ノストラダムスに恋を

3年も終わりに近付き、慣れないリクルートスーツ姿で顔を合わせるようになると、お互いに似合っていないと罵り合うのが恒例になった。
言い負けそうになった方は決まって、女子からの評判はいいからと切り上げる。

「いつまで就活続けんの?内定出たんでしょ?」

「メガバンクと家電メーカー。あと小さいとこ2つ」

「無い内定組に言ったらぶっ飛ばされるぞ」

「出月も出てるのに続けてるだろ」

「俺は本命がこれからだから」

「滑り止めキープしてる方がぶっ飛ばされろよ」

黒々したスーツと短めに切り揃えた髪型には似合わない、ホイップとソースが盛られたドリンクに太いストローを刺しながら、他所よりゆとりのある就活シーズンを語らった。

「春日も就活続けてて良かったわ」

「なんで?」

「金融とかメーカーって感じじゃない」

「何だってんだよ」

「テレビとか舞台とか」

「ヤダよ、そんな激務、ブラック確定みたいなとこ」

「でも」と続けられて、「似合うよ」と言われると、「それなら」と結局試してみてしまう。
出月に従ったところで、保証があるわけでも、補償してくれるわけでもないけれど、やってみた後、2人で話すとき、ことさらに楽しくなることは間違いなかった。
お前のせいだと笑い、俺のお陰だと笑われ、できてもできなくても、損をした気持ちにならない。
出月が口にする、「感じ」「似合う」「見える」は自分が選びそうにない選択肢だから、いつも面白かった。

いとをかし___大変興味深い。心惹かれる様子。

中学の古文の授業をなんとなく思い出していた。

心惹かれた結果、僕の人生設計の大半は、劇場と映画館と映像ライセンスに捧げられることになった。
大学生の思う安定や王道みたいな人生が、どの程度正しかったかなんて知る由もないけれど、選ぼうとしていた人生よりは、楽しかったんじゃないかと思っている。

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