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「ニーナ、思いっきり叩いただろう……」
「当然です。ピーター様の体は頑丈ですので、多少強く殴っても問題ありません」
「そういうことではないだろう……」

 ピーター様からニーナと言われた女性は、シュッと大きなハリセンをどこかにしまった。
 魔法的な気配はしなかったし、思いっきり不思議なマジックだ。

「ケン様、お座り下さいませ。ピーター様は、初対面の人に変態的……ごほん、あんな馬鹿な事をするのです。もう大丈夫ですのでご安心ください」
「あっ、シザース侯爵やヘルナンデス様が注意してと言ったのはこういうことなんですね」
「ええ、その通りです。その為、ピーター様はあっという間に変態司令官だと思われております」

 ニーナさんがお茶を淹れながら色々と教えてくれたけど、何というかもの凄い毒を吐いている気がするよ。
 とにかく、僕の身の安全はもう大丈夫って事ですね。

「初対面の女性を褒めるのと一緒だ。特に、ケンは美少年で愛でるのは当然だろう」

 ピーター様が何かを言ったので、僕は思わず身震いしてしまった。
 うん、変態司令官って言われる所以が良く分かった。
 そして、ここでとんでもないことが判明した。

「あと、ニーナは私の婚約者だ。シーゲル伯爵家の令嬢だ」
「どうも、変態司令官の婚約者です」

 えー!?
 これまた凄いビックリしてしまった。
 でも、だからこそニーナさんはピーター様の暴走を止める事ができるんだ。

「では、さっそく話をしよう。軍の過激派が拘束されたという話は、私も勿論聞いている。非常に由々しき事態であるのは間違いない。ケンだけでなく、優秀な兵に改めて前線基地内の総点検を命じている。また、施設内の備品などのチェックもだ。馬鹿な事をするものは、後ろめたい気持ちがある。ベテランが見れば直ぐに分かるだろう」

 おお、既に色々と手を打っているんだ。
 確かに、変態だけど頭脳はとても優秀なんだ。

「ケンの連れている優秀なスライムもそうだが、是非ともケンの力も貸して欲しい。護衛の為に、兵をつけるよう手配する」
「えっ? 僕はいつも国境の基地では一人で動いていましたよ」
「ケンは、とても優秀な人材だ。子爵や宮廷魔導師という立場を除外しても、必ず警備をつけなければならない」

 何というか、真面目スタイルのピーター様はもの凄く頭が切れるなあ。
 理路整然と話をするし、さっきうっとりとした表情で僕に顎クイをした人物と同じとは思わなかった。
 おやつの時間前には国境の基地を出発しないといけないので、僕もこれで司令官室を後にした。
 すると、僕を司令官室に案内した顔見知りの兵が心配そうに話しかけてきた。

「おいケン、あの司令官に何かされなかったか?」
「その、キラキラした目で顎クイをされました……」
「おい、今までで一番の反応じゃないか。ある意味流石としか言えないな」

 顔見知りの兵が思いっきり溜息をついたが、僕ももうあんな思いはしたくない。
 うん、気持ちを切り替えて仕事に集中しよう。
 僕は、前線基地の建物から出た。

「じゃあ、最初に抜け道がないか周囲の確認をしますね」
「おう、やってくれ」

 顔見知りの兵が集まってきた中、僕は魔力を集めて地面に手をついた。

 シュイン、シュイン、シュイン、もわーん。

「「「「「おおー!」」」」」

 僕の魔法を初めてみた兵は、思わず感嘆の声を上げていた。
 さてと、広範囲探索魔法の結果は……
 あれ?
 あれあれ?

「大至急調査依頼です。基地の西側に、陣地内に伸びそうな隠し通路っぽいものがあります! 防壁の少し先の茂みの中に、小屋っぽい反応もありますね」
「「「「「はあ!?」」」」」

 僕の探索魔法の結果を聞き、兵がかなりビックリした声をあげたのです。
 もう少し探索魔法の精度を上げようと、僕たちは探索魔法で反応のあった場所に向かった。

 シュイン、もわーん。

「やっぱり、ここの真下に何かあります。ここを真っすぐ進んだ先に、小屋があります」
「よし、手分けして調べるぞ」
「空振りならそれでいい。やるだけやるぞ!」

 改めて、兵が慌ただしく動き始めた。
 何事も無ければいいけど、何だかその可能性は低いと思った。
 すると、今度は別の兵から急ぎの話がやってきた。

「おい、ケンの連れているスライムが悪人を捕まえたぞ!」
「ええ!?」

 僕は、直ぐに兵の後をついて行った。
 すると、食堂に複数の兵が縄でぐるぐる巻きにされていたのだ。

「やっぱりコイツラだったのかよ。いつもコソコソと何かやっていたわね!」
「お、おばちゃん、落ち着いて!」
「「「「「ヒィィィ……」」」」」

 食堂のおばちゃんが捕まった五人にガチギレしていて、複数の兵が何とかおばちゃんをなだめていた。
 普段の行動から、とても怪しかったんだ。
 では、僕も拘束された兵を鑑定しないと。

 シュイン、もわーん。

「あっ、やっぱり過激派と出ました。しかも、窃盗に横領までついています」
「これで確定ね。最近、食料の窃盗があったんだよ。あんた達、落とし前をつけてもらうわよ!」
「「「「「わわー!」」」」」

 みんなの大事な食料を盗まれたのだから、おばちゃんが激怒するのも納得です。
 でも、ここで追加の騒ぎを起こしてはいけないので、兵には頑張っておばちゃんを抑えてもらいましょう。
 というか、おばちゃんは兵に羽交い絞めにされても引きずっているよ。
 さすがおばちゃん、もの凄いパワーだ。

「あれ? スラちゃんはどこに行ったんですか?」
「おう、兵と共に司令官室に向かったぞ。それにしては遅いな」

 これは、もしかしたらピーター様がスラちゃんに何かをしたのかもしれない。
 無事だと祈りつつ、僕は現在起きている事を通信用魔導具で各所に連絡したのだった。