それをもらったのは、私たちが付き合ってもうすぐ一年が経とうという、十一月の半ばだった。冷え込みが一段と増した土曜日、私たちは彼のボルボを走らせて、北へ向かっていた。
「昔祖父母が住んでいた家があるんだ。思い入れのある家でね。小さい頃よく遊びに行ったんだ。今は誰もいないから、たまに空気を入れ替えに行かないとと思って」
彼はそう言って、ハンドルを握る手を少しだけ緩めた。
助手席の窓を流れる景色は、都会のコンクリートジャングルから、赤と黄色に染まった美しい山々へ変わっていく。私はその鮮やかさに目を奪われ、子どものように窓から顔を覗かせた。
「朱莉。そんなに乗り出すと危ないよ」
「だって、こんなに綺麗な紅葉、見たことない」
私の言葉に、彼はふっと目を細めて笑った。
サービスエリアに車を停めると、ドアを開けた瞬間に、冬の先触れのような冷たい風が全身を刺した。思わず身震いした私を見て、彼は後部座席から一つの紙袋を取り出した。
「これ。本当は着いてから渡そうかなと思ってたんだけど、朱莉があまりにも寒そうだから」
差し出されたのは、少し重みのある、上質な手触りの紙袋だった。中を覗き込むと、そこには息を呑むほど鮮やかな赤色のマフラーが収められている。
「わあ……綺麗」
「実は数年前に買ったものなんだけど、僕には若すぎるかなと思ってほとんど使ってないんだ。お古みたいで申し訳ないけど、朱莉に似合うと思ってさ」
「……こんなに上質なもの、もらっちゃっていいの?」
「もちろんだよ」
彼の手が伸びてきて、私の首にそのマフラーをゆっくりと巻きつけた。
「やっぱりよく似合う」
彼は満足そうに頷くと、私の両肩を軽く叩いた。
マフラーからは、微かに彼のにおいがした。
「ありがとうございます。一生大事にします」
「一生なんて大袈裟な。ただのマフラーだよ。そんなに重く考えないで」
彼は可笑しそうに笑ったけれど、私は本気だった。大好きな人が、似合うからと言って私にくれた、大好きな人のにおいがするマフラー。まるで、彼に抱きしめられているようにあたたかい。これがあれば私は、どんなに凍える冬が来ても大丈夫だと思えた。
車に戻り、再び走り出す。
駐車場の落ち葉が、車の風圧で舞い上がった。カーステレオからは、またあのカントリー調の曲が流れている。
「ねえ、音楽、もっと大きくしてもいい?」
「いいよ」
ボリュームを上げると、軽やかなリズムが車内に溢れ出す。私はシートベルトに縛られたまま腕を振って、不器用にダンスを踊った。
彼はそれを見て「危ないなあ」と苦笑しながらも、リズムに合わせてハンドルを指先で叩いていた。それが嬉しくて、私はつけっぱなしのマフラーに顔を埋めて笑った。
「昔祖父母が住んでいた家があるんだ。思い入れのある家でね。小さい頃よく遊びに行ったんだ。今は誰もいないから、たまに空気を入れ替えに行かないとと思って」
彼はそう言って、ハンドルを握る手を少しだけ緩めた。
助手席の窓を流れる景色は、都会のコンクリートジャングルから、赤と黄色に染まった美しい山々へ変わっていく。私はその鮮やかさに目を奪われ、子どものように窓から顔を覗かせた。
「朱莉。そんなに乗り出すと危ないよ」
「だって、こんなに綺麗な紅葉、見たことない」
私の言葉に、彼はふっと目を細めて笑った。
サービスエリアに車を停めると、ドアを開けた瞬間に、冬の先触れのような冷たい風が全身を刺した。思わず身震いした私を見て、彼は後部座席から一つの紙袋を取り出した。
「これ。本当は着いてから渡そうかなと思ってたんだけど、朱莉があまりにも寒そうだから」
差し出されたのは、少し重みのある、上質な手触りの紙袋だった。中を覗き込むと、そこには息を呑むほど鮮やかな赤色のマフラーが収められている。
「わあ……綺麗」
「実は数年前に買ったものなんだけど、僕には若すぎるかなと思ってほとんど使ってないんだ。お古みたいで申し訳ないけど、朱莉に似合うと思ってさ」
「……こんなに上質なもの、もらっちゃっていいの?」
「もちろんだよ」
彼の手が伸びてきて、私の首にそのマフラーをゆっくりと巻きつけた。
「やっぱりよく似合う」
彼は満足そうに頷くと、私の両肩を軽く叩いた。
マフラーからは、微かに彼のにおいがした。
「ありがとうございます。一生大事にします」
「一生なんて大袈裟な。ただのマフラーだよ。そんなに重く考えないで」
彼は可笑しそうに笑ったけれど、私は本気だった。大好きな人が、似合うからと言って私にくれた、大好きな人のにおいがするマフラー。まるで、彼に抱きしめられているようにあたたかい。これがあれば私は、どんなに凍える冬が来ても大丈夫だと思えた。
車に戻り、再び走り出す。
駐車場の落ち葉が、車の風圧で舞い上がった。カーステレオからは、またあのカントリー調の曲が流れている。
「ねえ、音楽、もっと大きくしてもいい?」
「いいよ」
ボリュームを上げると、軽やかなリズムが車内に溢れ出す。私はシートベルトに縛られたまま腕を振って、不器用にダンスを踊った。
彼はそれを見て「危ないなあ」と苦笑しながらも、リズムに合わせてハンドルを指先で叩いていた。それが嬉しくて、私はつけっぱなしのマフラーに顔を埋めて笑った。



