毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 僕とスラちゃんは、応接室から陣地の外に出た。
 直ぐに、出迎えのための王国兵の一団がやってきた。
 その中には、セレナさんとユリアさんの姿もあった。
 どうも、捕虜の中に知り合いがいるという。
 二人とも、かなり不安そうな表情をしていた。

 ガタガタガタ。

 そして、一時間が経ったタイミングで、幌馬車が帝国軍陣地前に到着した。
 色々な人が馬車に駆け寄ったが、どうやら表情からかなり状態は良くないみたいだ。

「レーベンス大将より、王国軍の前線基地まで運ぶようにとの指示が出ております」
「頼む」
「はっ」

 ヘルナンデス様は、一緒にやってきた帝国軍幹部に指示を出した。
 そのヘルナンデス様も、表情はさえなかった。

「誰か、先に前線基地に向かって担架を複数用意するように言うように」
「「「「「はっ」」」」」

 ルーカス様の指示で、王国兵が前線基地に走っていった。
 セレナさんとユリアさんも一緒に走っていき、僕とスラちゃんも頑張って走った。

「おい、担架をあるだけ用意しろ!」
「基地の前に簡易担架も出せ!」

 頑張って前線基地に到着すると、既に兵が忙しく動いていた。
 僕とスラちゃんも、直ぐに治療の準備を始めた。

「うぅ……」
「しっかりしろ、もう少しで治療を受けられるぞ」
「あと少しだ、頑張れ!」

 すると、兵が慌ただしく動き始め、多くの負傷兵が担架で運ばれてきた。
 中には、手や足を失った人や骨折の苦しさで顔が歪んでいる人もいた。
 また、ショックからなのかボーッと宙を見ている兵もいた。
 そして、全体的に負傷兵は痩せ細っていた。

「ケン君、全員連れてきた。直ぐに治療してくれ」

 ルーカス様の指示に、僕とスラちゃんは頷いた。
 既に魔力は溜め終えていたので、直ぐに広範囲回復魔法と生活魔法を放った。

 シュイン、ぴかー!

「ルーカス様、広範囲魔法で治療しました。この後、スラちゃんと一緒に治療漏れがないか確認します」
「頼むぞ。欠損部位の再生は、全員の治療を終えて魔力が余ったらやってくれ」

 僕とスラちゃんは、ルーカス様に返事をすると直ぐに動き始めた。
 中等症レベルまでの治療まではできており、負傷兵からうめき声は聞こえなくなった。
 というか、ほぼ全員が治療の反動で気絶していた。
 やせ細っていて、体力を失っていた事が原因だった。
 僕も、これ以上の治療は逆に危険だと思った。

「よかった、本当に良かった……」
「命が助かって、本当に良かった……」

 セレナさんとユリアさんは、ピンク髪の痩せ細って右足を膝から切断していた女性兵の体を涙ながらにさすっていた。
 僕とスラちゃんも頑張って意識を取り戻した負傷兵の治療を再開し、数人は治療部屋ではなく兵舎で静養できるほどに回復した。

「ルーカス様、すみません。もう、僕もスラちゃんも魔力が空っぽです……」
「寧ろ、ここまで治療してくれたのだ。ケン君とスラちゃんには感謝する。明日以降、順次治療をしていこう」

 ルーカス様は、疲れてへんにゃりとした僕とスラちゃんを撫でてくれた。
 流石に疲れたので、食堂に移動して休むことにした。

「一週間は、料理にも気をつけないといけないね。消化の良い、栄養のあるものを食べさせないと」

 食堂のおばちゃんも、捕虜になっていた兵のことを考えてくれていた。
 肉を食べさせれば元気になると言っていた兵もいたけど、今は駄目だと食堂のおばちゃんは落ち着けとなだめていた。
 でも、その兵も元気になってもらいたいという気持ちから言っていたし、食堂のおばちゃんも兵の気持ちはよく分かると言っていた。
 その後、僕とスラちゃんは体力が少し回復したところで明日以降の話をするために司令官室に呼ばれた。

「ケン君は、朝イチの訓練を終えたら捕虜になっていた者への治療をしてくれ。その後は、私たちと共に再び帝国軍陣地に向かう」
「レーベンス大将が言っていた、亡くなった捕虜関連の情報を集めるって件ですね」
「うむ、そうだ。その際に、帝国兵の捕虜と戦死したものの荷物を持っていく。我々は、粛々と丁寧に対応するだけだ」

 ヘルナンデス様が話してくれた内容に、僕とスラちゃんもコクリと頷いた。
 治療もあるけど、まだまだやることはたくさんあった。
 それに、ヘルナンデス様曰く王国軍は帝国軍とは違うぞというところもみせないといけないらしい。
 帝国軍は捕虜となった王国兵を虐待していたし、確かにその辺りから違うよね。

「予定では、王国側が捕虜の幹部と陣地を引き渡して一定期間後に停戦発効となる。とにかく、この一週間が勝負となる」

 ヘルナンデス様の話に、ルーカス様とゴードン様も頷いた。
 帝国軍がまだ不安定な状態なので、当分は警戒を続けないといけない。
 明日に備えるために、僕とスラちゃんはこれで司令官室を後にした。

「ケン君、ありがとうね。あの子は同期入隊で、とても仲良かったのよ」
「かなり酷い目に遭っていたらしいわ。出来る限り、あの子の側にいて上げる予定よ」

 兵舎で寝る時に、セレナさんとユリアさんだけでなく多くの女性兵が僕にお礼を言ってきた。
 僕とスラちゃんは治療しかできないし、停戦協議もヘルナンデス様が中心となって進めていた。
 それでも、セレナさんは体が良くなるだけでもかなり気持ち的に違うはずだと言っていた。
 戦争って、戦闘の最中も大変だし終わった後もとても大変だと改めて感じたのだった。