──ピピピピッ! ピピピピッ!
スマホのアラームが耳元で鳴って、俺は目を見開いた。
白い天井は染み1つない。起き上がって見えるのは、物置きになっている勉強机と巻数の揃っていない漫画の入った本棚。壁には小学生の時に唯一もらった賞状が飾ってある。
つまり、どう見ても俺の部屋だった。
(俺、菩提寺たちと教室にいたよな……!?)
どうして教室にいたはずの自分が、自分の部屋で寝ているのか意味がわからなくて、俺は部屋を飛び出ると階段を2段飛ばしで降りてリビングに走った。
「なに、随分元気じゃん」
キッチンでコーヒーを飲んでいた母さんは、階段を駆け下りてきた俺を見て不思議そうに笑った。こんな勢いで動けたのは久しぶりで、母さんは元気な息子を見られて嬉しそうだ。
「お風呂も入らず寝てるから、また体調悪いんだと思ってたけど」
「俺、昨日どうやって帰ってきた……!?」
何も記憶がない。
ベランダから飛び降りかけたことも、静先輩に助けてもらったことも、全部夢だったのかと思うほどに教室以降の記憶が欠落してしまっていた。
「菩提寺くんが体調不良の真をうちまで連れてきてくれたってパパが言ってたけど。覚えてないの?」
「そ、そうなんだ……?」
気絶している俺を菩提寺兄弟が運んできてくれたんだろうか。気絶状態で帰宅したらもっと心配されそうなものだが、男親あるあるの雑な情報共有によって母さんも詳しい状況は知らないようだ。
「私もう出るから。パパは夜勤明けでさっき寝たから起こさないでね~。あ、シャツくらいは新しいのにして行きなよ」
指差されて、自分が制服姿のままであることに気づく。本当に教室以降気を失っていたようだ。
出勤する母さんを見送って、シャワーだけでも浴びておこうと俺は風呂場へ急いだ。
父さんを起こさないようにシャワーと朝ご飯を済ませ、玄関扉を開けたら門のところに人が立っていた。
「おはよ。体調どう?」
手を振っているのは静先輩だった。昨日初めて見た姿そのままに立っている。中身はさておき外見は完全にヤンキーなので、後ろを通る小中学生がチラチラと視線を投げて足早に去っていく。
「お、おはようごさいます。体調はすごく良いです。昨日は俺のこと家まで運んでもらったみたいで、すみません」
「ああ、家に連れて行ったのは類だよ。さすがに僕みたいなのがいきなり来たら、親御さんびっくりしちゃうと思ってさ」
静先輩は自分を客観視できているのに、その派手な格好をやめるという選択肢はないらしい。
そのまま並んで歩き始めると、近所のおばさんがギョッとした顔ですれ違っていった。この辺りは閑静な住宅街で派手な学生などいないので、静先輩は異常に目立っていた。
「家、この辺なんですか?」
「いや全然。実家は高校まで徒歩圏内のとこ。今日はマコトくんの様子が気になって、早起きして電車で来たんだ。類も来たがったけど、あいつは朝練行かなきゃで。てか電車とか久しぶりに乗ったな~。昨日はタクシーでマコトくんのこと運んだからさ」
「タクシー使ったんですか!? お、お金! お金払います!」
悪霊のせいで同世代より不健康に痩せているとはいえ、俺は普通に身長のある男だ。どうやって家まで連れてきてくれたんだろうと思っていたが、最も高級な交通手段が出てきて動揺しながらスクールバッグを漁った。
絶対足りない金額しか入っていない財布を取り出した俺を見て、静先輩はハハと笑った。
「いいよいいよ。僕稼いでるから」
「でもタクシーなんてめちゃくちゃ高いし……!」
「ホントに平気。それなりに除霊の依頼来るんだよね。去年超デカい案件があって、数年困らないくらい貰ったんだ。だから何も気にせず」
静先輩は俺の手を掴み、財布をバッグに戻させた。
「ま、そのせいでまた留年してんだから、もうちょっと貰ってもよかったけど」
「てことは……去年学校に1度も来てないのって除霊の仕事をしてたからなんですか?」
「そそ。オカルト界隈では僕ちょっと有名で。ついに大物からも依頼が来るようになった、みたいな?」
言いながらタバコを咥えた静先輩に、歩きタバコを注意しても大丈夫だろうかと顔色を伺った時、道の向こう側のモノと目が合って思わず止まってしまった。
数歩進んだ静先輩が後ろ歩きで戻ってきて、首を伸ばす。
「なに、なんかいるの?」
「……悪霊です。ただ、見てくるだけでこっちには来ません」
静先輩がいるからだろうか。
いつもなら俺に近づくか憑いてくるか、何かしらアクションがあるのに、今はギョロギョロと目を見開いて凝視してくるだけだ。
「視てわかるもん? 悪霊かそうじゃないか」
「霊はみんな黒い靄なんですけど、悪いやつは大量の目とか口がついてて……とにかく普通じゃないからすぐわかります」
「へぇ~わかりやすくていいね」
タバコに火をつけて、静先輩は深く吸った。ふーっと悪霊のいる方向に煙が吐き出されると、靄が縮こまりあからさまに焦るのがわかった。ただの煙を恐れて、散り散りに霧散する。
「に、逃げた……」
「おお、逃げたんだ。成果がわかるの助かるね」
半信半疑だったが、静先輩は本当に幽霊が視えないようだ。今も悪霊が散った先とは全然違う方を眺めている。
「現世に残ってる霊は煙が嫌いなんだよ。ほら線香とか、いかにも成仏っぽいじゃん? みんな未練があって成仏したくないから、タバコの煙でも嫌がる」
(めっちゃフワッとした説明だな……)
スマホのアラームが耳元で鳴って、俺は目を見開いた。
白い天井は染み1つない。起き上がって見えるのは、物置きになっている勉強机と巻数の揃っていない漫画の入った本棚。壁には小学生の時に唯一もらった賞状が飾ってある。
つまり、どう見ても俺の部屋だった。
(俺、菩提寺たちと教室にいたよな……!?)
どうして教室にいたはずの自分が、自分の部屋で寝ているのか意味がわからなくて、俺は部屋を飛び出ると階段を2段飛ばしで降りてリビングに走った。
「なに、随分元気じゃん」
キッチンでコーヒーを飲んでいた母さんは、階段を駆け下りてきた俺を見て不思議そうに笑った。こんな勢いで動けたのは久しぶりで、母さんは元気な息子を見られて嬉しそうだ。
「お風呂も入らず寝てるから、また体調悪いんだと思ってたけど」
「俺、昨日どうやって帰ってきた……!?」
何も記憶がない。
ベランダから飛び降りかけたことも、静先輩に助けてもらったことも、全部夢だったのかと思うほどに教室以降の記憶が欠落してしまっていた。
「菩提寺くんが体調不良の真をうちまで連れてきてくれたってパパが言ってたけど。覚えてないの?」
「そ、そうなんだ……?」
気絶している俺を菩提寺兄弟が運んできてくれたんだろうか。気絶状態で帰宅したらもっと心配されそうなものだが、男親あるあるの雑な情報共有によって母さんも詳しい状況は知らないようだ。
「私もう出るから。パパは夜勤明けでさっき寝たから起こさないでね~。あ、シャツくらいは新しいのにして行きなよ」
指差されて、自分が制服姿のままであることに気づく。本当に教室以降気を失っていたようだ。
出勤する母さんを見送って、シャワーだけでも浴びておこうと俺は風呂場へ急いだ。
父さんを起こさないようにシャワーと朝ご飯を済ませ、玄関扉を開けたら門のところに人が立っていた。
「おはよ。体調どう?」
手を振っているのは静先輩だった。昨日初めて見た姿そのままに立っている。中身はさておき外見は完全にヤンキーなので、後ろを通る小中学生がチラチラと視線を投げて足早に去っていく。
「お、おはようごさいます。体調はすごく良いです。昨日は俺のこと家まで運んでもらったみたいで、すみません」
「ああ、家に連れて行ったのは類だよ。さすがに僕みたいなのがいきなり来たら、親御さんびっくりしちゃうと思ってさ」
静先輩は自分を客観視できているのに、その派手な格好をやめるという選択肢はないらしい。
そのまま並んで歩き始めると、近所のおばさんがギョッとした顔ですれ違っていった。この辺りは閑静な住宅街で派手な学生などいないので、静先輩は異常に目立っていた。
「家、この辺なんですか?」
「いや全然。実家は高校まで徒歩圏内のとこ。今日はマコトくんの様子が気になって、早起きして電車で来たんだ。類も来たがったけど、あいつは朝練行かなきゃで。てか電車とか久しぶりに乗ったな~。昨日はタクシーでマコトくんのこと運んだからさ」
「タクシー使ったんですか!? お、お金! お金払います!」
悪霊のせいで同世代より不健康に痩せているとはいえ、俺は普通に身長のある男だ。どうやって家まで連れてきてくれたんだろうと思っていたが、最も高級な交通手段が出てきて動揺しながらスクールバッグを漁った。
絶対足りない金額しか入っていない財布を取り出した俺を見て、静先輩はハハと笑った。
「いいよいいよ。僕稼いでるから」
「でもタクシーなんてめちゃくちゃ高いし……!」
「ホントに平気。それなりに除霊の依頼来るんだよね。去年超デカい案件があって、数年困らないくらい貰ったんだ。だから何も気にせず」
静先輩は俺の手を掴み、財布をバッグに戻させた。
「ま、そのせいでまた留年してんだから、もうちょっと貰ってもよかったけど」
「てことは……去年学校に1度も来てないのって除霊の仕事をしてたからなんですか?」
「そそ。オカルト界隈では僕ちょっと有名で。ついに大物からも依頼が来るようになった、みたいな?」
言いながらタバコを咥えた静先輩に、歩きタバコを注意しても大丈夫だろうかと顔色を伺った時、道の向こう側のモノと目が合って思わず止まってしまった。
数歩進んだ静先輩が後ろ歩きで戻ってきて、首を伸ばす。
「なに、なんかいるの?」
「……悪霊です。ただ、見てくるだけでこっちには来ません」
静先輩がいるからだろうか。
いつもなら俺に近づくか憑いてくるか、何かしらアクションがあるのに、今はギョロギョロと目を見開いて凝視してくるだけだ。
「視てわかるもん? 悪霊かそうじゃないか」
「霊はみんな黒い靄なんですけど、悪いやつは大量の目とか口がついてて……とにかく普通じゃないからすぐわかります」
「へぇ~わかりやすくていいね」
タバコに火をつけて、静先輩は深く吸った。ふーっと悪霊のいる方向に煙が吐き出されると、靄が縮こまりあからさまに焦るのがわかった。ただの煙を恐れて、散り散りに霧散する。
「に、逃げた……」
「おお、逃げたんだ。成果がわかるの助かるね」
半信半疑だったが、静先輩は本当に幽霊が視えないようだ。今も悪霊が散った先とは全然違う方を眺めている。
「現世に残ってる霊は煙が嫌いなんだよ。ほら線香とか、いかにも成仏っぽいじゃん? みんな未練があって成仏したくないから、タバコの煙でも嫌がる」
(めっちゃフワッとした説明だな……)
