毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 翌朝、僕とスラちゃんはダッシュ伯爵領での治療を行った際の倍となる二十人の護衛と共にグロリアス子爵領の教会に向かった。
 あまりの護衛の数に、まるで大貴族になったような気分だ。
 まだ早朝で町の人たちもそんなに数多くないのに、みんなが大勢の護衛に守れている僕の馬車を見ていた。
 そんな衆人監視の中、馬車はグロリアス子爵領の教会に到着した。
 教会脇の馬車置き場に馬車を止め、僕たちは教会の中に入っていった。

「シスターさん、おはようございます」
「おはようございます。本日は宜しくお願いします」

 年配のシスターさんが、僕たちをにこやかに出迎えてくれた。
 既に椅子の準備とかは出来ていたけど、残念ながらグロリアス子爵領兵はまだ教会に姿を現していなかった。
 とはいえ、既に教会の中に町の人が治療を受けるために入っているので、準備を整えて治療を始めた。
 護衛の兵も、ダッシュ伯爵領の治療の時にいた兵から指導を受けながら的確に人の列を整理していた。
 もちろん、僕もスラちゃんも頑張って町の人の治療をした。
 こうして、ほぼ問題なく治療は進んでいった。

「うーん、グロリアス子爵領兵はまだ姿を現さないですね。何かトラブルでもあったんでしょうか」
「流石に他所様の事情は分からんが、開始から一時間も経っているのに来ないのはおかしいな」

 今日は広範囲回復魔法を使うほど治療が忙しい訳ではないが、なぜグロリアス子爵領兵が来ないのかみんな疑問に思っていた。
 すると、このタイミングでこの人たちが姿を現したのです。

「ケン君、遅くなって申し訳ないわ」
「「きたよー」」

 なんと、マヤ様と息子二人が教会の中に入ってきました。
 息子二人は、スラちゃんのいる椅子に座って一緒にスラちゃんを抱っこしていた。
 どうやら、治療のお手伝いをしてくれるみたいだ。

「マヤ様、わざわざすみません」
「いいのよ、私がケン君に頼んだことなのだからね」

 治療をしながらマヤ様と会話するが、そのマヤ様は周囲をキョロキョロと見回していた。
 あっ、もしかして……

「その、治療を始める前からグロリアス子爵領兵は来ていません。今日は護衛が多いので、混乱なく大丈夫なのですが……」
「まあ、そうなのね。本当に申し訳ないわ」

 マヤ様は、僕に謝りつつ一緒に来ていた護衛に指示を出した。
 間違いなく、グロリアス子爵領兵が来ていない件だ。

「ケン君、お疲れ。どうやら順調みたいだな」

 更に、早朝行われた会議を終えたルーカス様が教会に姿を現したのです。
 現在の状況を伝え、更にマヤ様がルーカス様に謝罪していた。
 ここは、偉い人同士で話をつけてもらわないと。

「なんだよ、折角寝ていたのに……」

 そしてルーカス様が教会に入って三十分後、態度の悪い兵が教会の中に入ってきた。
 装備も少し着崩しているし、嫌々教会に来ているのが一目で分かった。
 僕とスラちゃんは治療しながらちらりと見ていたが、護衛の兵は態度の悪い兵を睨みつけていた。

「守備隊長、昨夜私は警備人員を出すようにと指示をしたはずですよね。こちらにおられる、ルーカス第二王子殿下への依頼事項として」
「はっ?」

 うわあ、マヤ様が守備隊長と呼ばれた人に真顔でガチギレしているよ。
 美人が怒ると、とんでもない迫力だ。
 それなのに、守備隊長は状況が読めないのかぽかーんとしているね。

「とはいえ、あなたにはこれ以上話しても無駄でしょう。守備隊長を武装解除し、聴取を行うように」
「「「はっ」」」
「ちょ、おい!」

 気だるそうにしていた守備隊長は、マヤ様の護衛によってあっという間に教会の外に連れ出された。
 そして、マヤ様は一つ溜息をついてから事情を説明してくれた。

「主人が亡くなって私が当主代理になって以降、女だからと見下しているものが少なからずおりまして。先ほどの守備隊長も、度々指示を無視しておりました」
「心中お察しします。私も、若いという理由で見下しているものがおります」

 マヤ様とルーカス様は、お互いに苦労話をしていた。
 女だからとか、王族でも若いからという理由で、心ない言葉をかけたり態度に示したりするものがいるという。
 軍で文句を言っているものの中に、絶対に父親と兄がいると思った。
 その後も教会内での治療はスムーズに進んで行ったのだが、やはりお昼前になるとかなりの人が集まった。
 そこで、最後に教会内に入るだけ入ってもらい、広範囲回復魔法を放つことにした。

 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!

「これは、想像以上の回復魔法ですわ……」
「「すごーい!」」

 教会内が、回復魔法の青色の光と聖魔法の黄色の光で輝いていた。
 マヤ様は驚愕の表情をし、息子二人は光の渦に無邪気に喜んでいた。
 実際に治療効果は抜群で、多くの人が怪我や病気が治ったことに更に驚愕した。
 これで、グロリアス子爵領での治療は完了だ。
 僕は、改めてマヤ様に向き直った。

「我が領の恥を見せてしまい、本当に申し訳ないわ。それでも、ケン君は多くの人を治療してくれた。本当にありがとうね」
「わわっ!」

 僕は、またマヤ様に思いっきり抱きしめられてしまった。
 とはいえ、今日は感謝の抱擁なので直ぐに解放してくれた。
 スラちゃんも、マヤ様の息子二人によく頑張ったと触手をフリフリしていた。
 僕たちは、教会の脇に止めた馬車の前に移動した。

「それでは、我々はこれにて失礼する」
「ルーカス様、並びに皆様のご健闘をお祈りしますわ」

 ルーカス様とマヤ様は、にこやかに握手をした。
 そして、僕たちは馬車に乗り込んだ。

「「「バイバイ!」」」

 僕は、馬車の窓からマヤ様の息子二人に手を振った。
 スラちゃんも、僕の頭の上で触手をフリフリしていた。
 ふう、何とか治療も終わったね。

「領主が変わったばかりだと、大変なこともあるんですね」
「特に、今回は領主夫人が代理になっている。確かに、女性だからといって偏見の目で見るものがいるのは否定できない。落ち着くまで、暫く時間がかかるだろう」

 ルーカス様も、領地統治は大変だと苦労話をしてくれた。
 将来ルーカス様も王家から独立することになっているし、その際には領地持ちになるかもしれない。
 今回のグロリアス子爵領での件は、良い経験になったと感じたのだった。