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 兵が関係者の連行を行い、入れ替わりで調査担当の兵が執務室に入ってきた。
 僕も、エレンお祖父様と共に執務室内の捜索を開始した。

「うーん、帳簿が滅茶苦茶です。二重帳簿でもつけていたのでしょうか?」
「単に、お金の管理ができていないだけだろう。はあ、これでは領内の資金の流れを追うだけでも一苦労だ」

 エレンお祖父様は、帳簿を手にやれやれといった感じだ。
 他にも様々な証拠が出てきたが、不正の期間が長くて調べるのに時間がかかりそうだ。

「税に関しても、過大に徴収している。調査には暫くかかりそうだ」

 エレンお祖父様の視線の先には、オオクズ伯爵家やオオクズ男爵家にもあった豪華な調度品や金品があった。
 贅沢をするために領民を食いものにしていたのは、到底許されることではない。
 一時間ほど捜索をしていると、ヘルナンデス様が執務室に顔をのぞかせた。

「ケン君、キリのいい所でクリスのところに行ってくれ」

 どうやらヘルナンデス様は屋敷の中の捜索を行っていたらしく、かなり忙しそうにしていた。
 そして、僕がクリスのところに行くのにはある理由があった。

「嫡男夫人は、どうも病気だったらしい。スラちゃんが治療したから大丈夫だと思うが、念のために確認してくれ」

 それは大変な事だ。
 今は嫡男夫人と赤ちゃんがとても重要なので、きっちりと治療しないと。
 エレンお祖父様も、僕に行ってくるようにと声をかけた。
 そして、僕は執務室から二階にある部屋へと向かった。

「あぶー」
「可愛いなー、赤ちゃん可愛いな」
「ギャウ」

 部屋のドア前には軍の兵が警備にあたっており、部屋の中にも複数の兵がいた。
 そんな中、クリスは椅子に座りながら赤ちゃんを抱っこしてかなりご満悦だ。
 赤ちゃんは生後半年程で、かなりご機嫌で抱っこされていた。
 トラちゃんも、興味深そうに赤ちゃんを覗き込んでいた。

 シュイン、ぴかー!

「うん、スラちゃんの治療でお腹の調子も完治しています」
「ケン様、本当にありがとうございます」

 僕はと言うと、栗毛ロングヘアの嫡男夫人の治療をしていた。
 スラちゃんだけでなくピーちゃんも嫡男夫人の容態を気にしていたが、大きな病気でなく一安心だ。
 しかも、ある事が判明したのです。
 何と、嫡男夫人はオオクズ子爵家に嫁ぐ前に王都の大教会で奉仕活動の手伝いをしていたのだ。
 なので、僕、クリス、スラちゃんは、嫡男夫人を何となく見たことがあった。

「私の家は、ご存じの通り捜索を受けたオオクズ伯爵家になります。家族は誰一人として奉仕活動をしていませんが、私はたまたまですが幼少期より奉仕活動をしておりました。そして、ケン様を間近で見て、貴族主義の考え方はおかしいと思っておりました」

 適齢期というのもあってオオクズ子爵の嫡男に嫁ぎ、そして直ぐに妊娠したという。

「私は、実家や子爵家がどのような罪を犯したのか理解しております。ただ、女は余計な口を出すなど以前より言われており、嫁いでからも執務室には一切入っておりません。」

 うーん……
 もしかしたら女性が貴族主義ではない考え方だから、オオクズ伯爵は自分のところから遠ざける意味でオオクズ子爵家に嫁に出したのかもしれない。
 この辺りは、オオクズ伯爵本人から聴取をしないと分からないなあ。

「私は、どんな罪でも受け入れる覚悟です。ただ、どうしても息子の将来が気になってしまい……」

 嫡男夫人の視線の先には、トラちゃんの頭をペシペシとしている赤ちゃんの姿があった。
 罪を犯した貴族家に生まれたが、赤ちゃんは何も罪を犯していない。
 うーん、この場合はどうすれば良いのだろうか。

 ガチャ。

「ケン君も、そろそろ上の者として判断する様にならないといけない。ある意味、今回の件は良い経験になるだろう」

 ここで、ヘルナンデス様が部屋に入ってきた。
 いやいや、僕はまだ様々な経験が不足していますよ。

「今回、嫡男夫人を罪に問うのは難しい。嫡男夫人は、妊娠中も様々な福祉活動をしていた。オオクズ子爵は、妊娠中を理由に嫡男夫人の行動を制限した。奴らにとって、嫡男夫人は世継ぎを生む事が仕事だと思っている」

 この辺の事情は、領兵の偉い人から話を聞いたという。
 領兵や教会は、オオクズ子爵と対立していてかなり動きを封じられていたらしい。
 そして、オオクズ子爵は私兵を雇って我が物顔で動いていた。

「ケン君も、周囲の状況をよく調べるように。特に領地持ちの貴族は、領民の意見も集める。意外と、領民は領主を見ているぞ」

 僕は、今まで王都にいることが多かった。
 領地に関する事は勉強不足だと、改めて痛感した。
 王都に戻ったら、もっと勉強しないと。

「嫡男夫人は、暫く軍の監視下に入る。だが、先ずは息子をしっかりと育てる事だ。どのように統治をするのかを含め、いずれ王城で話す時が来るだろう」
「畏まりました。この度は、我が家が大きな問題を起こし申し訳ありません」

 嫡男夫人は、ヘルナンデス様に深々と頭を下げた。
 当面は税務関係の監査が続くはずだし、領地の運営もしないとならない。
 やる事は多いけど、嫡男夫人にはきっと出来そうな気がしたのだった。

 そして、おやつの時間前に僕達はオオクズ子爵領から王都へ戻る事になった。
 スラちゃんとピーちゃんは、念のために今日いっぱいオオクズ子爵領に残り、明日の夕方王都に帰る予定だ。

「早めに市民へ還元すべき金額を査定し、市民に返金しないといけないです。幸いにして金品などは換金できますし、豪華な服などもオークションにかけられましょう」

 エレンお祖父様は、簡単にこの後の予定を教えてくれた。
 嫡男夫人が速やかに返金対応などをすれば、裁判時の印象も良くなるという。
 とはいえ、爵位降格は免れないだろうなと思ってしまった。

「オオクズ伯爵家とオオクズ男爵家は、家人が全員捕まりました。反省の様子もないので、かなり厳しい処分となりそうですね」
「親類などに後を継がせる事はできるが、今回はかなり慎重な対応になるだろう。もう少し、捜査の進展を待たないとならない」

 ヘルナンデス様も、下手な事は言えなかった。
 王都だけで六家が処分対象になるし、何よりも貴族主義勢力にとって大打撃になるだろう。
 とはいえ、多くの普通にしている貴族にとっては影響はないし、我が物顔でいた貴族主義勢力が少なくなるのは良いことだと思った。
 そんな事を話しているうちに、僕達を乗せた馬車は王都へ到着。
 僕達は、そのまま王城に行き会議室へ案内された。

「先ずは、ご苦労だと言おう。財務担当は、明日もオオクズ子爵領に向かわせる。とはいえ、王都で押収した証拠の鑑定もある。処分が決まるのは、まだ先の話だ」

 最初に、陛下が僕たちを労いつつ今後の予定を説明した。
 オオクズ子爵領は比較的平穏な状態なので、出来るだけ早く財務調査もやりたいのだろう。

「ケンとクリスは、明日より通常勤務だ。だが、ノーム準男爵にはこのままサンダーホークを護衛につかせる。貴族主義勢力も下手に手出しはできないとはいえ、何かする可能性はゼロではない」

 陛下の采配もあり、エレンお祖父様を含めた財務担当の護衛強化は継続となった。
 アルファはヤル気満々だし、きっとミュウさんの魔物もみんなを守ろうとするはずだ。

「謁見は来週行う。シェイク子爵領で対応にあたったものと、今回のオオクズ伯爵主導の不正対応にあたったものの両方を呼ぶ。あと、貴族主義勢力にはある程度釘を差す」

 謁見が開かれる背景には、初期の強制捜査が終わり別の段階になったのもあるだろう。
 僕、クリス、ナッシュさん、モーニング様、エレンお祖父様は、謁見に必須参加だという。
 軍の対応も大きかったし、その辺りも褒められるのではと思ったりもしたのだった。