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 謁見の時間になり、僕達も謁見の間に移動を始めた。
 既に全ての貴族が謁見の間に入っているはずなのだが、謁見の間の前で僕達と一緒に入場する者が待っていた。

「ナッシュさん、おはようございます」
「ケン君、おはよう。皆様、おはようございます」

 ナッシュさんも、僕達と一緒にガルフォース辺境伯領に行っている。
 勿論、今回勲章を貰う事になっていた。
 警備体制をしっかりとし、安全に講和会議を行えたのは大きな功績だ。

「新年の謁見からまだ日が浅いのに、また集まるのかと文句を言う貴族もいそうですね」
「とはいえ、新年の謁見時に予め匂わせている。自分の都合ばかり押し付ける貴族の戯言など、いちいち聞いてられない」

 ヘルナンデス様が一刀両断したが、確かに文句を言うのは面倒くさい貴族しかいないだろう。
 僕も、そんな貴族の相手はしたくなかった。
 そして、ちょっと気になった事があった。

「うーん、予定時間をだいぶ過ぎていますね。何かあったのでしょうか?」

 当初の予定では、ダメ伯爵家の件と贅沢のしすぎで僕も治療できなかった件を先に話して、それから僕達が呼ばれて講和条約締結の報告をする予定だった。
 うーん、何か問題でも起きたのかな。

「間違いなく、贅沢をし過ぎてケン君でも治療できなかったという件で揉めているのだろう。贅沢をするなということなのかと、捉えているものもいるだろうな」

 ルーカス様がにべもなく言ったが、僕もその可能性があると思った。
 ところが、ここから予想外の事が起きてしまった。

 ギギギギ……

「貴族の方が倒れました。治療の手伝いをお願いします!」
「「「「「えっ!?」」」」」

 アナウンスがないのに謁見の間のドアが開いたかと思ったら、近衛騎士がとんでもない事を言ってきたのだ。
 僕達は、びっくりしつつ急いで謁見の間に入った。
 すると、絨毯の切れ目の所で体が横に大きい貴族が倒れており、近衛騎士が心臓マッサージを行っていた。
 心臓マッサージを受けている貴族は全く動く気配がなく、かなり危険な状況だと直ぐに分かった。
 王家のちびっ子は、王妃様とメアリーさんに抱きついて怖がっており、突然の出来事だったのだと直ぐに分かった。

「ケン、今直ぐこの貴族を治療するように」
「か、畏まりました。スラちゃん、シロちゃん、レモンちゃん、急いで治療するよ」

 陛下の指示を受け、僕達総出で倒れている貴族を治療する事になった。
 僕達は魔力を溜めると、直ぐに治療を開始した。
 近衛騎士による心臓マッサージも継続して行われた。
 周りにいる貴族も、僕の治療を固唾をのんで見守っていた。

 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!

「う、うぐぐ、これは……」

 僕達は一生懸命に治療をするのだが、倒れている人の体が悪すぎて中々治療できなかった。
 しかも、体力もあまりないのか、治療の効果も限られていた。

 ドクン。

「ごふっ……」
「あっ、し、心臓の鼓動が戻りました」

 治療を始めて五分後に、倒れていた貴族は何とか心臓の鼓動を取り戻した。
 だが、かなり容態が危ないので、直ぐに担架に乗せられて王城医務室に運ばれた。

「これ以上の、治療は、もう不可能です。体中が、ボロボロです。本人の、体力が、持つかどうか……」
「け、ケン、大丈夫? 汗だらけで、フラフラだよ」

 直ぐにクリスが僕に駆け寄ったが、僕は荒い呼吸を整えるので精一杯だった。
 スラちゃん達も同様で、疲れ果ててかなりへんにゃりとしていた。

「余に反論した者達よ、これが現実だ。【蒼の治癒師】たるケンがフラフラになるほどの治療をしても、命を繋ぎとめるのが精一杯だ。いや、ケンだからこそ何とか命を持てたのだろう。ケンはどんな相手だろうが、治療に関して手抜きをする事は決してない」
「「「「「うぐっ……」」」」」

 息を整えている間、陛下が貴族主義の貴族に怒るように叫んでいた。
 貴族たちはかなり悔しそうにしているが、どうやら僕がキケン伯爵夫妻の治療を手抜きでしたのではと言ったみたいだ。
 勿論あの時も僕は全力で治療したし、スラちゃんもとても頑張った。
 でも、どうしても僕の回復魔法でも限界はあった。
 うん、ちょっとフラフラするけどもう大丈夫。
 僕達は、改めて絨毯の切れ目に膝をついた。

「畏れ多くも、陛下にご報告いたします。帝国と無事に講和条約を締結いたしました」
「うむ、大義である。余も、無駄な血を流す事を望んでいない。しかし、まだ王国平和を害する存在がいる。引き続き対応を進めるように」
「畏まりました」

 ヘルナンデス様が代表して陛下に報告し、陛下も満足そうにしていた。
 続いて僕達に対する褒賞の報告がなされたが、貴族主義勢力からのクレームはなかった。
 というか、クレームを言うどころではないのだろう。

「続いて、新たな試みについて報告する。この度、貴族を対象にした一年制の学園を開校する事になった。成人前の貴族子弟が対象で、王国に接収されて使用していない屋敷を使用する事にする」

 おお、アーサー様が学びに関する新たな報告をしたが、実際に学園を作るんだ。
 僕は年齢的に学園に通えないが、とても興味が出てきた。
 これで謁見は終わったので、僕達は謁見の間から応接室に移動して話をする事になった。

「ねーねー、お友達は?」
「あいたいなー」
「あいたーい!」

 応接室に行くと、王家のちびっ子達がアイちゃんとリュウちゃんに会いたいとアピールしていた。
 因みに、イリスちゃんはまだ赤ちゃんなので、シーリアさんのところで預かってもらっていた。

「じゃあ、一緒に行こうかしらね。みんな、仲良くしてあげるのよ」
「「「はーい!」」」

 王太后様が、アイちゃんとリュウちゃんに会うのが待ちきれない三人を連れて行ってくれた。
 元気が良いちびっ子達に、みんなほっこりとしていた。
 ここからは、先程の謁見の話となった。

「ケンが治療した者がした話はもう良いだろう。後は、本人の体力次第だ。念のために、明日朝もう一度治療するように。あと、教会に治療が出来るスライムを派遣してくれ。あの様子では、直ぐに貴族が教会に向かうだろう」

 貴族主義の貴族も、自分も贅沢のしすぎで死ぬのではという不安に駆られるだろう。
 この後、ピーちゃんに乗ってシロちゃんとレモンちゃんが教会に行ってくれる事になった。

「学園の件はこの後詰めることになるが、将来的には二年制にする予定だ。平民にも門戸を開く予定だが、もう少し先になる」

 元伯爵家の屋敷なので、屋敷の広さは十分にある。
 内装を改装する必要があるが、かなり面白い事になりそうだ。
 すると、陛下がとんでもない事を言ってきたのだ。

「そうそう、ケンを教師にする案が出ている。業務があるから、週一回だな」
「えっ、僕が教師、ですか?」
「そうだ。年齢が近い者がいた方が、何かと話も聞きやすいだろう」

 な、なんだかもう既に僕が教師になる事が決まっている感じがする。
 うん、これはもう少し詳しく話が固まるのを待たないといけない。
 話はこれで終わりらしいので、応接室から執務室に移動する事に。
 でも、その前にちびっ子達のいる部屋を覗く事にした。

 ガチャ。

「あのね、ユキちゃんはとっても可愛いんだよ!」
「ウォン!」
「わあ、そうなんだね」

 アリアちゃんが、張り切ってユキちゃんを紹介していた。
 何だか、この前のルートちゃんと同じ事が目の前で繰り広げられていた。
 とはいえ、みんな仲良くなってホッと一安心だ。
 すると、この人のひと言で一気に場の空気が変わった。

「ふふ、じゃあこの後はみんなで勉強部屋に移動してお勉強ね。折角だから、ケイトちゃんも呼びましょうね」
「「「「「えー!?」」」」」

 ちびっ子達の気持ちが一致した瞬間だったが、ニコリとしている王妃様には効果がなかった。
 みんなしょんぼりしながら、勉強部屋にドナドナされていった。
 うん、僕達も仕事を頑張ろうと思ったのだった。