灯火みたいな恋だった

十一月の風が、細い針のようにチクチクと頬を刺した。街路樹の銀杏は、誰かに踏みつけられるのを待つみたいに地面を黄色く染め上げていて、私はその上を、なんのためらいもなく歩く。

「……寒いな」

こぼれ落ちたひとりごとは頼りなく白く濁って、街の喧騒に吸い込まれていった。

家に帰り、重い玄関のドアを閉めると、誰もいない部屋の静寂がからだの奥まで染み込んでくる。明かりを点ける気力もなくバッグを床に置くと、吸い寄せられるようにベッドに倒れ込む。

ふうっと息をつく。溜まった疲れがシーツに吸収されていくのを感じながら、視線は吸い寄せられるように一点へ向かった。

部屋の隅に置かれた、小さな紙袋。中には、丁寧に折り畳まれた、一枚の赤いマフラーが眠っている。

カシミアの繊維は今でも驚くほど柔らかいはずだけれど、かつてそこにあったコーヒーの香りと、彼の硬質な匂いは、もうどこにもない。あの頃の私たちの世界を、三年の歳月はゆっくりと奪っていった。

それでも──。
私はこのマフラーを巻くことはできない。
これを巻いてしまえば、あの助手席で見た燃えるような木々の赤も、雪の降る前の張り詰めた空気のにおいも、コートのポケットの中で私の手を無造作に握りしめるあのあたたかさも……すべてがたった今起きたことのように、鮮やかな色を持って蘇ってしまうから。

全部、覚えている。
あまりにも、鮮明に。