「なにこれ? なんで誕プレが花なの?」
8歳くらいの頃、仲が良かった友達の誕生日にアネモネの花束をあげた。白やピンクのきれいなそれは、僕の家の庭で育てたものだったと思う。花言葉は「希望」。門出とも言える誕生日を迎えた彼にぴったりだと思って選んだものだ。
でも――返って来た反応は思っていた物とは全く違っていた。
「えっと、アネモネの花言葉は『希望』で――」
「いらね。俺、花とか全然わかんねえもん」
返す、と言われて突き返された花束を、僕はどんな顔で受け取ったのだろう。周りには他の友達もいて、僕らのやり取りを遠巻きに見ていた気がするけれど、その顔も思い出せない。
それでも僕は、一生懸命育てたそれを彼に渡したくてもう一度名前を呼んだ。受け取ってくれとか何とか言って、花束を再び差し出しながら。
もう少しだけ強く言えば、もしかしたら受け取ってもらえるかもしれない。ちゃんと話をしたら解ってもらえるかもしれない。そんな淡い期待をして再チャレンジしたのだけれど、世の中そんなに甘くはないということを、次の瞬間いやというほど突き付けられたからだ。
僕が差し出したアネモネの花束を、彼はバシッとはたき落とし、忌々しそうに顔をしかめてこう言った。
「しつこいなぁ、いらねーってば!」
「でも、誕生日だし……」
縋るように差し出した花束も言葉も、背を向けた彼に拒まれて行き場を失くした。地面に落ちたアネモネはひしゃげていて、あまりに可哀想で涙があふれた。
「ごめんね……痛いよね……折角咲いてくれたのに……」
母さんと父さんと家族みんなで育てた大切なアネモネは、「これならお友達も喜んでくれるよ!」と言って用意したものだったのに。
ひしゃげた花の一本一本に詫びるように言葉をかけながら拾い集めていると、「え、あいつ何か言ってる?」と、ひそひそと話している声が聞こえた。
「樹さ、いま花に話しかけてたよな?」
「それガチ? ヤベー奴じゃん」
「花が友達ってやつ? 樹ってマジヤバいな」
話し声は明らかに僕に向けられていて、しかもどう考えても僕のことを嗤っているようにしか聞こえなかった。
『花は人の言葉がわかるから、優しい言葉をかけてあげてね。そしたら答えてくれるようにきれいに咲いてくれるのよ』
そう母さんが教えてくれたから、ずっとそうしてきただけなのに――どうしてそんな気味が悪いみたいに言うんだろう。マジでヤバいとか、完全に悪口でしかないじゃないか。
僕が何をしたというんだろう。ただ花が好きで、その素敵なものを友達に分けてあげたかっただけなのに……そんな拒絶の仕方はあんまりじゃないか。
「誕プレ庭の花とか、マジありえねーよな」
遠くで聞こえよがしにそんな彼の声がし、同調するように笑う声が続く。僕が大好きな花まで馬鹿にするような言葉に、心がぐしゃぐしゃになっていのを感じ、そして同時に思った。
(――花が好きなことを馬鹿にされるくらいなら、僕はもうひとりぼっちでいい。友達なんていらない)
花があって僕に答えるように咲いていてくれるなら、それでいい。心無い言葉しか言わない人間の友達なんて、僕には必要ない。そう、思い至ったんだ。
だからそれ以降僕は、誰かに花を贈るとか、花を見せるとか、そもそも人に話しかけることすらもやめてしまった。もちろん、誰かの誕生日を祝ったり祝われたりすることも。
花が傍にあるだけでいい。ぼっち上等、ぼっち最高。
それからの僕は、春先に咲くスミレのように教室でもどこでも息をひそめ、存在感を消したぼっちになっていったのだ。
8歳くらいの頃、仲が良かった友達の誕生日にアネモネの花束をあげた。白やピンクのきれいなそれは、僕の家の庭で育てたものだったと思う。花言葉は「希望」。門出とも言える誕生日を迎えた彼にぴったりだと思って選んだものだ。
でも――返って来た反応は思っていた物とは全く違っていた。
「えっと、アネモネの花言葉は『希望』で――」
「いらね。俺、花とか全然わかんねえもん」
返す、と言われて突き返された花束を、僕はどんな顔で受け取ったのだろう。周りには他の友達もいて、僕らのやり取りを遠巻きに見ていた気がするけれど、その顔も思い出せない。
それでも僕は、一生懸命育てたそれを彼に渡したくてもう一度名前を呼んだ。受け取ってくれとか何とか言って、花束を再び差し出しながら。
もう少しだけ強く言えば、もしかしたら受け取ってもらえるかもしれない。ちゃんと話をしたら解ってもらえるかもしれない。そんな淡い期待をして再チャレンジしたのだけれど、世の中そんなに甘くはないということを、次の瞬間いやというほど突き付けられたからだ。
僕が差し出したアネモネの花束を、彼はバシッとはたき落とし、忌々しそうに顔をしかめてこう言った。
「しつこいなぁ、いらねーってば!」
「でも、誕生日だし……」
縋るように差し出した花束も言葉も、背を向けた彼に拒まれて行き場を失くした。地面に落ちたアネモネはひしゃげていて、あまりに可哀想で涙があふれた。
「ごめんね……痛いよね……折角咲いてくれたのに……」
母さんと父さんと家族みんなで育てた大切なアネモネは、「これならお友達も喜んでくれるよ!」と言って用意したものだったのに。
ひしゃげた花の一本一本に詫びるように言葉をかけながら拾い集めていると、「え、あいつ何か言ってる?」と、ひそひそと話している声が聞こえた。
「樹さ、いま花に話しかけてたよな?」
「それガチ? ヤベー奴じゃん」
「花が友達ってやつ? 樹ってマジヤバいな」
話し声は明らかに僕に向けられていて、しかもどう考えても僕のことを嗤っているようにしか聞こえなかった。
『花は人の言葉がわかるから、優しい言葉をかけてあげてね。そしたら答えてくれるようにきれいに咲いてくれるのよ』
そう母さんが教えてくれたから、ずっとそうしてきただけなのに――どうしてそんな気味が悪いみたいに言うんだろう。マジでヤバいとか、完全に悪口でしかないじゃないか。
僕が何をしたというんだろう。ただ花が好きで、その素敵なものを友達に分けてあげたかっただけなのに……そんな拒絶の仕方はあんまりじゃないか。
「誕プレ庭の花とか、マジありえねーよな」
遠くで聞こえよがしにそんな彼の声がし、同調するように笑う声が続く。僕が大好きな花まで馬鹿にするような言葉に、心がぐしゃぐしゃになっていのを感じ、そして同時に思った。
(――花が好きなことを馬鹿にされるくらいなら、僕はもうひとりぼっちでいい。友達なんていらない)
花があって僕に答えるように咲いていてくれるなら、それでいい。心無い言葉しか言わない人間の友達なんて、僕には必要ない。そう、思い至ったんだ。
だからそれ以降僕は、誰かに花を贈るとか、花を見せるとか、そもそも人に話しかけることすらもやめてしまった。もちろん、誰かの誕生日を祝ったり祝われたりすることも。
花が傍にあるだけでいい。ぼっち上等、ぼっち最高。
それからの僕は、春先に咲くスミレのように教室でもどこでも息をひそめ、存在感を消したぼっちになっていったのだ。



