毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 僕は手早く三十分で治療施設に入院している負傷兵の確認を行い、出来る範囲で追加治療をした。
 そして、再び教会の入り口へと戻った。

「おっ、ケン君お帰り」

 ヘルナンデス様とルーカス様はハーデス様と立ちながら色々と話をしており、僕の存在に気がついたルーカス様が声をかけてくれた。
 スラちゃんは一足先に治療を終えていて、ルーカス様の肩に乗って一緒に話を聞いていた。

「治療施設にいた負傷兵は、可能な限り治療しました。その、手や足を切られている人は完全に治療できませんでした」
「そればかりはしょうがない。余裕があれば手足の再生をお願いしたいが、今はどうしても治療の優先度が決まってしまう」

 ルーカス様は、治療できずに悔しくて少し俯いている僕の頭を優しく撫でてくれた。
 そして、スラちゃんも僕の頭の上に戻って改めて話をすることに。

「しかし、まさか治療しただけでなく教会までもが新品みたいになるとはな」
「す、すみません。やり過ぎちゃいました……」
「ハハハ、ケンを責めているわけではない。それだけ、凄い魔法だったということだ」

 またまたしょぼんとした僕に対し、ハーデス様は豪快に笑っていた。
 そして、ヘルナンデス様からこれからの対応を話してくれた。

「前線基地には、今以上の負傷兵がいる。重傷の程度にもよるが、ケン君とスラちゃんの魔法ならある程度は戦線に復帰できるだろう。領都から国境まで約二時間、着くころには仮に戦闘があったとしても終わっているだろう。軽く昼食を食べて、直ぐに出発する」

 僕とスラちゃんは、ヘルナンデス様の方針にコクリと頷いた。
 今は魔力もかなり減ってしまったが、食事をして馬車の中で休めば魔力もだいぶ回復する。
 教会内の応接室に移動し、そこで昼食を食べることにした。
 ハーデス様は屋敷に戻って仕事をするそうで、ここでお別れだ。

「稀代の治癒師よ、活躍を期待する」

 ハーデス様は再び僕とスラちゃんとガッチリ握手をし、馬車に乗って足早に去って行った。
 さて、僕たちも昼食を食べないと。
 僕たちは、シスターさんの案内で教会の応接室へと移動した。

「兵に提供しているものと同じで、大変申し訳ありません」

 シスターさんが運んできたのは、パンとスープという至ってシンプルなものだった。
 僕は前世も屋敷にいる間も物凄く粗末な食事だったから、全く気にしていなかった。

「寧ろこの状況で食事を頂けるのだ、感謝しなければならない」
「そう言って頂けると、本当にありがたく思います」

 ヘルナンデス様が代表してシスターさんに答え、ルーカス様も護衛の兵も同様に頷いた。
 というか、普通にスープも美味しいし僕的には満足する昼食だった。
 こうして昼食も終え、僕たちは馬車に乗って国境へ出発した。

「すー、すー」

 馬車が出発して程なくして、僕とスラちゃんは治療の疲れなのか馬車の壁にもたれかかって直ぐに眠ってしまった。
 ヘルナンデス様とルーカス様は、寝ている僕を起こさないように静かに打ち合わせをしてくれたのだった。

「う、うーん。ここは……」

 どれくらい寝ていたのだろうか、僕とスラちゃんはふと目が覚めた。
 目をこすりながら辺りをキョロキョロと見回すと、まだ馬車の中だった。
 でも、馬車は止まっていて周囲は忙しそうに動く兵の喧騒に包まれていた。

「ケン君、良いタイミングで起きた。ちょうど、前線基地に到着したところだ」

 ルーカス様が僕に話しかけてくれて、ようやく状況を理解した。
 どうやら、僕とスラちゃんは国境の前線基地までの道中ぐっすりと寝ていたみたいだ。
 うーんと背伸びをして眠気を吹き飛ばし、ヘルナンデス様とルーカス様と共に馬車を降りた。

「我々は、前線基地の司令官のところに向かう。ケン君は、兵と共に施設の食堂に向かってくれ」

 僕は、ヘルナンデス様の指示を聞いて「おやっ?」ってなってしまった。
 なんで医務室ではなく食堂に行くのかなと思ったが、兵と共に食堂に着くと直ぐにヘルナンデス様の指示の理由が判明した。

「うぐっ、ぐぐ……」
「がはっ、ごほっ……」
「おい、ポーションが足りないぞ!」

 なんと、食堂に百人を超える多くの負傷兵が集められていたのです。
 しかも、怪我の様子をみるに、ついさっき怪我したみたいだ。

「本日発生した戦闘にて怪我をしたものです。他にも、治療施設に運ばれているものもいます」

 案内してくれた兵は、かなり心苦しく言っていた。
 とはいえ、先ずは治療して元気になってもらわないと。
 ぐっすりとお昼寝をしたから、体力も魔力も十分に回復していた。
 僕とスラちゃんは、さっそく魔力を溜め始めた。

 シュイン、シュイン、シュイン。

「何だ、これは?」
「いったい、どうなっているんだ?」

 食堂を明るく照らす複数の魔法陣に、治療していた兵はその手を止めた。
 そして、僕とスラちゃんは一気に魔力を解放した。

 シュイン、シュイン、ぴかー!

「おい、怪我が良くなっているぞ。ど、どうなっているんだ?」
「どうなっているんだ? さっきまで、みんなうめき声を上げていたはずだぞ」

 突然負傷兵の状態が良くなり、治療をしていた兵は信じられないという表情をしていた。
 僕を案内してくれた兵も目をまん丸にするほどびっくりしていたが、僕とスラちゃんはまだまだやることがあった。

「治療漏れがないか確認をします。すみません、スラちゃんと一緒に確認をお願いします」
「は、はい。分かりました」

 まだ治療をしないといけない人はたくさんいるので、僕とスラちゃんはスピードモードでササッと確認を終えた。
 すると、今度は治療施設ではなく前線基地の玄関前に来てくれと言われた。
 玄関前に移動すると、多くの兵が地べたに座っていた。
 どうやら、今日の戦闘で戦った人たちらしい。
 今度は、司令官との挨拶を終えたルーカス様が僕の側にやってきた。

「治療施設に運ばれた重傷者には、持ってきたポーションを使って応急処置をした。それよりも、軽症でまだ動けるものを先に治療してくれ」

 重傷者を治療するとなると、たくさんの魔力を使ってしまう。
 それだけの魔力を消費するのなら、先に動ける人を治療した方がいいという。
 もちろん重傷者の治療をしない訳ではなく、戦況を見て治療を進めるという。
 ということで、僕とスラちゃんはまたまた魔力を溜め始めた。

 シュイン、シュイン、シュイン。

「おいおい、なんだこれは?」
「まさか、魔法じゃないよな?」

 多くの兵が宙に浮いているたくさんの魔法陣に、ザワザワとざわめきを起こしていた。
 ところが、僕とスラちゃんが溜めた魔力を解放すると、別の反応を示したのだ。

 シュイン、シュイン、ぴかー!

「うおっ、眩しい!」
「おっ? ついでに腰の痛みが取れたぞ」
「膝がスムーズに動く!」

 兵は、体の調子が良くなってかなり驚いていた。
 ここにいる兵は軽症から中等症レベルの怪我なので、ほぼ完治したはずだ。
 とはいえ、流石に連続で治療した兵の数が多すぎた。

 クラクラクラ、ドスッ。

「ケン君、大丈夫か?」

 僕は、思わず目眩を起こして尻もちをついてしまった。
 スラちゃんも、僕の胸の上でへんにゃりとしていた。
 尻もちをついた僕を、ルーカス様がヒョイっと抱き上げてくれた。
 しかし、治療で疲れてしまった僕は、スラちゃんを抱き締めたままガクリと意識を失ってしまったのだった。