毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 ホークスター王国。
 中世ヨーロッパに似た風光明媚なこの国は、資源に恵まれ農業も盛んなとても豊かな国だ。
 人々は労働意欲に溢れ、今も未開地の開拓を進めている。
 この王国には爵位別に分かれた貴族制度が存在し、国のトップたる国王が君臨し統治していた。
 国のため、国民のため、国王を中心とする面々が日々汗をかいており、国民も国王に対しての感情は良好だった。

 そんなホークスター王国の隣国には、ベルファスト帝国という国が存在していた。
 自国よりも豊かな資源を誇るホークスター王国を狙い、両国間は常に緊張状態にあった。
 自己中心的で専制的な皇帝一家の欲望が、いつ爆発するか分からなかった。
 両国は、過去に何度も衝突をしては停戦するということを繰り返していた。
 そして、今は辛うじて停戦が維持されている状態だった。

 春から夏に季節が移り変わりつつあり、段々と暑い日も増えてきたある日のことだった。
 突然発生した帝国の奇襲により、両国間の緊張が一気に爆発してしまった。
 王国側は万が一に備えて対策をしていたとはいえ、やはり急な攻撃に防戦一方だった。
 負傷兵も増え続けた中、辛うじてなんとか持ちこたえていた。
 各地の兵も急遽帝国との国境に派遣される中、国は緊急の対策として貴族義務として一定割合の国への奉仕を命じた。
 資産や武器の寄付をするもの、教会などでの奉仕活動をするものなど、行う行為は様々だ。
 もちろん、王家も成人したばかりの第二王子を国境に派遣するなど、自ら行動して挙国一致を示していた。
 国民の中には、戦争が始まると知ると軍に志願するものも現れた。
 こうして、国が一丸となって帝国との戦いを進めようとしていた。
 軍の第一陣が王都を出発し第二王子率いる第二陣の出発を五日後に控えた中、王都の軍の施設で悩ましい問題が起きてしまった。

「はあ……まさか、こんな馬鹿げたことをするものがいるとは……」

 王都内にある軍の施設内にある応接室で、この国の第二王子はある手紙を見るなり思わず溜息をついてしまった。
 そして、テーブルを挟んだ向かい側には小さな男の子がこれまた小さなスライムを抱きながらちょこんと座っていた。
 しょぼんと悲しそうに俯いている男の子は美しいサファイア色の髪を持ち、一見すると美少女にも見える美貌の持ち主だった。
 しかし、男の子が着ていた服は一般市民のもので、しかもかなりくたびれていた。
 ところが、第二王子が手にしていた手紙にはこんなことが書かれていたのだ。

「『我が子ケンを、国への戦争資源として提供する』。まさか王国貴族たるものが、しかも軍人貴族というものが小さな子どもを戦費として提供するとは。愚かにも程がある!」

 第二王子は、手紙に書かれていた内容に思わず手紙ごと握りしめていた。
 嘘でも冗談でもなく、第二王子の前に座る男の子はとある貴族より戦費の代わりとして提供された貴族の子どもだった。

「直ぐに、この子の父親を調べるように」
「はっ、畏まりました」

 第二王子は、即座に小さな男の子の父親である軍人貴族を徹底的に調べるよう指示を出した。
 まさか、こんな予想外の問題が起こるとは全く想定していなかった。
 確かに資金以外に物資などの供給も認めており、中には輸送用にと馬などの提供を受けた例もあった。
 しかし、今回は家畜でもなく紛れもなく小さな男の子だ。
 もちろん、人をモノ扱いなどできなかった。

「待たせてすまない、改めて話をしよう。君の名を教えて欲しい」

 一通り部下への指示を終えると、第二王子は気持ちを整えて改めて仕切り直した。
 すると、男の子はスライムを抱いたままソファーから立ち上がり、ペコリと頭を下げた。

「ギャイン騎士爵家のケンといいます。スライムのスラちゃんです。父親は全く知りませんが、僕とスラちゃんは回復魔法が使えます」
「なに? 回復魔法が使える、だと?」

 第二王子は、男の子の話を聞くなり目の色を変えた。
 この世界には、不思議な力である魔法を使える魔法使いが存在していた。
 しかし、誰もが魔法を使えるわけではなく、その数は数百人に一人という割合だ。
 しかも、魔法使いといっても火魔法や水魔法しか使えないものが殆どで、全ての魔法が使えるものは国中を探してもいないのではと言われていた。
 多くの負傷兵を抱えている軍にとって、回復魔法使いは喉から手が出る程必要だった。
 その回復魔法使いが、まさに第二王子の目の前に立っていたのだ。
 もしかしたら、予想外の出会いになるかもしれない。
 第二王子は、目の前にいる不安そうな表情の男の子に対する認識を少しずつ変えていった。
 そして、この出会いこそが、後に国を大きく変えていくことになるとは、第二王子を含めたほぼ全ての者はこの時点では思いもしなかったのだった。