とぼとぼと歩く二人の女の子を、周りは誰も気に留めない。
なんせ、話している内容が冒険者ギルドじゃあとてもありふれていて、気にするほどじゃないからだ。
「まさか石につまずいて、荷物を全部谷底に落としちゃうなんて……」
「セレナはまだいいよ。ボクは魔法で仲間を撃っちゃった」
「これからどうしましょうか、リン?」
「どうしよっか」
「「……はあ」」
がっくりと肩を落とし、うなだれる女の子達。
要するに、所属しているパーティー──冒険者活動をするにあたって組むチームから、使えないので追い出されたというわけである。
しかも話を聞く限り、五回もクビになってるとか。
全身から悪臭を放ってるだとか、前科持ちだとか、もしくはよっぽど才能がないわけでもない限り、パーティーから五回も追い出されるなんてまずないぞ。
そんなふうに思いながら俺は、どうしようか、なんて話す二人をぼんやりと見つめた。
セレナと呼ばれていた方は、ギルドの建物の窓からさす陽光に映える、ブロンドに青のインナーカラー。
髪型は肩から背中までのストレート。
瞳は明るく澄んだ青で、体格はややスポーティで健康的。
白と赤を基調にしたスカートも、シャツもスパッツも、生地や縫製は上質なものだ。
ただし本人が気にしてないのか、ガンガン着倒しているらしく、ところどころ泥や傷がついている──身なりからして、どこぞの裕福な家の一人娘って感じだな。
で、もう片方のリンって方は頭から猫の耳、お尻の辺りから尾を生やしている『獣人族』。
人間以外の人型の種族は異世界じゃ珍しくなく、長耳で長寿のエルフだとか、背が低くひげを蓄えたドワーフだとか、犬耳猫耳獣耳なんてのはざらだ。
大方この女の子は、猫の耳を生やした『猫耳族』だろうよ。
ショートの黒髪は少し撥ねていて寝癖っぽいラフさがあり、目の色は琥珀色。
半目気味で、どこか気だるそうだ。
猫耳は話すたびにぴくぴくと動き、顔と違って尻尾は感情が隠せないのか、さっきからずっとへにゃりとしおれたまま。
ブロンドの少女より少し小柄なちびっ子体型、ロングスカートを含めた服装も庶民的で、麻布や革をつぎはぎしたマントと、口元を隠す青いマフラーがよく目立つ。
こっちは恐らく、ブロンドの子の友達か、あるいは世話役ってとこか。
いかにも世間知らずな雰囲気だし、あれじゃあ冒険者としてやっていくのは難しそうだ。
え?
あの二人だけで冒険者パーティーを組んで、クエストをこなせばいいじゃないかって?
いやいや、冒険者活動にあたってパーティーに入ることは前提条件なんだ。
取り分の一人占めや不正を防ぐ、何か危険な事態が起きた時に一人でも助けを求めにいけるようにするとか、理由は色々あるので、パーティーの編成は最低でも三人が必須。
かくいう俺も、クエストを受ける時はどこぞの冒険者パーティーに一時的に加入させてもらってる。
俺はギルドに長くいるから一時加入も許されるけど、恐らく新人のあいつらじゃ難しい。
だから、あの二人だけじゃ冒険者としてクエストを受けることはできないってわけだな。
少なくとも、クビになったばかりの奴を引き入れようなんて物好きはいないだろ。
ただ、俺は二人のことがちょっと気になっていた。
なんせ五回もパーティーをクビになったんだぜ。
どれだけダメダメなのか興味があって当然だ──性格が悪いと言ってくれるな。
幸いにも、俺には他人の力を推しはかる特別なスキルがあった。
「──『鑑定』」
俺が小さく呟くと、目の色が淡い青色に染まり、様々な情報が視界に映し出された。
目に入ってくる人間に浮かび上がるのは、名前や性別だけじゃない、体力や筋力、精神力といったステータス。
そう、これが俺の持つスキルの一つ──『鑑定』だ。
戦闘用スキル以外に神様がくれた、唯一のスキル。
しかも神様が与えてくれたこのスキル、EからSまであるスキルランクのうちどれにも当てはまらない、SSランクのスキルなんだ。
転生者じゃなくてもこれを所有している奴はけっこういるが、俺のように他人のスペックをステータス化して確かめられる奴はほとんどいない──ましてや視界に入った人間全員の情報を得られる奴なんて、まずいない。
そして俺の目に映る情報は、ただ持ちうる能力だけじゃなく、そいつが隠し持っている潜在能力もランクに変換して教えてくれるんだ。
例えば何の才能もない奴は『潜在能力:E』、いつかは伸びる奴は『B』、将来とんでもないバケモノになる冒険者は『S』、ってな感じでさ。
ちなみに俺の『潜在能力』ステータスはEランク。
なんでかって言うと、俺は転生した時点で最強だから、伸びしろがないんだよ。
おまけに神様は、この手の補助スキルとか生産スキルについては、鑑定以外にまるでチート級のスキルを与えてくれなかった。
曰く「戦闘力が高い方がカッコイイだろ」とのこと。
あの時は俺も同意したけど、今となっては後悔ばかりだ。
もしも非戦闘スキルをたくさんもらっていたならば、俺も今頃は『生産チートを貰った俺は、異世界でスローライフを満喫します』とかのタイトルのラノベみたいな生活を送ってただろうに。
ほんと、若いってのは素敵で、大胆で、バカ丸出しだ。
さてさて、このちびっ子達のスペックは、っと。
名前:セレナ・ラッシュウッド
性別:女性
年齢:十四
体力:D
筋力:D
魔力:E
知力:C
精神力:E
名前:リン・ミリィ
性別:女性
年齢:十二
体力:E
筋力:E
魔力:C
知力:D
精神力:E
……まあ、こんなもんだな。
Cランクで人並み、Dランクはちょっと劣るくらい、Eランクは困ったちゃん。
要するに、どちらもへっぽこってわけだな。
駆け出し冒険者なら納得のステータス、むしろひよっこであることを加味してもどちらかといえば[NH8.1][SN8.2][NH8.3]低めに纏まってしまったステータスだ。
つーか十四と十二で冒険者なんて、世間知らずもいいところだっての。
それくらいの歳なら、大人しく家の手伝いでもしてる方が、まだずっと現実的だ。
これじゃあ、他の冒険者からスカウトされるなんてのも、夢のまた夢だろうよ。
口の端から乾いた笑いを漏らしながら、俺はもうちょっとだけ彼女達を『鑑定』してみた。
さっきも言ったが、俺くらいの鑑定スキルになると、こいつらが持っている潜在能力までさらけ出すことができる。
どおれ、潜在能力はどれだけしょぼくれてるのかな、っと──。
『セレナ・ラッシュウッド──潜在能力:SS』
『リン・ミリィ──潜在能力:SS』
──え、え?
──えす、えす!?
「──SSランクぅ!?」
思わず、俺は椅子から立ち上がって叫んでしまった。
その途端、冒険者ギルドが一瞬だけ静かになり、俺に視線が集中した。
誰も彼もが「三流冒険者が急に何を言いだしたんだ」と言いたげな目でこっちを見ているのに気づいて、俺はばつの悪い顔で頭を掻き、冷静さを取り戻した。
「あ、ええと……悪りい、気にしないでくれ」
俺が椅子に再び腰かけると、冒険者ギルドにいつもの騒々しさが戻ってくる。
だが、俺は自分の鑑定スキルがもたらした情報のヤバさのせいで、心臓の高鳴りが止まらないままだった。
だって、『潜在能力:SSランク』なんて、普通の人間じゃまずありえないからだ。
並の人間なら努力でどうにかこうにかするのを考慮してもC、高くてBランク。
Aランクにもなろうもんなら、王都を守護する騎士団でそれなりの地位に就ける可能性があるし、魔法大学なら首席でパスだ(もちろん、ちゃんと努力すればの話だが)。
そしてSランクっつーのは、ほとんど天から与えられたギフトに近い。
俺が長い異世界生活でSランクの潜在能力を見たことがあるのは、たったの二回。
そう考えたら、SSランクってのがどれだけ異常かわかるだろ?
ヘタすりゃ、将来的には異世界転生者の俺すら追い抜く可能性があるんだ。
冒険者パーティーを五回もクビになって、これからどうしようかなんてうんうん頭を捻ってるちびっ子にしか見えないってのにな。
それにしても、本当に惜しい。
潜在能力を引き出せれば、特級冒険者なんか目じゃないくらい強くなれるのに──。
──特級冒険者より、強くなる?
──俺よりも強くなる?
──クロガネ・ヒナタよりも強いなら、俺の代わりにもなれる?
ふと、俺の頭を冴えたプランがよぎった。
今はまだ弱くても、あの二人はしっかり鍛えてやればハチャメチャに強くなる。
俺が師匠役にでもなって、困っている女の子達を指導して恩を売ってやったなら、彼女達はきっと何でも言うことを聞いてくれるに違いない。
そしてその時、俺はこう提案するんだ──「実は俺は特級冒険者。国を陰から守る誇り高い守護者なんだ」「お前らにその栄誉を譲り渡したい」ってな。
俺は師匠って立場だし、特級冒険者ってのは若者には聞こえもいいし、快諾してくれるはず。
そうしたら、俺はスパッと引退。
これまで使い道がないまま貯め続けていたお金を持って、王国の端にでもさっさととんずらして、残りの余生を静かに過ごすんだ。
それとも国を出て、どこぞのリゾート地に別荘を買うのも悪くない。
いっそ小さなカフェでも開いて、のんびりスローライフでもしてみようか。
どちらにしたって──これは俺が、特級冒険者とかいうふざけた足枷を叩き壊す、絶好のチャンスに違いない!
色々と懸念材料はあるけれども、この機会を逃せば、俺はずっと任務に追われる地獄のおっさんライフから卒業できない!
そんなふうに考えつつ、俺はすっと席を立ち、女の子達にゆっくりと近づいた。
いくらいい提案をするつもりでも、警戒されないようにしないとな。
「……な、なあ、ちょっといいか?」
そう思っていたはずなんだか、俺の口から出た声はわずかに上ずっていた。
だから、俺の声を聞いて振り返った女の子達──ブロンド少女のセレナはちょっぴり首を傾げていて、獣人のリンは明らかに俺に警戒心を向けていた。
「え? ええと、どなたですか?」
「ナンパならノーサンキューだよ」
誰がお前らみたいなガキンチョをナンパするか。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえながら、俺は努めて話を続けるようにする。
「俺はクロガネっていうんだ。見たところ、冒険者パーティーをクビになったみたいだな。よかったら俺と組まないか?」
俺が提案すると、女の子達は顔を見合わせた。
【作者からのお知らせ】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きは4月24日(金)発売予定の『万年Cランクのおっさん冒険者、教え子を最強に導く ~陰の実力者扱いは勘弁してくれ。俺は早く引退したいだけなんだ~』でお楽しみください!
なんせ、話している内容が冒険者ギルドじゃあとてもありふれていて、気にするほどじゃないからだ。
「まさか石につまずいて、荷物を全部谷底に落としちゃうなんて……」
「セレナはまだいいよ。ボクは魔法で仲間を撃っちゃった」
「これからどうしましょうか、リン?」
「どうしよっか」
「「……はあ」」
がっくりと肩を落とし、うなだれる女の子達。
要するに、所属しているパーティー──冒険者活動をするにあたって組むチームから、使えないので追い出されたというわけである。
しかも話を聞く限り、五回もクビになってるとか。
全身から悪臭を放ってるだとか、前科持ちだとか、もしくはよっぽど才能がないわけでもない限り、パーティーから五回も追い出されるなんてまずないぞ。
そんなふうに思いながら俺は、どうしようか、なんて話す二人をぼんやりと見つめた。
セレナと呼ばれていた方は、ギルドの建物の窓からさす陽光に映える、ブロンドに青のインナーカラー。
髪型は肩から背中までのストレート。
瞳は明るく澄んだ青で、体格はややスポーティで健康的。
白と赤を基調にしたスカートも、シャツもスパッツも、生地や縫製は上質なものだ。
ただし本人が気にしてないのか、ガンガン着倒しているらしく、ところどころ泥や傷がついている──身なりからして、どこぞの裕福な家の一人娘って感じだな。
で、もう片方のリンって方は頭から猫の耳、お尻の辺りから尾を生やしている『獣人族』。
人間以外の人型の種族は異世界じゃ珍しくなく、長耳で長寿のエルフだとか、背が低くひげを蓄えたドワーフだとか、犬耳猫耳獣耳なんてのはざらだ。
大方この女の子は、猫の耳を生やした『猫耳族』だろうよ。
ショートの黒髪は少し撥ねていて寝癖っぽいラフさがあり、目の色は琥珀色。
半目気味で、どこか気だるそうだ。
猫耳は話すたびにぴくぴくと動き、顔と違って尻尾は感情が隠せないのか、さっきからずっとへにゃりとしおれたまま。
ブロンドの少女より少し小柄なちびっ子体型、ロングスカートを含めた服装も庶民的で、麻布や革をつぎはぎしたマントと、口元を隠す青いマフラーがよく目立つ。
こっちは恐らく、ブロンドの子の友達か、あるいは世話役ってとこか。
いかにも世間知らずな雰囲気だし、あれじゃあ冒険者としてやっていくのは難しそうだ。
え?
あの二人だけで冒険者パーティーを組んで、クエストをこなせばいいじゃないかって?
いやいや、冒険者活動にあたってパーティーに入ることは前提条件なんだ。
取り分の一人占めや不正を防ぐ、何か危険な事態が起きた時に一人でも助けを求めにいけるようにするとか、理由は色々あるので、パーティーの編成は最低でも三人が必須。
かくいう俺も、クエストを受ける時はどこぞの冒険者パーティーに一時的に加入させてもらってる。
俺はギルドに長くいるから一時加入も許されるけど、恐らく新人のあいつらじゃ難しい。
だから、あの二人だけじゃ冒険者としてクエストを受けることはできないってわけだな。
少なくとも、クビになったばかりの奴を引き入れようなんて物好きはいないだろ。
ただ、俺は二人のことがちょっと気になっていた。
なんせ五回もパーティーをクビになったんだぜ。
どれだけダメダメなのか興味があって当然だ──性格が悪いと言ってくれるな。
幸いにも、俺には他人の力を推しはかる特別なスキルがあった。
「──『鑑定』」
俺が小さく呟くと、目の色が淡い青色に染まり、様々な情報が視界に映し出された。
目に入ってくる人間に浮かび上がるのは、名前や性別だけじゃない、体力や筋力、精神力といったステータス。
そう、これが俺の持つスキルの一つ──『鑑定』だ。
戦闘用スキル以外に神様がくれた、唯一のスキル。
しかも神様が与えてくれたこのスキル、EからSまであるスキルランクのうちどれにも当てはまらない、SSランクのスキルなんだ。
転生者じゃなくてもこれを所有している奴はけっこういるが、俺のように他人のスペックをステータス化して確かめられる奴はほとんどいない──ましてや視界に入った人間全員の情報を得られる奴なんて、まずいない。
そして俺の目に映る情報は、ただ持ちうる能力だけじゃなく、そいつが隠し持っている潜在能力もランクに変換して教えてくれるんだ。
例えば何の才能もない奴は『潜在能力:E』、いつかは伸びる奴は『B』、将来とんでもないバケモノになる冒険者は『S』、ってな感じでさ。
ちなみに俺の『潜在能力』ステータスはEランク。
なんでかって言うと、俺は転生した時点で最強だから、伸びしろがないんだよ。
おまけに神様は、この手の補助スキルとか生産スキルについては、鑑定以外にまるでチート級のスキルを与えてくれなかった。
曰く「戦闘力が高い方がカッコイイだろ」とのこと。
あの時は俺も同意したけど、今となっては後悔ばかりだ。
もしも非戦闘スキルをたくさんもらっていたならば、俺も今頃は『生産チートを貰った俺は、異世界でスローライフを満喫します』とかのタイトルのラノベみたいな生活を送ってただろうに。
ほんと、若いってのは素敵で、大胆で、バカ丸出しだ。
さてさて、このちびっ子達のスペックは、っと。
名前:セレナ・ラッシュウッド
性別:女性
年齢:十四
体力:D
筋力:D
魔力:E
知力:C
精神力:E
名前:リン・ミリィ
性別:女性
年齢:十二
体力:E
筋力:E
魔力:C
知力:D
精神力:E
……まあ、こんなもんだな。
Cランクで人並み、Dランクはちょっと劣るくらい、Eランクは困ったちゃん。
要するに、どちらもへっぽこってわけだな。
駆け出し冒険者なら納得のステータス、むしろひよっこであることを加味してもどちらかといえば[NH8.1][SN8.2][NH8.3]低めに纏まってしまったステータスだ。
つーか十四と十二で冒険者なんて、世間知らずもいいところだっての。
それくらいの歳なら、大人しく家の手伝いでもしてる方が、まだずっと現実的だ。
これじゃあ、他の冒険者からスカウトされるなんてのも、夢のまた夢だろうよ。
口の端から乾いた笑いを漏らしながら、俺はもうちょっとだけ彼女達を『鑑定』してみた。
さっきも言ったが、俺くらいの鑑定スキルになると、こいつらが持っている潜在能力までさらけ出すことができる。
どおれ、潜在能力はどれだけしょぼくれてるのかな、っと──。
『セレナ・ラッシュウッド──潜在能力:SS』
『リン・ミリィ──潜在能力:SS』
──え、え?
──えす、えす!?
「──SSランクぅ!?」
思わず、俺は椅子から立ち上がって叫んでしまった。
その途端、冒険者ギルドが一瞬だけ静かになり、俺に視線が集中した。
誰も彼もが「三流冒険者が急に何を言いだしたんだ」と言いたげな目でこっちを見ているのに気づいて、俺はばつの悪い顔で頭を掻き、冷静さを取り戻した。
「あ、ええと……悪りい、気にしないでくれ」
俺が椅子に再び腰かけると、冒険者ギルドにいつもの騒々しさが戻ってくる。
だが、俺は自分の鑑定スキルがもたらした情報のヤバさのせいで、心臓の高鳴りが止まらないままだった。
だって、『潜在能力:SSランク』なんて、普通の人間じゃまずありえないからだ。
並の人間なら努力でどうにかこうにかするのを考慮してもC、高くてBランク。
Aランクにもなろうもんなら、王都を守護する騎士団でそれなりの地位に就ける可能性があるし、魔法大学なら首席でパスだ(もちろん、ちゃんと努力すればの話だが)。
そしてSランクっつーのは、ほとんど天から与えられたギフトに近い。
俺が長い異世界生活でSランクの潜在能力を見たことがあるのは、たったの二回。
そう考えたら、SSランクってのがどれだけ異常かわかるだろ?
ヘタすりゃ、将来的には異世界転生者の俺すら追い抜く可能性があるんだ。
冒険者パーティーを五回もクビになって、これからどうしようかなんてうんうん頭を捻ってるちびっ子にしか見えないってのにな。
それにしても、本当に惜しい。
潜在能力を引き出せれば、特級冒険者なんか目じゃないくらい強くなれるのに──。
──特級冒険者より、強くなる?
──俺よりも強くなる?
──クロガネ・ヒナタよりも強いなら、俺の代わりにもなれる?
ふと、俺の頭を冴えたプランがよぎった。
今はまだ弱くても、あの二人はしっかり鍛えてやればハチャメチャに強くなる。
俺が師匠役にでもなって、困っている女の子達を指導して恩を売ってやったなら、彼女達はきっと何でも言うことを聞いてくれるに違いない。
そしてその時、俺はこう提案するんだ──「実は俺は特級冒険者。国を陰から守る誇り高い守護者なんだ」「お前らにその栄誉を譲り渡したい」ってな。
俺は師匠って立場だし、特級冒険者ってのは若者には聞こえもいいし、快諾してくれるはず。
そうしたら、俺はスパッと引退。
これまで使い道がないまま貯め続けていたお金を持って、王国の端にでもさっさととんずらして、残りの余生を静かに過ごすんだ。
それとも国を出て、どこぞのリゾート地に別荘を買うのも悪くない。
いっそ小さなカフェでも開いて、のんびりスローライフでもしてみようか。
どちらにしたって──これは俺が、特級冒険者とかいうふざけた足枷を叩き壊す、絶好のチャンスに違いない!
色々と懸念材料はあるけれども、この機会を逃せば、俺はずっと任務に追われる地獄のおっさんライフから卒業できない!
そんなふうに考えつつ、俺はすっと席を立ち、女の子達にゆっくりと近づいた。
いくらいい提案をするつもりでも、警戒されないようにしないとな。
「……な、なあ、ちょっといいか?」
そう思っていたはずなんだか、俺の口から出た声はわずかに上ずっていた。
だから、俺の声を聞いて振り返った女の子達──ブロンド少女のセレナはちょっぴり首を傾げていて、獣人のリンは明らかに俺に警戒心を向けていた。
「え? ええと、どなたですか?」
「ナンパならノーサンキューだよ」
誰がお前らみたいなガキンチョをナンパするか。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえながら、俺は努めて話を続けるようにする。
「俺はクロガネっていうんだ。見たところ、冒険者パーティーをクビになったみたいだな。よかったら俺と組まないか?」
俺が提案すると、女の子達は顔を見合わせた。
【作者からのお知らせ】
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