毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 慰労会が行われる日になり、僕は真新しい貴族服に袖を通していた。
 髪の毛も丁寧に梳かされ、いつも以上に綺麗に整った。

「こうして見ると、やっぱりケン様は亡くなった奥様にそっくりだわ。とても綺麗な濃い青色の髪に、優しそうな瞳をしているわね」

 ハンナおばさんは、僕の服を整えながら懐かしそうに話していた。
 鏡に映っている僕の顔は、一見すると女の子にもみられてもおかしくなかった。
 僕としては、もっと男っぽくありたいけどね。
 コートも着て、王城に向かう準備も万端だ。
 僕とスラちゃんは、馬車に乗って王城に向かったのだった。

「凛々しい軍服を着たケン君もいいけど、こうして貴族服を着てキリリとしているケン君もとても可愛らしいわ」
「なんというか、絶妙なバランスね。ケン君は美形だから、どんな服でも似合っちゃいそうね」

 王城に行くと王家のスペースに案内され、待ち構えていた王太后様と王妃様に捕まってしまった。
 貴族服姿の僕をベタ褒めしてくれていて、更に僕の体をペタペタと触ってきた。
 すると、二人はこんなことを言ってきたのだ。

「男性陣は、仕事で暫く忙しいわ。なので、ケン君は私たちと一緒にいましょうね」
「この後、要人との面会があるのよ。ついでだから、顔を覚えてもらいましょう」

 あの、王太后様、王妃様、いきなりとても大切なお仕事に同行ですか?
 しかも、既に決定しているような言い方だ。
 因みに、スラちゃんは僕の頭の上で仕方ないとふるふると震えていた。
 僕は、トホホって思いながら二人の後をついて行ったのだった。

「ケン君は、自己紹介すればいいだけよ。その後は、私たちが話をしているわ」
「ちょっと退屈かもしれないけど、気にしないでね」

 王太后様と王妃様は、僕をとても気遣ってくれた。
 僕は、応接室のオブジェになってニコニコしていれば良いんだ。
 そんなことを思っていたら、最初にやってきた人からいきなり予定が崩れてしまった。

 コンコン。

「失礼します」
「あれ?どうしてシーリアさんが!?」
「あら、ケン君もいたのね」

 豪華なドレスを着たどう見ても上位貴族の奥様と共に応接室に入ってきたのは、これまたオレンジと黄色の綺麗なドレスを身に着けたシーリアさんだった。
 でも、ルーカス様やヘルナンデス様からも信頼されていたし、前々からシーリアさんは偉い人の関係者なのかなと思っていた。

「王太后様、王妃様、そしてアスター男爵様、本日はお招き頂きありがとうございます」

 おお、シーリアさんが貴族令嬢らしく深々と頭を下げたよ。
 いつもと違う姿に、僕もスラちゃんもとても驚いちゃった。
 すると、王妃様が更にビックリすることを教えてくれた。

「ケン君、シーリアは軍人貴族であるポール侯爵家令嬢で今日の慰労会でルーカスとの婚約が決まったとお披露目する予定よ」

 えー!?
 シーリアさんがルーカス様の婚約者になるんだ!
 でも、確かにシーリアさんはルーカス様と親しい感じがしたね。

「あれ? シーリアさんは前に恋人募集中って言っていませんでした?」
「あの時はね、ルーカス様が戦地から戻ってきたら婚約しようって言ったのよ。まさか、小説の様な死亡フラグを立てられるとは思わなかったわ。ケン君のお陰で何とかなったけどね」

 うわー、まさかそんな裏話があったとは。
 シーリアさんも、話しながらちょっとプリプリとしていた。
 因みに、軍の施設の人たちはこの話を知っていて、二人の事情を把握していたという。
 これには、他の人たちも思わず苦笑していた。

「しかし、ケン君の魔法は本当に凄いわ。昨日一日で、軍の治療施設に入院していた負傷兵を全員治療してしまったのよ」
「まあ、それは凄いわね」

 シーリアさんが上機嫌で昨日のことを話し、王太后様もニコニコしながら返事をしていた。
 その後も、何故か僕のことが話題の中心となり、僕はずっと話をしていた。
 その間、スラちゃんは王太后様のところにいたのだった。

 コンコン。

「失礼します。まあまあ、噂に名高い【蒼の治癒師】様ですわ。とても可愛らしいですわね」

 そして、シーリアさんたちがいるうちに次の人たちが応接室に入ってきたのだが、ピンク色のふわふわロングヘアの女性が僕を見るなり感激の声を上げたのだ。
 これには、僕だけでなく王太后様の膝の上に乗っていたスラちゃんもとても驚いた。

「あ、あの、ケン・アスターです。宜しくお願いします」
「まあまあ、とても素晴らしい挨拶ですわ。私は、バンクシー公爵家のメアリーよ。アーサー様の婚約者でもありますわ」

 わわわ、またまた凄い人が来てしまった。
 王太子様の婚約者というこということは、将来の王妃様じゃないですか。

「めめ、メアリー様、よよよ、宜しくお願いします」
「あら、シーリアを『さん』で呼んで私は『様』なのね。私も『さん』で呼んで欲しいわ」

 メアリーさんは、ズズズと僕に顔を近づけた。
 とてもにこやかで優しそうな人かと思ったけど、大貴族の令嬢らしく芯はしっかりとしている人みたいだ。

「ケン君は辛い立場にあったのに、とても優しい男の子なのですね。イリス様の意思を継いでいるとも言われていますが、まさにその通りなのですね」
「えっ、メアリーさんはお母様のことを知っているのですか?」
「ええ、私が幼い頃にお会いしたのよ。幼いながらも、まさに聖女様とはこういう人のことを言うんだと思いましたわ」

 まさか、ここで母親の話が出てくると思わなかった。
 本当に色々な人に影響を与えているのだと、改めて感じた。
 そして、王太后様がシーリアさんとメアリーさんにあることを頼んだ。

「時間があったらで良いんだけど、慰労会でケン君の側にいてあげて欲しいの。私たちは色々な人に挨拶をしないとならないし、ずっと側にいるのは難しいわ」
「確かに、ケン君に言いよってくるものはいるだろうね。私も、知り合いの軍人貴族や軍人にも声をかけてケン君をガードしてもらうわ」
「取り入ろうとする不届き者から、ケン君を守らないといけませんわ。私も、聖職者貴族に声をかけておきます」

 シーリアさんとメアリーさんも、あれこれと考えていた。
 いやいや、流石にそれはやりすぎじゃないかなと思ったが、このくらいは当然だとこの場にいる全員に言われてしまった。
 その後もメインは僕か母親の話で、退屈どころかずっと話していてかなり疲れてしまったのだった。