、あんた何を言っているのよ」
「けっ、本当のことだろうがよ」

 緑髪のモヒカンで、細マッチョと偉そうな態度を見ると悪役だと思ってしまう。
 どうやらセレナさんとユリアさんの同期らしいが、ユリアさんが窘めても全く態度を変えなかった。
 かなり面倒くさそうな人なのだが、僕としては少し離れた別の人の方が気になった。

「セレナさん、壁際でやる気なさそうにしているのは誰ですか?」
「ああ、あの人ね。前に話をした、根性で訓練しろと言っていた人よ。再訓練になって、今日は私たちと一緒に訓練を行うことになったのよ」

 そういえば、前線基地にいた時にオーフレア様が新人の指導教官から外れたと言っていた。
 今も、「なんで俺が……」みたいなことをぶつぶつと言っている。
 正直言うと、僕に絡んできた魔法兵よりもかなり危ない雰囲気だ。

「ふーん、あのおっさんの怪しさに一発で気付くか。勘の良さは中々だな」

 すると、僕に絡んできた魔法兵が別の反応をみせた。
 うーん、やっぱりあの怪しい人は何かあるみたいだ。
 スラちゃんたちも、要警戒と思っていた。

「おお、来ているな」
「ふふふ、今日は頑張ってやりましょうね」

 そして、訓練場に姿を現したのはまさかのオーフレア様とローリー様だった。
 えっと、もしかして宮廷魔導師のお二人が僕たちの指導教官なのかな。
 すると、オーフレア様は壁に向かってブツブツと文句を言っている人に声をかけた。

「おい、お前は俺が相手をする。もう一度、魔法理論からお前の頭の中に叩き込んでやる」
「ヒィィ……」

 オーフレア様は強そうな見た目と違ってとても論理的だから、新人指導教官を降ろされた怪しい人にとっては良い相手なのかもしれない。
 それに、僕たちがあの怪しい人の相手をしなくていいのもとても助かった。

「あら、スラちゃんの周りに小さいスライムがいるわね」
「アクアちゃん、リーフちゃん、シロちゃんです。みんな、魔法の勉強中です」
「そうなのね。ケン君のお友達ね」

 僕たちはというと、ローリー様がチビスライムをツンツンと突っついているのを見ていた。
 こちらは危険な感じはなく、特に問題なさそうだ。