映像が世間に漏れてから時間が経ち、今は夏休み。僕は今、プリレボ城のリビングにいる。
全員で丸いテーブルを囲んで座り、書類を眺めていた。
「――ということで、いつきんの正式発表は、冬のコンサートで、サプライズ発表となります」
マネージャー河合さんが各メンバーに配られたスケジュール表を淡々と読み上げていき、ラストのサプライズ発表の部分はゆっくりと丁寧に言った。
僕はスケジュール表を、まじまじとずっと眺めていた。プリレボのスケジュール表の中にある〝葉月 樹〟という名前だけ、浮かび上がって見えてくるように、違和感がもりもりしていたからだ。
「会議がやっと終わった~!」
みずっきくんは立ち上がると思い切り伸びをした。そして僕の方を向く。
「ねぇねぇ、いつきん。僕の部屋でゲームして遊ぼうよ」
「うん、しよう!」
「ダメです。いつきんは今日、夜までダンスのレッスンです!」
そたくんが少し強めの口調で、そう言った。
みずっきくんは僕の耳元で「じゃあさ、夜、こっそり僕の部屋に来て?」と呟いた。
「うん、分かった!」
「あとね、そたくんはプリレボのメンバーに対してだけは鬼が乗り移ったように、容赦ない時があるから、気をつけて。特にレッスン中ね。僕は何度そたくんに泣かされたか……」
そたくんの鬼のような姿――全く想像できないな。
「何こそこそしてるの? どうせ、夜、こっそりみずっきの部屋でゲームしようよとか話してたんでしょ? 夜更かししないで、ゲームは少しだけだよ!」
「は~い!」
みずっきくんが可愛く返事した。まるでそたくんがお兄さんで、みずっきくんは弟のよう。というか、プリレボは兄弟のようだな。
長男→そたくん
次男→れんくん
三男→しーおんくん
四男→みずっきくん
いいな、僕も兄弟の一員になってみたい。だけどそれは、夢の中のさらに夢のような話だ。
というか、僕は夜もずっとこのお城にいられるんだ!!
そう、僕は今日からこのお城の中で暮らすことになった!
それは、宇宙神からのお告げ事件から少し経った日の、放送室で会議をしている時のことだった。
*
「プリレボメンバーになるのなら、いつきんも一緒に暮らした方がレッスンも生活も、色々良いと思うんだけどなぁ」
「そたくんの意見に賛成で、僕も暮らしたいです! けど……でも家族がなんて言うか……」
「その辺は僕たちの得意分野だし、任せて?」
どの辺が得意分野?と思っていたのだけど。
なんと、プリレボ四人とマネージャーの河合さんが、説得をしに家まで来てくれたのだ。
朝から家族はどんな反応するのかな?ってドキドキしていたけれど、プリレボが家に来た時の反応はとにかくすごかった。
「生プリレボ!? やばい! いい匂いまでしてくる」
「えっ、可愛いくてカッコよくて王子! お母さん動悸してきて倒れそう……」
元々アイドルオタクな姉と母は大興奮の嵐だった。このふたりはすぐにOKしてくれた。
遠くからいつものように嵐を静かに眺めていた父のところへ行き、丁寧に説明をしてくれたそたくん。
「お父様の許可をいただけないでしょうか?」と、とても丁寧にお願いもしてくれた。
「やりたいことを幸せそうにやっている樹の姿を見守るのは、父親として、とても幸せなことだ。樹、人前に出るのは色々大変だと思うが、本気で頑張ってな! あと、辛くなったらいつでも戻ってこい」と、応援の言葉を父はくれた。
さらに「樹くんを任せてください。大切にします!」とそたくんの言葉も重なり――。
ふたりの言葉を聞いて僕は、嵐の中に降る大雨のように、しばらく大号泣した。みずっきくんもつられて泣いていた。
冷静になって振り返ってみれば、あの時の家の中は、騒がしかった。窓も空いていたし、ご近所の人たちからしてみれば、どうかしたのか?と、不思議だったかもしれない。
*
本日のダンスレッスンが始まった。
僕は今、みずっきくんがそっと教えてくれた、そたくんの鬼のような指導を早速受けている。
泣きそうになりながら……。
れんくんが優しく教えてくれていたのだけど、一度動きがわけわからなくなると、集中力がぷっつり途切れてしまった。その時、タイミング悪くそたくんがダンス部屋に入ってきた。
「ねぇ、やるきあるの?」
「はい、あります……」
「集中力ないよね? れんがしてた動き、ぼんやり見ていただけだよね? ぼんやりしているだけだったら頭の中に入らないんじゃないの? いつきんは何? ぼんやりしてるだけで、完璧に踊れるようになるの?」
「いいえ、なりません……」
じっと強く僕の目を見つめてくるそたくん。怖いよぉ……。
「プリレボの目的は何?」
「ひとりひとりに光を届けることです」
「そうだ! それにプリレボはね、今はトップだけど、後ろには抜かしてやるぞと意気込んでいるグループが、どんどん駆け上がってきてるんだ。必要とされなくなり闇に沈んでしまったら、光を届けられなくなる! 気を抜いてはいけない!」
「はい、分かりました」
僕はしゅんとなりながら俯いた。
「れんも! もっといつきんに厳しくしてもいいから! 基礎もまだなのに、このままじゃあ、ライブまでに振り入れさえ間に合わない」
「はい、分かりました」
まさかのれんくんまで敬語になるくらいの鬼のような怖さだった。だけどさすが、そのようになっていても王子様のような風格は失われず。
と、そんなこんなで冬までダンスに歌に演技レッスン、そしてアイドルの生き方とは?という勉強会や他にも色々……目が回ってしまうぐらい大量レッスンの予定がすでに立てられていた。
こんなに勉強するのは僕だけかなと思っていたのだけど、僕だけではなかった。
僕のダンスと歌の練習はれんくんが主に担当してくれた。ふたりだけで練習していた時には、だいたい他のメンバーもダンス部屋に入ってきて、邪魔にならないように一緒に踊りだしたり。最後には約束したわけではないのに、全員合わせての練習が始まった時も何回もあった。そしてれんくんは、ひとりでも相変わらず練習を頑張っていた。
そたくんには歌う時に感情を込める方法や、今後もしかしたら演技もするかもねと、映像でお芝居する時のアドバイスも少し教えてもらった。そんなそたくんにはライブの練習をするのと同時にドラマのお仕事もあった。ダンスと歌のレッスンもあるのに、同時に台本を覚えたりの作業も同時進行していた。
眠る前にみずっきくんと一緒にゲームをした時に、突然みずっきくんがコントローラーを持ちながらカエルのような声を出した。「これはボイトレのひとつだよ!」と教えてくれて、ゲームをしながらも一緒にボイトレや筋トレをしたりもした。みずっきくんはプリレボの中で一番不器用で実力がないのを気にしていて、スキマ時間にできるトレーニングを常に頑張っていた。
しーおんくんはライブのダンスや歌を覚えるだけでなく、構成と演出を考えていた。「感覚だけで作ってる」なんて言っていたけれど、関わるたくさんのスタッフの方々の名前も覚えたり、他のグループのライブ映像や映画などの映像を暇あればインプット、頭の中に取り込んでいてすごく努力をしていた。
――みんな、頑張ってる。
輝きの裏ではとても努力をしていて、その姿にとても胸が打たれた。
僕はまだ全てが初心者だから、例えばダンス振り入れを他のメンバーと同時に始めても、同じスタート地点には立てない。僕のスタート地点は、前のみんなが小さく見えるほどに後ろで、遠い場所。
だけど、追いつきたくて――。
周りよりもレッスンの時間を自ら増やした。
プリレボの今までのライブを全て確認し、上手なメンバーたちのダンスを真似してみた。
スキマ時間にできるトレーニングもやったし、感動や悲しみ、怒りなど……様々な気持ちを作る方法も普段の生活から見つけていった。
やれることは全てやった。
最初の頑張る目的は、プリレボと仲良くなりたいなんて理由だった気がするけれど。
今は完全にプリレボメンバーの横に並べる実力をつけたい。
そして、ライブに来てくれたお客さんたち一人ひとりの光になりたい――。
僕は空を見上げると、太陽と重なるように自分の手を伸ばした。
全員で丸いテーブルを囲んで座り、書類を眺めていた。
「――ということで、いつきんの正式発表は、冬のコンサートで、サプライズ発表となります」
マネージャー河合さんが各メンバーに配られたスケジュール表を淡々と読み上げていき、ラストのサプライズ発表の部分はゆっくりと丁寧に言った。
僕はスケジュール表を、まじまじとずっと眺めていた。プリレボのスケジュール表の中にある〝葉月 樹〟という名前だけ、浮かび上がって見えてくるように、違和感がもりもりしていたからだ。
「会議がやっと終わった~!」
みずっきくんは立ち上がると思い切り伸びをした。そして僕の方を向く。
「ねぇねぇ、いつきん。僕の部屋でゲームして遊ぼうよ」
「うん、しよう!」
「ダメです。いつきんは今日、夜までダンスのレッスンです!」
そたくんが少し強めの口調で、そう言った。
みずっきくんは僕の耳元で「じゃあさ、夜、こっそり僕の部屋に来て?」と呟いた。
「うん、分かった!」
「あとね、そたくんはプリレボのメンバーに対してだけは鬼が乗り移ったように、容赦ない時があるから、気をつけて。特にレッスン中ね。僕は何度そたくんに泣かされたか……」
そたくんの鬼のような姿――全く想像できないな。
「何こそこそしてるの? どうせ、夜、こっそりみずっきの部屋でゲームしようよとか話してたんでしょ? 夜更かししないで、ゲームは少しだけだよ!」
「は~い!」
みずっきくんが可愛く返事した。まるでそたくんがお兄さんで、みずっきくんは弟のよう。というか、プリレボは兄弟のようだな。
長男→そたくん
次男→れんくん
三男→しーおんくん
四男→みずっきくん
いいな、僕も兄弟の一員になってみたい。だけどそれは、夢の中のさらに夢のような話だ。
というか、僕は夜もずっとこのお城にいられるんだ!!
そう、僕は今日からこのお城の中で暮らすことになった!
それは、宇宙神からのお告げ事件から少し経った日の、放送室で会議をしている時のことだった。
*
「プリレボメンバーになるのなら、いつきんも一緒に暮らした方がレッスンも生活も、色々良いと思うんだけどなぁ」
「そたくんの意見に賛成で、僕も暮らしたいです! けど……でも家族がなんて言うか……」
「その辺は僕たちの得意分野だし、任せて?」
どの辺が得意分野?と思っていたのだけど。
なんと、プリレボ四人とマネージャーの河合さんが、説得をしに家まで来てくれたのだ。
朝から家族はどんな反応するのかな?ってドキドキしていたけれど、プリレボが家に来た時の反応はとにかくすごかった。
「生プリレボ!? やばい! いい匂いまでしてくる」
「えっ、可愛いくてカッコよくて王子! お母さん動悸してきて倒れそう……」
元々アイドルオタクな姉と母は大興奮の嵐だった。このふたりはすぐにOKしてくれた。
遠くからいつものように嵐を静かに眺めていた父のところへ行き、丁寧に説明をしてくれたそたくん。
「お父様の許可をいただけないでしょうか?」と、とても丁寧にお願いもしてくれた。
「やりたいことを幸せそうにやっている樹の姿を見守るのは、父親として、とても幸せなことだ。樹、人前に出るのは色々大変だと思うが、本気で頑張ってな! あと、辛くなったらいつでも戻ってこい」と、応援の言葉を父はくれた。
さらに「樹くんを任せてください。大切にします!」とそたくんの言葉も重なり――。
ふたりの言葉を聞いて僕は、嵐の中に降る大雨のように、しばらく大号泣した。みずっきくんもつられて泣いていた。
冷静になって振り返ってみれば、あの時の家の中は、騒がしかった。窓も空いていたし、ご近所の人たちからしてみれば、どうかしたのか?と、不思議だったかもしれない。
*
本日のダンスレッスンが始まった。
僕は今、みずっきくんがそっと教えてくれた、そたくんの鬼のような指導を早速受けている。
泣きそうになりながら……。
れんくんが優しく教えてくれていたのだけど、一度動きがわけわからなくなると、集中力がぷっつり途切れてしまった。その時、タイミング悪くそたくんがダンス部屋に入ってきた。
「ねぇ、やるきあるの?」
「はい、あります……」
「集中力ないよね? れんがしてた動き、ぼんやり見ていただけだよね? ぼんやりしているだけだったら頭の中に入らないんじゃないの? いつきんは何? ぼんやりしてるだけで、完璧に踊れるようになるの?」
「いいえ、なりません……」
じっと強く僕の目を見つめてくるそたくん。怖いよぉ……。
「プリレボの目的は何?」
「ひとりひとりに光を届けることです」
「そうだ! それにプリレボはね、今はトップだけど、後ろには抜かしてやるぞと意気込んでいるグループが、どんどん駆け上がってきてるんだ。必要とされなくなり闇に沈んでしまったら、光を届けられなくなる! 気を抜いてはいけない!」
「はい、分かりました」
僕はしゅんとなりながら俯いた。
「れんも! もっといつきんに厳しくしてもいいから! 基礎もまだなのに、このままじゃあ、ライブまでに振り入れさえ間に合わない」
「はい、分かりました」
まさかのれんくんまで敬語になるくらいの鬼のような怖さだった。だけどさすが、そのようになっていても王子様のような風格は失われず。
と、そんなこんなで冬までダンスに歌に演技レッスン、そしてアイドルの生き方とは?という勉強会や他にも色々……目が回ってしまうぐらい大量レッスンの予定がすでに立てられていた。
こんなに勉強するのは僕だけかなと思っていたのだけど、僕だけではなかった。
僕のダンスと歌の練習はれんくんが主に担当してくれた。ふたりだけで練習していた時には、だいたい他のメンバーもダンス部屋に入ってきて、邪魔にならないように一緒に踊りだしたり。最後には約束したわけではないのに、全員合わせての練習が始まった時も何回もあった。そしてれんくんは、ひとりでも相変わらず練習を頑張っていた。
そたくんには歌う時に感情を込める方法や、今後もしかしたら演技もするかもねと、映像でお芝居する時のアドバイスも少し教えてもらった。そんなそたくんにはライブの練習をするのと同時にドラマのお仕事もあった。ダンスと歌のレッスンもあるのに、同時に台本を覚えたりの作業も同時進行していた。
眠る前にみずっきくんと一緒にゲームをした時に、突然みずっきくんがコントローラーを持ちながらカエルのような声を出した。「これはボイトレのひとつだよ!」と教えてくれて、ゲームをしながらも一緒にボイトレや筋トレをしたりもした。みずっきくんはプリレボの中で一番不器用で実力がないのを気にしていて、スキマ時間にできるトレーニングを常に頑張っていた。
しーおんくんはライブのダンスや歌を覚えるだけでなく、構成と演出を考えていた。「感覚だけで作ってる」なんて言っていたけれど、関わるたくさんのスタッフの方々の名前も覚えたり、他のグループのライブ映像や映画などの映像を暇あればインプット、頭の中に取り込んでいてすごく努力をしていた。
――みんな、頑張ってる。
輝きの裏ではとても努力をしていて、その姿にとても胸が打たれた。
僕はまだ全てが初心者だから、例えばダンス振り入れを他のメンバーと同時に始めても、同じスタート地点には立てない。僕のスタート地点は、前のみんなが小さく見えるほどに後ろで、遠い場所。
だけど、追いつきたくて――。
周りよりもレッスンの時間を自ら増やした。
プリレボの今までのライブを全て確認し、上手なメンバーたちのダンスを真似してみた。
スキマ時間にできるトレーニングもやったし、感動や悲しみ、怒りなど……様々な気持ちを作る方法も普段の生活から見つけていった。
やれることは全てやった。
最初の頑張る目的は、プリレボと仲良くなりたいなんて理由だった気がするけれど。
今は完全にプリレボメンバーの横に並べる実力をつけたい。
そして、ライブに来てくれたお客さんたち一人ひとりの光になりたい――。
僕は空を見上げると、太陽と重なるように自分の手を伸ばした。



