毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 その後も僕たちのいる部隊は順調に街道を進み、野営を繰り返しながら二回目の補給を行う領地に近づいた。
 因みに、野営地などで出会った人で病人などがいれば積極的に治療した。
 戦争を行っているので、出来るだけ軍の印象を良くするための対応も兼ねているという。
 政治的な意図もあるが、僕とスラちゃんは単に元気になってもらえればとも思っていた。
 そんな中、無事に補給を行う領地の軍事基地に到着した。
 各自が到着後の対応を進め、改めて集合した。

「これから、グロリアス子爵家に挨拶に行く。各自、作業を進めるように」
「「「「「はっ」」」」」

 僕もヘルナンデス様とルーカス様と共にグロリアス子爵家に挨拶に行く前提で話が進んでいた。
 しかも、今回も兵と馬は怪我も病気もなく元気いっぱいだった。
 ヘルナンデス様とルーカス様と共に、馬車に乗り込んでグロリアス子爵家の屋敷へ出発した。

「このグロリアス子爵領は、畑が沢山あるんですね」
「ケン君は、周囲をよく見ている。グロリアス子爵領一帯は肥沃な土地に恵まれ、農作物の生産がとても盛んだ。辺境伯領にも農作物は送られていて、もちろん国境で使用する食料にも使われている」

 ルーカス様は、良くできたと僕の頭を撫でてくれた。
 街道沿いに領地があるため、ダッシュ伯爵領や一部は王都にも送られているという。
 まさに、王国の人の食事を支えている重要な領地だ。
 市場にもたくさんの野菜が並んでいて、人々の暮らしを支えていた。
 いったいどんな領主がいるのだろうかと思いながら、僕たちを乗せた馬車はグロリアス子爵家の屋敷に到着した。
 直ぐに応接室に案内されると、そこには一人の女性と僕よりも小さな二人の男の子がいたのだ。

「皆さま、ようこそグロリアス子爵家へ。当主代理をしております、マヤと申します。昨年主人が亡くなったので、幼い息子に代わって代理統治をしております」

 マヤ様はピンク色のふわふわのセミロングで、背は普通よりも低いのに前世のグラビアモデル真っ青のスタイルの良さを誇っていた。
 旦那さんととても仲が良かったのに、昨年病気で急死してしまったという。
 幼い男の子二人は緑髪のショートヘアで、亡くなった旦那さんの髪の色らしい。
 僕は挨拶をするために、マヤ様の前に歩み寄った。

「はじめまして、僕はギャイン騎士爵家のケンです。一緒にいるのは、スライムのスラちゃんです」
「あのイリス様のお子様ですね。今までの経緯は聞いております。嗚呼、何と不憫な事だったのでしょうか……」

 ムギュッ!

「むぐっ、むぐぐ!?」

 何と、握手をしようと手を差し出したら感涙しているマヤ様に抱きしめられてしまった。
 その、大きな柔らかい胸に埋もれて、息が、息が……

「はあはあはあはあ……」
「あら、ごめんなさい。つい、感情的になってしまったわ」

 まさか、女性の胸に埋もれて窒息死しかけるとは思わなかった。
 一緒にいる大人の男性二人が、一瞬羨ましいという表情を見せたのは内緒だ。
 改めてソファーに座って、マヤ様と話をすることになった。

「わあ、凄い凄い!」
「すごーい!」

 そして、小さい男の子二人の側にはスラちゃんがいて、魔力玉を宙に浮かべてマジックのようにしていた。
 何だか、とてもほのぼのとする光景だ。

「実は私は王都から嫁いでいて、ケン君のお母様であるイリス様と大教会での奉仕活動で一緒だったのよ。年の離れた私にもとても良くしてくれたわ。だから、その忘れ形見でもあるケン君を目の前にして、思わず抱き締めてしまったのよ」

 マヤ様は、昔を懐かしむように染み染みと話してくれた。
 母親の交友関係がとんでもなく広くて、改めてびっくりしていた。

「私は息子二人を育てながら統治を行っているため、皆様には領内でとれた野菜しかお渡しできません。本当に、申し訳ありません」
「マヤ様こそ、お忙しいのに新鮮な野菜を供給頂き本当に感謝申し上げる。ケン君の魔法袋に入れれば、全て新鮮なまま前線に届けることができますぞ」
「そうですわ、その方法がありましたわね」

 深々と頭を下げるマヤ様に、ヘルナンデス様も頭を下げていた。
 食料がキチンと確保されるのは、士気を保つ上でとても重要だ。
 そういう意味でも、グロリアス子爵家からの支援はとても大きな意味を持っていた。
 そして、マヤ様からもあることを依頼された。

「お忙しい中申し訳ありませんが、ケン君に子爵領での治療をお願いしたいと思っております。もちろん、護衛も出しますので」
「既に、他の領地でも治療をしています。それでは、出発するまでの間対応するようにします」
「本当にありがとうございます。教会には、私から伝えておきます」

 ヘルナンデス様も、マヤ様から治療の依頼が来るのではと予想していた。
 僕もスラちゃんも全然大丈夫なので、ここは町の人のために頑張らないと。
 マヤ様との話はこれで終わりで、スラちゃんも小さな子どもたちにバイバイと触手をフリフリしていた。
 そして、軍事基地に戻って明日の治療のことを兵に伝えると、こんな意見が兵から出された。

「今回は、護衛を二十人に増やします」
「グロリアス子爵領兵も護衛に加わったとしても、十人では全然足りません」
「うむ、許可しよう」

 ヘルナンデス様も、直ぐに兵からの進言を許可した。
 前回教会に物凄い数の人が集まったし、最初から対策をした方がいいね。

「僕も、人数が少なかったら一人ずつ治療して、人が多くなったら広範囲回復魔法で一気に治療します」
「治療方針に関しては、ケン君に任せよう。国境に着いた時の現場実習だと思って、一生懸命やるように」
「はい!」

 国境には多くの負傷兵がおり、それこそ僕とスラちゃんが治療を頑張らないといけない。
 僕とスラちゃんのやる気に、ヘルナンデス様も満足そうに頷いていたのだった。