毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

「殿下、ご、ごめんなさい。説明しながら泣いちゃいました……」
「いいのだ、ケンは気にしなくてよい。泣きたい時に泣けないのは、とても辛い事だ」

 僕は、服の袖で涙を拭きながらペコペコと頭を下げた。
 そんな僕のことを、ルーカス殿下はまたもや優しく頭を撫でてくれた。
 そして、ルーカス殿下は僕の肩に乗っているスラちゃんにも言及した。

「スラちゃんは、ケンのことをずっと心配そうに見ていた。とても良い友人関係だと、私にも良く分かる」

 ルーカス殿下は、初対面の僕とスラちゃんをとても良くしてくれて、とても偉い人なのにとても良い人だと感じた。
 僕は、ハンナおばさん以外で初めて安心できる人だと思ったのだ。
 そんな中、調査に出ていたルーカス殿下の部下が程なくして応接室に戻ってきた。

「報告します。ギャイン騎士爵家嫡男ベンスが既に施設に出勤しており、他の新人兵に弟の合法的な処分方法が見つかったと嬉々としながら言っていたことを把握しました」
「そうか、ご苦労。引き続き、ギャイン騎士爵本人の証言を集めるように」
「はっ」

 再度部下に指示を出したルーカス殿下は、思わず深い溜息をついていた。
 父親の手紙に書かれていたことや、僕の証言が正しいと分かったからだ。
 そして、部下とあれこれ打ち合わせをして改めて僕に話しかけた。

「ケンは、既に回復魔法の実践経験がある。そこで、治療施設に入院している負傷兵を治療してもらいたい。ギャイン騎士爵と嫡男が近寄ることのできない施設だから、安心して治療して欲しい」

 治療施設は警備がとても厳しく、関係者以外は立入禁止だという。
 それならと、僕もスラちゃんもとてもやる気になった。

「ケンをこうして使うことはギャイン騎士爵の思惑通りで気分が悪いが、何にせよ今は人手が足りない。訓練で負傷した兵も、一刻も早く前線に向かわせなければならないのだ」

 ルーカス殿下の真剣な表情を察するに、それだけ戦況が逼迫していると分かった。
 僕をこれだけ気遣ってくれるルーカス殿下のためにも、ここは頑張らないといけない。

 ぐー。

「あっ……」

 僕が握り拳を作って気合を入れたら、お腹から大きな音が鳴ってしまった。
 僕は、お腹を押さえながら顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。

「ははは、お腹が空くのは元気な証拠だ。治療施設では、そろそろ朝食が出されるだろう。余りものをもらって食べると良い」
「はい、ありがとうございます……」

 僕は、尚も顔を真っ赤にしながらぺこりと頭を下げた。
 そして、迎えに来た治療施設担当の女性兵に手を繋がれながら応接室を後にした。

「もぐもぐもぐ」
「簡単に話を聞いたけど、とても信じられない話だわ。先ずは、ご飯を食べて元気にならないとね」

 治療施設にある調理場の隅っこを借りて、僕とスラちゃんは朝食の余りものを食べていた。
 パン、ソーセージ、サラダ、スープという簡単なものだったが、それでもとても美味しく頂いた。
 そういえば、前世を含めてもこんなに美味しい食事は学校の給食以来なのかもしれない。
 そして、食事を食べ終えると僕は調理場のおばちゃんの様子が気になった。
 沢山の料理を作るのはかなりの重労働らしく、肩や腰などをさすったり叩いたりしていた。

「あの、最初に調理場のおばちゃんたちを治療してもいいですか?」
「ええ、良いわよ。ケン君の回復魔法がどのくらいの効果があるのか、確認する良い機会だわ」

 付き添いの女性兵の許可を得たので、僕とスラちゃんはトトトとおばちゃんの側に向った。
 女性兵がおばちゃんに説明をしてくれたので、治療までの流れはスムーズだった。

 シュイン、ぴかー!

「おお、腰の痛みがすっかり良くなったよ。坊や、ありがとうね」
「わわっ!?」

 おばちゃん達は、治療をするなり僕のことをとても褒めてくれた。
 もちろん、スラちゃんも凄いスライムだと褒めていた。
 前世も含めて人から褒められていないので、何だかくすぐったい気持ちだ。

「どうやら、治療の腕はかなりいいみたいね。ケン君、魔力はまだあるかしら?」
「僕もスラちゃんも、まだまだいっぱい魔力があります!」
「そう、それは良かったわ。じゃあ、さっそく大部屋から始めるわよ」

 女性兵は、ご機嫌な表情で再び僕の手を繋いだ。
 誰かに必要とされるなんて、前世も含めて初めての経験だ。
 そして、十人ほどのベッドが並ぶ大部屋についた。
 全員が厳ついが鍛え上げられた兵で、太り過ぎの父親とは雲泥の差だ。
 すると、ベテランだと思われる一人の兵がニヤリとしながら女性兵に話しかけた。

「よお、姉ちゃんの隠し子か?」
「あの、分かってて言っているでしょう。回復魔法が使える、貴族の子どもよ」
「ハハハ、そんなこったと思ったぞ。しかし、お貴族様は大変だな。貴族の義務とはいえ、こんな子どもを派遣するとは」

 流石ベテランだけあって、とても鋭い考察だ。
 そして、兵は特に僕の服にはツッコまなかった。
 何はともあれ、さっそく治療を始めよう。

「僕はケンです。スライムのスラちゃんと共に、さっそく治療を始めます」
「おっ、礼儀正しいな。流石は貴族の坊ちゃんだな」

 僕は、負傷兵にペコリと頭を下げてから治療を始めた。
 スラちゃんは、女性兵が持って運んでくれた。
 魔力を流しながら、どこが悪いかを確認しながら治療を進めた。
 骨折などもしている負傷兵もおり、全員が複数箇所を怪我していた。
 だが、このくらいなら僕とスラちゃんなら問題なく治療できた。
 入院している負傷兵も多いそうで、僕とスラちゃんは確実に、でも手早く治療を進めた。

「ケン君の治療は本当に凄いわ。治療を受けた負傷兵の評判も上々よ。でも、無理をせずに頑張りましょうね」

 早くも一つ目の大部屋に入院していた複数人への治療が終わり、女性兵はかなりご満悦な表情だった。
 僕とスラちゃんの魔力はまだまだたくさんあるし、先ずは午前中頑張って治療しないと。
 こうして、僕とスラちゃんは気合を入れて次の大部屋に向かったのだった。