オカ研部長は最強霊媒師なのに幽霊が視えない

 俺が次に目を覚ましたのは、修学旅行で泊まることになっていたホテルのベッドの上だった。
 寝過ぎて重い頭を持ち上げると、ベッドサイドいた人影が顔を覗き込んでくる。

「気分はどうだ、善本。色々と大変だったな」

 菩提寺が労りの表情で、俺に水のペットボトルを渡してくれる。一口飲むと体が乾きを訴えて、結局ほとんど1本飲み切ってしまった。

「ここは宿泊先のホテル。善本が新幹線から落ちた件は、色々と学校側を誤魔化してどうにかなってるから安心してくれ」

 菩提寺の話によれば、俺が落下し消えた直後に新幹線は動き出し、先輩は俺が『体調不良で次の京都駅で下車した』ことにすると決め、菩提寺に教師への報告を依頼。たまたま乗り合わせていたテイの先輩が俺の様子を見るから大丈夫だと教師に電話して背景を補強し、菩提寺はどうにかこうにか教師の追及をかわし続け時間を稼いでいたとのことだった。
 その間に俺が怨霊に連れ去られたと判断した先輩は、俺に電話をかけ続けながら饗庭さんから伝えられていた拠点へ京都から直行し、俺の元へやってきたのだ。
 そして除霊を終え気絶した俺を抱えて、宿泊先のホテルを訪れた。

「医者に問題なしと言われたし本人もできれば帰宅せずに少しでも参加したいと言っている……ということを静が担任に饒舌に語って説得できた」

 先輩の巧みな口車に担任が乗ってくれてよかったと胸を撫でおろしつつ、菩提寺に頭を下げた。

「色々迷惑かけちゃってごめん……。先生騙すの大変だったでしょ」
「いいんだ。善本が無事だったことが一番だろ。あと……残念だが今は修学旅行2日目の昼で、明日は帰るだけで終わりだ」
「菩提寺だけでもどこか行ってきてよかったのに。寝てる俺といるだけで修学旅行終わっちゃうなんて……」
「いや、俺は平気だ。……こうして善本といられるし」

 不意に微笑まれて、俺はちょっと顔が熱くなるのを感じた。ただの友達にしてはかなりの特別扱いを受けると、どうしても照れてしまう。

「じゃあ、今からでもどこか行かない? 俺はもう体調問題ないし。ホテル周辺の観光地でもいいから、ちょっとでも思い出にしようよ」
「いいな。賛成だ」

 立ち上がって簡単に手荷物を準備して、スマホを手に取ると静先輩からメッセージが来ていた。

『1501号室にいる。何かあれば』

 短い文章だった。普段のやり取りと比べたらかなり事務的だ。

「静先輩もここ泊まってるんだ」
「ああ、一応善本に何かあったらってことで。ただ今は……まだ寝てると思う」
「もしかして具合でも悪い?」
「いや……なんというか、除霊の影響だ。あいつ自分のこと最強霊媒師とか言ってるが、ちゃんと代償があるんだよ」

 初めて聞く話で、俺は返信を打つ指を止めた。

「静って食う量が多いだろ。あれは制御できない力のせいで常に腹が減ってるからだ。で、大なり小なり除霊を行うと睡眠が必要になる。今回は大規模な除霊だったから2日くらいは寝たままのはずだ」
「そんな制約が……知らなかった。先輩にはリスクなんてないのかと」

 先輩がそういう話をしたがらないというのはもう俺にもわかっているが、まだ教えられていないことがあるというのは寂しさを覚えた。

「善本が気にすることじゃない。今日の夜くらいならあいつも起きてるだろ。それより早くしないと本当にどこにも行けなくなるぞ」

 菩提寺に促された俺は『目覚めました。夜に行きます』とだけ返信して、先輩の様子が気になりながらも観光地へと赴くことにした。