先輩の胡散臭さはいまだ拭えないにしろ、今見たことは確かだ。やはり信じるしかない。
線香に似た香りを吐きながら歩き出す背中を追って、俺は気になったことを問いかけた。
「静先輩は霊を……成仏させられるんですか」
「う~ん、視えないから実際どうかわかんないんだよね。僕が関わるとキレイさっぱり消えるから、それが成仏ならそうなのかもだけど。消えるってのも結果的に霊障がなくなるからそう言ってるだけで、真に除霊が成功したかすぐにはわかんないわけ」
「それじゃ大変ですね……。毎回手探りで依頼こなさないとで」
「そう! 大変なんだよ! さすがマコトくんは察しがいい。霊が視える相方がいてくれたら、仕事しやすいんだけどね~気配のわかる類は難癖つけて手伝ってくれないんだよ~」
なんだか妙に白々しい言い方だった。話の方向性に疑問を感じたところで、静先輩は俺を抱き寄せる勢いで肩を組んできた。
「ということで!」
「えっ? な、なんですか」
にっこりと口角をあげた先輩と至近距離で目が合う。
「マコトくん、僕の仕事を手伝ってくれない? もちろんタダでとは言わないよ。手伝ってくれるなら、マコトくんのこと何度でも除霊してあげる。無償で」
Win-Winだろうと言わんばかりに親指を立てられ、俺はその提案に後頭部を殴られた気がした。
「っ、ちょっと待った! 昨日ので全部除霊できたんじゃないんですか!?」
「昨日除霊できたのは昨日憑いてた分だけだよ。マコトくんは僕と真逆の霊にモテモテ霊媒体質だ。で、残念ながら体質ってのは変えられない。僕がいなきゃまたすぐ元通りになるよ」
「え、えぇ~……」
久しぶりに軽かった足取りが悪霊に憑かれたように重くなる。昨日の件で憑依からすっかり解放されたと思っていたから、ショックがものすごい。
「マコトくんの体はすごいよ。霊を視認できるうえにとんでもなく憑かれやすい。こんな便利な体質、見たことない」
うなだれる俺を気にせず、静先輩は目を輝かせている。そりゃ霊媒師にとっては便利かもしれないが、一般人の俺にとっては迷惑極まりない体だ。
「霊に取り憑かれないための方法とか、ないんですか……」
消えそうな声で尋ねると、静先輩は俺の手を握った。
「僕とこれから一生、四六時中手を繋ぐなら防げるよ。あ、触れてさえいればいいから腕を組むとか腰を抱くとかでもいいけど」
「実現不可能なこと言わないでください……」
手を離す気力もなく繋がれた手をそのままにしていると、顔を覗き込まれる。
「僕がいなくても霊障を避けたい? そしたら除霊手伝ってくれる?」
「そりゃ、そんな方法があるならなんだってしますよ……」
投げやりな俺の答えに立ち止まった先輩は、ぽんと手を叩いた。
「わかった。じゃ前払いのサービスってことで」
言うが早いか、肩に手を置かれ顔が近づく。
なにするんだろうとその均整のとれた造形を見つめてしまったが、静先輩は止まらずに迫ってきて、俺は思わず仰け反って彼の口に手を当てた。
「っ、なに、なんですか……!?」
「ちょっとキスしようと思って」
「は? キスって──キ、キス!?」
まさかキスするわけじゃないよなと過った矢先、キスされそうだったとわかり声が裏返った。
「ほんの数秒で十分だから、そんな怖がらなくても」
「い、嫌ですよ!! キスなんて、好きな人とするもんでしょ!」
俺の叫びに近い抵抗にきょとんとした静先輩は、しばらく顎に手を当てた後に「言われてみれば、確かに」と納得をした。
考えないとわからないほど先輩の感覚がマヒしてるのを不安になりつつ、納得してくれたのはよかったと口から手を離したが、先輩は諦めていないのか俺の前から退かない。
「でも本当にすごい効き目だよ? 1回だけで並大抵の人間なら半永久的に効果がある」
(……1回で、半永久的に……?)
今までの霊障被害の辛さがぶり返してきて、俺は正直一瞬グラついたが、
「まぁマコトくんの場合は良くて1ヶ月とかだと思うけど」
「じゃあ嫌ですよ!」
すぐに先輩を追い越して足早に歩き出した。
恋人がまだいたことのないこの身にとって、ファーストキスは最も重要なイベントだ。霊のために月イチでキスする案に軽々しく乗れるほど、俺はすれていなかった。
「僕の体液を摂取するとあらゆる霊障に効くんだ。で、1番手っ取り早いのが唾液だからキスがオススメでね?」
「キスじゃなくて唾液飲むんじゃダメなんですか、それ」
いまだプレゼンをやめない先輩を横目で見ると、なぜか目を丸くする。
「それ……キスよりいやらしくない?」
「キスよりいやらしいんですか……!?」
わからない。
先輩はいったい何を想像しているのか。唾液を飲むのがなぜキスよりいやらしいのか、俺にはわからない。
「とにかく、しませんからね。俺はキスを安売りしません」
そもそも唾液も飲みたくはない俺が再度意思を固くするのを見て、静先輩は肩をすくめた。
「そう言ってられるのも今だけじゃないかな~」
「どういう意味ですか」
「学校ついたら、わかるよ。ほら、もう駅だ」
意味深なことを言うだけ言って、静先輩はタバコを消すと駅に入っていってしまった。
線香に似た香りを吐きながら歩き出す背中を追って、俺は気になったことを問いかけた。
「静先輩は霊を……成仏させられるんですか」
「う~ん、視えないから実際どうかわかんないんだよね。僕が関わるとキレイさっぱり消えるから、それが成仏ならそうなのかもだけど。消えるってのも結果的に霊障がなくなるからそう言ってるだけで、真に除霊が成功したかすぐにはわかんないわけ」
「それじゃ大変ですね……。毎回手探りで依頼こなさないとで」
「そう! 大変なんだよ! さすがマコトくんは察しがいい。霊が視える相方がいてくれたら、仕事しやすいんだけどね~気配のわかる類は難癖つけて手伝ってくれないんだよ~」
なんだか妙に白々しい言い方だった。話の方向性に疑問を感じたところで、静先輩は俺を抱き寄せる勢いで肩を組んできた。
「ということで!」
「えっ? な、なんですか」
にっこりと口角をあげた先輩と至近距離で目が合う。
「マコトくん、僕の仕事を手伝ってくれない? もちろんタダでとは言わないよ。手伝ってくれるなら、マコトくんのこと何度でも除霊してあげる。無償で」
Win-Winだろうと言わんばかりに親指を立てられ、俺はその提案に後頭部を殴られた気がした。
「っ、ちょっと待った! 昨日ので全部除霊できたんじゃないんですか!?」
「昨日除霊できたのは昨日憑いてた分だけだよ。マコトくんは僕と真逆の霊にモテモテ霊媒体質だ。で、残念ながら体質ってのは変えられない。僕がいなきゃまたすぐ元通りになるよ」
「え、えぇ~……」
久しぶりに軽かった足取りが悪霊に憑かれたように重くなる。昨日の件で憑依からすっかり解放されたと思っていたから、ショックがものすごい。
「マコトくんの体はすごいよ。霊を視認できるうえにとんでもなく憑かれやすい。こんな便利な体質、見たことない」
うなだれる俺を気にせず、静先輩は目を輝かせている。そりゃ霊媒師にとっては便利かもしれないが、一般人の俺にとっては迷惑極まりない体だ。
「霊に取り憑かれないための方法とか、ないんですか……」
消えそうな声で尋ねると、静先輩は俺の手を握った。
「僕とこれから一生、四六時中手を繋ぐなら防げるよ。あ、触れてさえいればいいから腕を組むとか腰を抱くとかでもいいけど」
「実現不可能なこと言わないでください……」
手を離す気力もなく繋がれた手をそのままにしていると、顔を覗き込まれる。
「僕がいなくても霊障を避けたい? そしたら除霊手伝ってくれる?」
「そりゃ、そんな方法があるならなんだってしますよ……」
投げやりな俺の答えに立ち止まった先輩は、ぽんと手を叩いた。
「わかった。じゃ前払いのサービスってことで」
言うが早いか、肩に手を置かれ顔が近づく。
なにするんだろうとその均整のとれた造形を見つめてしまったが、静先輩は止まらずに迫ってきて、俺は思わず仰け反って彼の口に手を当てた。
「っ、なに、なんですか……!?」
「ちょっとキスしようと思って」
「は? キスって──キ、キス!?」
まさかキスするわけじゃないよなと過った矢先、キスされそうだったとわかり声が裏返った。
「ほんの数秒で十分だから、そんな怖がらなくても」
「い、嫌ですよ!! キスなんて、好きな人とするもんでしょ!」
俺の叫びに近い抵抗にきょとんとした静先輩は、しばらく顎に手を当てた後に「言われてみれば、確かに」と納得をした。
考えないとわからないほど先輩の感覚がマヒしてるのを不安になりつつ、納得してくれたのはよかったと口から手を離したが、先輩は諦めていないのか俺の前から退かない。
「でも本当にすごい効き目だよ? 1回だけで並大抵の人間なら半永久的に効果がある」
(……1回で、半永久的に……?)
今までの霊障被害の辛さがぶり返してきて、俺は正直一瞬グラついたが、
「まぁマコトくんの場合は良くて1ヶ月とかだと思うけど」
「じゃあ嫌ですよ!」
すぐに先輩を追い越して足早に歩き出した。
恋人がまだいたことのないこの身にとって、ファーストキスは最も重要なイベントだ。霊のために月イチでキスする案に軽々しく乗れるほど、俺はすれていなかった。
「僕の体液を摂取するとあらゆる霊障に効くんだ。で、1番手っ取り早いのが唾液だからキスがオススメでね?」
「キスじゃなくて唾液飲むんじゃダメなんですか、それ」
いまだプレゼンをやめない先輩を横目で見ると、なぜか目を丸くする。
「それ……キスよりいやらしくない?」
「キスよりいやらしいんですか……!?」
わからない。
先輩はいったい何を想像しているのか。唾液を飲むのがなぜキスよりいやらしいのか、俺にはわからない。
「とにかく、しませんからね。俺はキスを安売りしません」
そもそも唾液も飲みたくはない俺が再度意思を固くするのを見て、静先輩は肩をすくめた。
「そう言ってられるのも今だけじゃないかな~」
「どういう意味ですか」
「学校ついたら、わかるよ。ほら、もう駅だ」
意味深なことを言うだけ言って、静先輩はタバコを消すと駅に入っていってしまった。
