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 シュイン、シュッ。
 ザッ。

「逃げさせません!」
「もう終わりだよ」
「ぐっ……」

 オオクズ子爵が屋敷に向けて逃げ出そうとしたため、僕とクリスが身体能力強化魔法を使用して先回りした。
 更に、ヘルナンデス様やエレンお祖父様もゆっくりとオオクズ子爵へと歩み寄った。

「さて、これで悪あがきは終わりかな? もう一度だけ宣告しよう。無駄な抵抗は辞めて投降するように」
「ちっ……」

 ヘルナンデス様が再度宣告しても、肝心のオオクズ子爵は尚も悪あがきをしようとした。
 すると、オオクズ子爵は僕達にニヤリと不気味な笑みを浮かべたのです。

「ふふ、お前達はお人好しだから、こんな作戦を取られては手も足も出ないだろう。おい、ガキと息子の嫁を人質にしろ!」
「「「おう!」」」

 オオクズ子爵は屋敷に向かってとんでもないことを言い、屋敷の中からも数人の男の声が聞こえた。
 まさかとは思ったが、本当に赤ちゃんを人質に取るなんて。
 オオクズ子爵はこれで逃げ延びると思ったらしいが、そうは問屋が卸さない。

 バキッ、ドカッ。
 シュイン、バリバリバリ!

「「「「「うぎゃー!」」」」」
「はっ!?」

 突如として、屋敷のある部屋から男の叫び声と共に眩しい光が放たれた。
 間違いなく、スラちゃんとピーちゃんの雷魔法だ。
 予想外の展開に、オオクズ子爵は光が放たれた部屋をぽかーんとした表情で見上げていた。

 スッ、シャキン。

「お前らのやる事は織り込み済みで、それなりに対策をしていた。しかし、本当に人質を取ろうとするとはな。腐った性根の持ち主とは、まさにお前の事だな……」
「あわわわ……」

 ヘルナンデス様は、真剣を抜いてオオクズ子爵に突きつけた。
 人の親として、ヘルナンデス様はオオクズ子爵の取った行動が許せないのだろう。
 当のオオクズ子爵は、作戦が全て失敗して万事休す。
 尻もちをつきながら、ガクガクと震えていた。

「ただ、ここでお前に死んでもらっては困るからな。軍が親切丁寧に王都まで運んでやる、感謝するように。連れて行け!」
「「「「「はっ」」」」」
「トホホホ……」

 屈強な兵に拘束され、オオクズ子爵はようやく観念した。
 そして、領兵も私兵の拘束を手伝ってくれた。

「恐らく、屋敷内にもまだ私兵がいるかと思われます」
「貴重な意見に感謝する。ケンとクリスを向かわせる」

 領兵の偉い人の話を聞き、ヘルナンデス様は直ぐに指示を出した。
 スラちゃんとピーちゃんは、赤ちゃんを守るのに専念しているはずだ。
 玄関ドアは普通に空いているけど、探索魔法を使うと複数の反応があったため、僕とクリス、それにトラちゃんは念のために裏口から屋敷の中に入った。

「クリス、トラちゃん、悪い人を一気に倒すよ!」
「任せて。時間をかけないで、一気に行くよ」
「ガルッ!」

 クリスもやる気満々だし、何よりもトラちゃんも睡眠をいっぱいして元気満々だ。
 勢いよく屋敷の中を駆けていき、僕はクリスとトラちゃんと別れて執務室へと向かった。
 クリスとトラちゃんは玄関ホールを制圧し、更に赤ちゃんの安全を確保するために動き出した。

 シュッ、ガチャ。
 ギギギ……

「「「「「なっ!?」」」」」

 僕は、執務室のドアを解錠魔法で開けた。
 執務室の中には、オオクズ子爵とそっくりの青年と、数多くの私兵が驚愕の表情で僕を見た。
 もしかしたら、軍の兵はオオクズ子爵の私兵に負けたのかと思ったのかもしれない。

「宮廷魔導師のアスター子爵です。オオクズ子爵家に対し、強制捜査命令が出ていて、既にオオクズ子爵は捕縛しています。抵抗しなければ、手荒な事はしません」

 僕は、通信用魔導具に表示された強制捜査命令書を見せた。
 しかし、この瞬間オオクズ子爵の息子と私兵は一斉にナイフを抜いたのだ。

「うるせー、やっちまえー!」
「「「「「うおー!」」」」」

 私兵は、僕に向けて一斉に襲いかかってきた。
 とても分かりやすい回答で、僕もある意味やりやすい。

 シュッ、バシッ、バシッ!

「とう、やあ!」
「「「「「ごふっ……」」」」」

 僕は身体能力強化魔法でスピードをあげ、木剣で一瞬のうちに私兵を打ちのめした。
 結局、三十秒もかからずに全員倒した。
 うん、余りにも弱すぎる。

「へっ?」

 おお、オオクズ子爵の息子は思わずぽかーんとしているぞ。
 親子揃って、全く似たような反応をしているなあ。

「もう一度通告します。無駄な……」
「うるせー!」

 僕が再度説明している最中に、オオクズ子爵の息子は顔を真っ赤にして突っ込んできた。
 だが、その、体が横に大きいためなのか、動きがとても遅い。

「うおー! 死ねー!」

 ブオン、ヒョイッ。
 スカッ。

 オオクズ子爵の息子にとって渾身の上段斬りだったはずだが、半歩避けただけで簡単にやり過ごせた。

「おっ、おっ、うおー!」

 ズテーン。

「あがー!」

 そして、オオクズ子爵の息子は、足がもつれて派手に転んだ。
 しかも、膝を痛打したのか、涙目で床の上をゴロゴロと転がっていた。
 はあ、まともに走ることもできないくらい不摂生をしているとは。

 シュイン、バシッ。

「うがー、うがー!」

 僕は、溜息をつきながらオオクズ子爵の息子と私兵を拘束魔法で拘束した。
 オオクズ子爵の息子は未だにうめき声をあげているが、そこまで酷い怪我なのだろうか。
 ちょっと気になったので、確認してみよう。

 シュイン、もわーん。

「あっ……」

 鑑定魔法の結果に、僕は思わず言葉を失った。
 まさかの膝の靭帯損傷だった。
 思いっきり膝を床に打ち付けたのもあり、想像以上の大怪我だ。

「どうやら執務室は制圧……」
「うおー、うおー!」

 このタイミングでエレンお祖父様と軍の兵が執務室に入ってきたが、全員うめき声を上げているオオクズ子爵の息子に視線が向いた。

「エレンお祖父様、その、転んで膝を打って怪我をしています。しかも、歩くのも無理っぽそうです……」
「はあ、何とも情けないのう。ケン君、連行時に歩けないのは面倒だから、拘束後に軽く治療をしてやってくれ」

 エレンお祖父様のみならず、軍の兵も思わず溜息をつく醜さだった。
 オオクズ子爵の息子はブクブクに太った影響で病気持ちだったが、これは治療しなくても良いとの事だった。
 念のために通信用魔導具で各所に連絡したが、やはり同じ返信結果だった。