私は小さい頃両親を電車の脱線だったかで亡くした。私は保育園に預かられていたのでその時、私は両親とはいなかった。
今でも覚えている。
両親のお葬式にはたくさんの親戚が来てなにやらこそこそと冷たい視線を浴びせられたこと。「うちはお金ないから」だとか「そんな時間ない」だとか。小さいながら、あの記憶は無くせない。
結局私は養護施設に入れられて小学、中学と進学して、15歳、卒業の頃。
そんな私に一通の手紙が届いた。
内容は衣食住の免除、毎月7万の手取りでの仕事の案内だった。
あきらかに高収入すぎる。わかってはいたが、遅かれ早かれ高校卒業でこの施設を出なければならない。でも、出た後の私に衣食住ができるようなそんなお金もあてもない。
施設はお風呂の時間は決まっているし、1人の時間なんてろくにない。スマホの利用制限なんて当たり前だし、食事も好きに食べられない。正直今すぐにも出たかった。だから、私はその手紙の話を聞くことにした。
行った先の何やらすんごい屋敷に行き着いた。すごく大きくて高級感が漂う。あたりに他の住宅はなく静けさがやけに不気味だった。
明らかに怪しいと言うのが正直な感想だった。そこで出会った40代くらいの男性に連れられ、一つの個室に入った。男性の声は低く落ち着いていて不安を煽った。
そしてそこで出会ったのがその時小学5年生の嶺緒さんだった。
出会った時の嶺緒さんは痩せていて、色白で血色も大してなく、無口で、言うならば、人間のレプリカ、というのが一番しっくりくるかもしれない。
40代の男性、と言うのは嶺緒さんのお父様のこと。前提として嶺緒さんは心臓病で学校に通えていないと。お父様からそう説明された。説明は淡々としていて、そこから感情を読み取ることは難しかった。
嶺緒さんは、さらさらの黒髪が目にかかっていて、白い肌に鼻筋が通っている、普通に歩いていたら振り返ってしまうだろう。嶺緒さんはそれくらい美しい見た目をしていた。
私はそんな嶺緒さんの「世話係」として嶺緒さんの父親に雇われた。
病室は質素なものじゃなく、テレビが備え付けられ、1人だけの個室。一括りにVIPといってもかなり高級感があった。それこそ嶺緒さんはその設備に目もくれていなかったが。
まぁもちろん、単なる世話係な訳ではなかったし、「私」にその手紙が来たのも、もちろんそれなりの理由があってのことだった。
でも、私は、この人と出会った時、嶺緒さんを一目見た時この人の笑顔を見てみたいと、少しでもこの人と仲良くなりたいと思ってしまった。
その仕事を引き受けると決めてから、お父様とはしっかり契約を結んだ。
それから二週間、健康診断や手続き、引越しを進め、月初から働くことになり、嶺緒さんに挨拶をしに行った。
初めて仕事を引き受ける日。私は茶色のウッド調のドアを軽く3回叩き、横に移動させ、嶺緒さんの病室に足を踏み入れた。
「失礼します。嶺緒くんですか。」
そう問いかけて、返事はない。
沈黙が部屋に流れた。続く言葉を慌てて探すがうまく言葉が見つからない。
嶺緒くんはゆっくりと口をひらき、風みたいな声で、私に言った。
「だれ?」
まだ声変わりのない高く幼い声は小さいはずなのに、私には殴られるように突きつけられたその問いが綺麗に腑に落ちた。
言われてふと気づいた。私はまだ嶺緒さんに名乗ってすらいなかったと。少し姿勢を整え、口を開いた。
「すみません!申し遅れました。これから嶺緒くんの身の回りのことを勝手ながら、やらせていただけることになりました。暁月翠です。」
すこし嶺緒くんに向かって頭をさげた。
しばらく沈黙が広い部屋に流れ、永遠のように感じた。嶺緒さんは口をゆっくりと動かした。
「あっそ。そういうの、いいから。大体あんたなに暇なの?学校は?」
心配するのはそこなのかと少し驚いたが一つ一つの言葉が的確でグサグサと刺さる。
「学校は通っていません。通う必要のある年でもないので。最初の間は不快な思いをさせることがあると思うのですが、何卒よろしくお願いします。」
嶺緒さんは、はぁ、とため息をついてから、布団を頭の上までかけた。
人生ってほんと何があるかわからないとつくづく感じる。
これがまぁ、だいたい四年前の話。
わたしは、世間一般的に大学一年生の年齢になって、嶺緒くんは高校一年生になった。嶺緒くんは未だ、病気と戦っている。発作はもうしばらく起きていないが、その分いつ起きてもおかしくない。
嶺緒さんは150㎝ほどだった身長ももう180近くまで成長した。相変わらず色白の細身。髪は目にかかる、シースルマッシュ、と言うのが一番近いだろうか。相変わらず絡まりがなく、艶があった。
外見で決定的に変わった、と言うのは身長くらいでこれと言ってないはずだが、荒れのない肌や、切れ長の黒い瞳に綺麗な形をした桜色の唇は誰が見ても美しいと感じるだろう。
ある日の午後、もう慣れた仕事を淡々としていた。でも、今日はいつもと違った。
「翠。俺さ、外行きたい。」
嶺緒さんの四年前の面影が微かに感じるような低く、透き通る綺麗な声が弱々しく病室に響いた。
四年も一緒にいれば相手のことなんてある程度はわかるようになるし、伊達に仕事をしているわけでもないけれど、そんな言葉を言ったのは四年も一緒にいて初めてだった。「外に行きたい」なんて許させることじゃゃないと、きっとずっとそうやって心に蓋をしてきたのだろう。
「外?」
嶺緒さんは一ヶ月に一回外に出れるか出れないかで、出れたとしても、いつも同じ健診への道を淡々と歩いていくだけだった。
「俺さ、翠と外行きてぇ。」
そういう嶺緒さんとは目こそ合わなかったが、本気だってことだけは、ひしひしと伝わってきた。
初めてだっただから。彼がそう言うのは。
「お父様とお医者様に許可をとってみますね。」
そうじゃなくて、と声がしたが、なんでもないとベッドに潜った。
いつからだっただろう。
嶺緒さんが私に心を開いてくれるようになったのは。
びびるくらい冷たくて無口だった彼が、私を頼ってくれるようになったのは。
一緒にいたいと、そう思うようになってしまうだけなのに。
私は嶺緒さんの世話係として雇われた。
そして私は、嶺緒さんの緊急ドナーとして、お父様と契約を結んでいる。
今でも覚えている。
両親のお葬式にはたくさんの親戚が来てなにやらこそこそと冷たい視線を浴びせられたこと。「うちはお金ないから」だとか「そんな時間ない」だとか。小さいながら、あの記憶は無くせない。
結局私は養護施設に入れられて小学、中学と進学して、15歳、卒業の頃。
そんな私に一通の手紙が届いた。
内容は衣食住の免除、毎月7万の手取りでの仕事の案内だった。
あきらかに高収入すぎる。わかってはいたが、遅かれ早かれ高校卒業でこの施設を出なければならない。でも、出た後の私に衣食住ができるようなそんなお金もあてもない。
施設はお風呂の時間は決まっているし、1人の時間なんてろくにない。スマホの利用制限なんて当たり前だし、食事も好きに食べられない。正直今すぐにも出たかった。だから、私はその手紙の話を聞くことにした。
行った先の何やらすんごい屋敷に行き着いた。すごく大きくて高級感が漂う。あたりに他の住宅はなく静けさがやけに不気味だった。
明らかに怪しいと言うのが正直な感想だった。そこで出会った40代くらいの男性に連れられ、一つの個室に入った。男性の声は低く落ち着いていて不安を煽った。
そしてそこで出会ったのがその時小学5年生の嶺緒さんだった。
出会った時の嶺緒さんは痩せていて、色白で血色も大してなく、無口で、言うならば、人間のレプリカ、というのが一番しっくりくるかもしれない。
40代の男性、と言うのは嶺緒さんのお父様のこと。前提として嶺緒さんは心臓病で学校に通えていないと。お父様からそう説明された。説明は淡々としていて、そこから感情を読み取ることは難しかった。
嶺緒さんは、さらさらの黒髪が目にかかっていて、白い肌に鼻筋が通っている、普通に歩いていたら振り返ってしまうだろう。嶺緒さんはそれくらい美しい見た目をしていた。
私はそんな嶺緒さんの「世話係」として嶺緒さんの父親に雇われた。
病室は質素なものじゃなく、テレビが備え付けられ、1人だけの個室。一括りにVIPといってもかなり高級感があった。それこそ嶺緒さんはその設備に目もくれていなかったが。
まぁもちろん、単なる世話係な訳ではなかったし、「私」にその手紙が来たのも、もちろんそれなりの理由があってのことだった。
でも、私は、この人と出会った時、嶺緒さんを一目見た時この人の笑顔を見てみたいと、少しでもこの人と仲良くなりたいと思ってしまった。
その仕事を引き受けると決めてから、お父様とはしっかり契約を結んだ。
それから二週間、健康診断や手続き、引越しを進め、月初から働くことになり、嶺緒さんに挨拶をしに行った。
初めて仕事を引き受ける日。私は茶色のウッド調のドアを軽く3回叩き、横に移動させ、嶺緒さんの病室に足を踏み入れた。
「失礼します。嶺緒くんですか。」
そう問いかけて、返事はない。
沈黙が部屋に流れた。続く言葉を慌てて探すがうまく言葉が見つからない。
嶺緒くんはゆっくりと口をひらき、風みたいな声で、私に言った。
「だれ?」
まだ声変わりのない高く幼い声は小さいはずなのに、私には殴られるように突きつけられたその問いが綺麗に腑に落ちた。
言われてふと気づいた。私はまだ嶺緒さんに名乗ってすらいなかったと。少し姿勢を整え、口を開いた。
「すみません!申し遅れました。これから嶺緒くんの身の回りのことを勝手ながら、やらせていただけることになりました。暁月翠です。」
すこし嶺緒くんに向かって頭をさげた。
しばらく沈黙が広い部屋に流れ、永遠のように感じた。嶺緒さんは口をゆっくりと動かした。
「あっそ。そういうの、いいから。大体あんたなに暇なの?学校は?」
心配するのはそこなのかと少し驚いたが一つ一つの言葉が的確でグサグサと刺さる。
「学校は通っていません。通う必要のある年でもないので。最初の間は不快な思いをさせることがあると思うのですが、何卒よろしくお願いします。」
嶺緒さんは、はぁ、とため息をついてから、布団を頭の上までかけた。
人生ってほんと何があるかわからないとつくづく感じる。
これがまぁ、だいたい四年前の話。
わたしは、世間一般的に大学一年生の年齢になって、嶺緒くんは高校一年生になった。嶺緒くんは未だ、病気と戦っている。発作はもうしばらく起きていないが、その分いつ起きてもおかしくない。
嶺緒さんは150㎝ほどだった身長ももう180近くまで成長した。相変わらず色白の細身。髪は目にかかる、シースルマッシュ、と言うのが一番近いだろうか。相変わらず絡まりがなく、艶があった。
外見で決定的に変わった、と言うのは身長くらいでこれと言ってないはずだが、荒れのない肌や、切れ長の黒い瞳に綺麗な形をした桜色の唇は誰が見ても美しいと感じるだろう。
ある日の午後、もう慣れた仕事を淡々としていた。でも、今日はいつもと違った。
「翠。俺さ、外行きたい。」
嶺緒さんの四年前の面影が微かに感じるような低く、透き通る綺麗な声が弱々しく病室に響いた。
四年も一緒にいれば相手のことなんてある程度はわかるようになるし、伊達に仕事をしているわけでもないけれど、そんな言葉を言ったのは四年も一緒にいて初めてだった。「外に行きたい」なんて許させることじゃゃないと、きっとずっとそうやって心に蓋をしてきたのだろう。
「外?」
嶺緒さんは一ヶ月に一回外に出れるか出れないかで、出れたとしても、いつも同じ健診への道を淡々と歩いていくだけだった。
「俺さ、翠と外行きてぇ。」
そういう嶺緒さんとは目こそ合わなかったが、本気だってことだけは、ひしひしと伝わってきた。
初めてだっただから。彼がそう言うのは。
「お父様とお医者様に許可をとってみますね。」
そうじゃなくて、と声がしたが、なんでもないとベッドに潜った。
いつからだっただろう。
嶺緒さんが私に心を開いてくれるようになったのは。
びびるくらい冷たくて無口だった彼が、私を頼ってくれるようになったのは。
一緒にいたいと、そう思うようになってしまうだけなのに。
私は嶺緒さんの世話係として雇われた。
そして私は、嶺緒さんの緊急ドナーとして、お父様と契約を結んでいる。

