前世王子アイドルグループ~僕たちは君の一番星になりたい☆。.:*・゜

「両手でふすまっ、逆も開くよ、はい、はい、はい、はい!」

 僕は今、本当にふすまを両手で開いているわけではない。

 ライブだけではなく、今までの曲や新曲のダンスの振り入れもしなければならない。

覚える量が多すぎて頭が混乱した僕。そんな僕をみかねて、れんくんはさらに今みたいに分かりやすくダンスを教えてくれるようになった。お陰で前よりも振り付け迷子にならなくなってきた。

 そんな感じで毎日あれこれ勉強していると、あっという間に寒い季節になってきた。

 ライブの曲の順番が書いてあるセットリストが配られ、とうとう本格的にライブを意識する日々が始まった。

 プリレボ公式SNS、公式サイトには

『ライブでサプライズ発表が!』

と、どどんと大きく書かれた。

 そしてついに、ライブの日がやって来た!

 朝から会場入りした僕たち。広すぎて迷子になってしまいそうだから、四人を見失わないように気をつけながら、みんなのあとをついていく。

 裏側ではたくさんのスタッフさんがいた。もうそれは想像以上の数だった。こんなにたくさんの人たちと一緒にひとつのものを作るなんて……すごいな! そたくんはひとりひとりに丁寧に挨拶をしていた。僕も真似をしながら控え室に向かった。

 ちなみに今日はお客さんが五万人ぐらい来るらしい。人数を聞いた時には、驚いた。

 五万人の星になる気持ちで頑張る!

 会場に着いてからはせわしなく動き、本番と同じ衣装、照明、音響、舞台装置でプログラム通りに止めずに進行する、通しリハーサルが始まった。

 僕の出番は最後だけだから、許可をもらって客席から眺めていた。演出が派手だったり綺麗だったりで、全部がとにかくいい! そしてプリレボはずっと、すごくすごく王子でキラキラと輝いていて、まさに本物の星だった。目が釘付けになる。

 僕も王子に、キラキラ輝く星にきちんとなれるかな?
 あの偉大なプリレボのメンバーに、本当になれるのかな?

 そしてついに昼、本番が始まった。 

 プリレボファンのみんなは僕を受け入れてくれるだろうか。
 帰れとか、傷つく文句はとんで来ないだろうか。

 そして、失敗しないで最後までやり遂げられるだろうか。みんなに迷惑をかけたくない。

 いや、僕は……。

――みんなの星になりたい! なるんだ!

 もうすぐラスト、舞台袖で自分の出番を待つ。
 そっと前世の衣装を身にまとうメンバーたちを見つめる。

「ついに、ラストの曲となりました!」
「と、その前に今日は、みんなに大切なお知らせがあるよ!」

 みずっきくん、そたくんが笑顔で言う。
 とうとう僕の出番がやって来た。

「えっ、なになに~?」と、しーおんくんが首をかしげて「いや、しーおんは知ってるだろ?」と最後にれんくんが冷静にツッコミを入れた。

「キャー」「何?」と、客席は騒ぎ始める。

 騒ぐ声に比例して、僕の心臓の音はさらに早まる。
 ドキドキドキドキ……。

「それでは、新メンバー、五人目の星を紹介します!! いつきーん!!!」

 僕は深く深く息を吸い込み、そして吐いた。
 そして煌めくステージに向かって走り、中心に立つ。とても大きなざわめきの声が、僕の耳に届いてくる。

 えっ、やばい。人が多すぎて視線を浴びすぎて。喉元にひゅっと言葉が詰まり、言葉が出なくなる。

 会場は、しんとなった。

――どうしよう。僕のせいで、ライブが壊れちゃう。

 ピンライトで僕だけ照らされているのに。時間が止まったかのように立ち止まっていると、背中をポンとされた。

振り向くと笑顔のそたくんがいた。続けてれんくんが左に来て左の肩を。右側にはしーおんくんが来て、右の肩をぽんと叩いた。そして最後にみずっきくんが思い切り正面から「いつきん、プリレボへようこそ~!」と叫びながら抱きついてきた。

 みずっきくんに抱きつかれた瞬間が合図となったように、キャーという歓声が。

「プリレボにようこそー!」
「がんばれー!」

 と客席から僕へのメッセージも飛んできた。静まり返っていた会場が再び盛り上がる。

 受け入れられている感覚に、勇気をもらった。
 僕は、できる!

 前世の和風王子が僕の体にすーっと入ってきた気がした。
 胸の辺りに開いた手を置き、みんなのように王子の仕草をする。

「プリンスレボリューション☆レインボー、五人目の星、葉月樹です。いつきんって呼んでください! 前世が和風王子で、オーラカラーはグリーン&ゴールドラメです。よろしくお願いします」

 深々とお辞儀をすると

「いつきーん」と、会場の隅々から声がした。
 客席、そしてプリレボのメンバーも一緒に呼んでくれていた。

――あぁ、僕はここにいてもいいんだ。
――ここが、僕の居場所。

  ぽろぽろと流れた涙がステージの床を濡らしていった。

 いつものようにつられて、みずっきくんも泣き出しそうになっている。

「いつきん、受け入れてもらえて良かったね。正直、不安だったでしょ?」
「うん。きちんとみんなに受け入れてもらえるのか、すっごく不安で、最近は考えすぎてあんまり眠れなかったです」

「でも、大丈夫だよ! 今、この会場にいるみんなは、こーんなに優しいから。ねっ!」

 みずっきくんが客席に同意を求めると「いつきん大丈夫だよ~!」とあちこちから、優しい声が聞こえてきた。

 そしてなんと、お客さん全員のペンライトの色が全てグリーンカラーに。会場が今、僕のオーラカラーに染まった。その光景に感動した!

「プリレボのみんなも、プリレボを応援してる人も。本当に優しい……あぁ、今このステージに立てているの嬉しい、夢みたい……」

 会場に埋め尽くされているお客さんを端から端まで隅々見た。さっきまで怖かった視線はプリレボのメンバーたちのお陰で、そして優しく見守ってくれているお客さんたちのお陰で、居心地のよい視線へと変わってきた。

「夢じゃないし。今日だけじゃなくて、これからはずっといつきんは僕たちみたいに、みんなの輝く星になるんだよ!」
「えっ、ずっと?」
「ん? 何? みずっきは違うの?」

 レッスンの時ほどではないけれど、そたくんがチクリとした表情でみずっきくんを見た。

「い、いいえ。そ、そたくんの言う通り、です」
「ちょっと!? みずっき怖がってる!」
「しーおん、なんてこと言うの? みずっき、全然怖がってないよね? みずっきはすぐに泣いちゃうから、いつもすごく優しくしてるもん。ね、みずっき?」
「えっ、えっと……」

 全体に笑いが巻き起こった。

 しばらく舞台上で会話をした後は、それぞれの立ち位置につく。大きなスクリーンはステージの所に三つある。両端には今のリアルな僕たちの姿が。そして、MVのライブ用に編集されたダイジェスト版がステージの中心にある、大きなスクリーンに映し出された。

 生まれ変わったプリレボメンバーが、前世の僕たちに見守られながら山を登りきるMV。

「ラストの曲は、今回初めてみんなの前で歌います。最近、すごく噂になったあの歌です!」

 しーおんくんが言うと、何の曲か分かってくれていたようで、お客さんたちから歓声が沸き起こった。

「みんな、映像を見てくれたのかな?」

「見たよー!」
「すごくよかったよー!」

 反応がいい!
 直接嬉しい感想を聞けるの、嬉しいな!!!

「観てくれてありがとうございます。ありがたいことに、ネットで話題になってすぐにトレンド入りして、一気に有名になりました。世に広げてくれた方、観てくれた方々のお陰です。本当に、ありがとうございます! この歌は、僕、星野紫音が心を込めて作り、ミュージックビデオも演出しました。そして、このライブ後に、正式に配信されます!」

 会場は歓喜の声でざわめいた。

「このMV、ロケ行くの突然だったよね。たしか、僕といつきんが一緒に夏休みの宿題やってる時だったかな? 突然しーおんくんが部屋に入ってきて、明日から放送部の撮影旅行に行くよって」

 僕もその時の様子を鮮明に思い出していた。ここでは秘密で言えないけれど、におわせ旅行計画の内容に驚いた。驚いたけれど、純粋に憧れのプリレボメンバーと行ける旅行が楽しみだなぁって気持ちになっていたな。

「いつも突然思いついちゃうんだよね~」
「うん、知ってる。でもしーおんくんのそんなところも大好きだよ!」
「みずっき、ありがとう~。っていうか、みんなの、特にいつきんの頑張っている姿をみていたら頭の中に急に浮かんできたんだよね。自分ももっと頑張りたい。なんか、前世に頼らずに道を作って前に進んでいきたいなぁみたいな?」
「ぼ、僕の姿を見て……」
「そうだよ!」
「頑張ってよかった~!!」
「あっ、いつきん、泣いちゃう! これから歌うのに!」

 みずっきくんの言葉を最後に、スクリーンに流れていたMVのダイジェスト版が終わった。

「それでは、ラストの曲を聞いてください!『星たちは生まれ変わる』」

 みんなで声を合わせてタイトルを告げると、明かりが消えた。

そして前奏が流れ始めるとステージの中心にいる僕にだけスポットライトが当たる。

~♪

 迷い続けていた
 ここに来てもいいのか
 君がいいよと言ってくれるのなら
 僕はずっとここにいるよ

 今度は君を守りたい~



 ステージ全体に明かりがつくと、僕はお客さんに背中を向け、ステージの奥に待機して横一列に並んでいたプリレボに向けて歩いた。

 そして、僕は手を差し伸べてくれたそたくんの手を掴んだ。