シナモントーストで朝食を

 翌朝、いつものように身支度を済ませ、リュックを背負おうとしたところで昨日の約束を思い出した。
 そうか、今日からは起こしに行かなくていいんだ。
 ルーティーンとは侮れないもので、勝手に身体が動いていた。一旦リュックを下ろし、朝食を用意する。
 ちょうど食パンを切らしてしまっていた。昴生のところで朝食を取ることが多かったからうっかりしていた。ひとまず買い置きしていたブロックタイプの栄養食を齧ることにする。
 そういえば、昴生の冷蔵庫の在庫はしっかり把握しているのに、自分の冷蔵庫の中身はあやふやだ。これは俺にも色々と改善点が見つかりそうだな。
 薄い壁一枚隔てた向こうの部屋では物音ひとつしない。まだ寝てるのか? そろそろ起きないと一限に間に合わないのに。
 ……いやいや、こうやって気にしすぎるから良くないんだ。昴生だってもう立派な大人だし、寝坊も遅刻も自己責任だろう。ここは心を鬼にしないと。
 俺は食事を終えて、予定どおりの時刻に部屋を出た。


 結局昴生は一限の講義に現れず、二限が始まる直前に講義室に入ってきた。手招きをすると不機嫌そうな顔で隣に座る。
「おはよ。一限起きられなかったのか?」
「……アラームが勝手に止まってた」
「自分で止めて二度寝したんだろ」
 一応自力で起きたようだから、初日としては合格点だろうか。甘すぎるかもしれないけど。
 昴生のTシャツが裏返しになっていたことは、講義終了後にこっそり教えてやった。



 翌日の昼休み、鈴木と二人で学食の日替わりランチを食べていたらようやく昴生が姿を見せた。本来なら二限からだったはずだ。
「昨日は二限の前に来れたのに、何で今日は駄目だったんだ?」
「バイトで寝るのが遅かったんだよ」
 昴生は閉店後のスーパーで清掃のバイトをしている。絶望的に接客業に向いていないので、なるべく人と関わらない仕事を選んだのだ。
 確かにバイトの日は帰りが遅いけれど、それで学業が疎かになったら本末転倒だ。
「鷺森先輩、シャツにタグついてますよ」
 俺たちの会話を隣で聞いていた鈴木が昴生の首元を指差した。リネンシャツの襟から服屋の値札が覗いている。
「イケメンが台無しですね」
「あー、切ってやるから、動くなよ」
 ペンケースからハサミを取り出し、値札を切ろうと手を伸ばす。昴生の首筋に手が触れた瞬間、その肩が跳ねた。
「いっ……、いきなり触んな」
「え、ごめん」
 そんな反応をされるとは思わず、こっちが驚いてしまう。
 昴生はそのまま歩き去っていってしまった。取らなくて良かったのかな。
「……まさか新手のファッション?」
「なわけないでしょ」
 鈴木は深いため息をつきながら味噌汁を啜った。