俺が言いかけて言い淀んだ時、
──ピンポーン。
場にそぐわない明るい音が響いた。
一気に空気が弛緩して、俺と菩提寺は同時に玄関の方を見た。
「ごめん、ちょっと出てくる。宅配かな……!」
緊張と弛緩の高低差に転びそうになりながら立ち上がり、俺は玄関へと急いだ。
今度こそ印鑑を持ってドアを開けると、そこには印鑑に用のない男性2人が立っていた。
「マコトくん、こんにちは~」
「し、静先輩! どうしたんですか」
「ちょっと話したいことあって。今平気? あ、お土産に駅前の水ようかんあるよ」
静先輩が紙袋を持ち上げて笑った。
先輩の隣には、知らない男性が立っていて会釈される。細身で派手な柄シャツを着た、大学生くらいの人だ。
誰だろうと気になってチラチラ見てしまうと、男性は申し訳なさそうに苦笑した。
「ほら、びっくりしてるわ。急に行くのは悪いって言ったよな、オレ」
「でも僕の直感が今だと囁いたから」
そのやり取りと、男性に小突かれた先輩が反応せずにスルーする様が、2人の仲の良さを感じさせた。
(友達……なのかな。先輩の友達、初めて見た)
なんだか落ち着かない気分になっていると、背後に気配がした。
「なんで来たんだよ」
騒ぎを聞きつけた菩提寺が口をへの字にして腕を組んでいる。静先輩も合わせて腕を組み、挑発するように顎を上げた。
「なんでマコトくんちに寄るのに類の許可がいるんだよ。彼氏か?」
「お、類くん。久しぶり~」
まさに苦虫を嚙み潰したという顔をした菩提寺は、男性の挨拶に反応する余裕もなく静先輩に言い返す。
「反省して善本に絡むのやめたんじゃねえのかよ」
「反省はした。でも、それとこれとは別問題。お前こそ僕を悪者にしてマコトくん囲い込むのやめろよ」
「は? 囲い込んでねえよ」
「兄弟喧嘩してんならオレ帰るけど」
男性はため息を吐くと、俺に名刺を差し出して微笑みかけた。
「はじめまして。キミが善本くん? オレは饗庭仁之助いいます。よろしく」
イントネーションがやや関西訛りで、渡された薄い名刺には『調査会社アビア』と書かれている。調査会社というものが、何をする仕事なのかはわからない。
「饗庭さん、はじめまして。俺は善本真です。ここじゃ暑いですし中入ってください。菩提寺と先輩も喧嘩してないで、ほら」
「喧嘩はしてない」
「してないよ」
ピリピリした雰囲気で見合っていた2人は同時に目をそらし、俺は饗庭さんも含めた3人をリビングに案内した。
ソファに座って一息つくと、静先輩が饗庭さんの肩に手を置いた。
「マコトくん、紹介するね。仁は僕の1個上で、元オカ研部長なんだ。色々あって今ではオカルト現象の調査を頼んでる仲でね」
「はしょりすぎやろ。オレは元々関西出身で、親の仕事の都合で高校の時だけこっちに来てまして。その時静と出会って、オカルト研究会作りたいから部長やれって強制されてからの腐れ縁。今は大学行きながら調査会社をやってます」
「社員は仁だけだし客も僕だけだけどね」
「やかましいな。客層拡大狙ってますんで、みなさんお気軽にご依頼ください。なんでも調べますさかい」
わざとらしいコテコテの関西弁でニコニコしている饗庭さんは詐欺師のキツネのような胡散臭さがある。類は友を呼ぶのか、胡散臭さの度合いが静先輩とお似合いだった。
「で、夏休み中の仁がこっち来るっていうから今日会ってたんだ。なんと依頼してた調査に進展があったということで、マコトくんにも共有したくて突然来たわけです」
「なんで調査内容を俺に共有するんですか?」
「合宿の時に現れた怨霊の件だから」
先輩がそう言うと、饗庭さんが鞄を開いて書類ケースを手に取った。
怨霊の話題が出てちらっと菩提寺の顔色を伺うと、無表情ではあったが怒ってはいないようだった。饗庭さんが書類ケースから取り出した資料を受け取って眺めており、俺も同じように書面に目を通す。なかなかに分厚い報告書だ。
「前に気になってるニュース見せたの覚えてる? 不審死とか行方不明の」
「霊が関係してるかもって言ってたやつですか。確か全部兵庫県で起きてるって」
「そうそう。たぶんだけど、合宿の時に来た怨霊が兵庫県で多数の事故を引き起こしてるみたいでね」
急に話が飛躍した。
点と点が線になるのが早すぎて首をかしげると、饗庭さんが資料を指し示す。
「ここにまとまってるのが直近6か月の間に兵庫で起きた殺人以外の不審死と未解決の行方不明事件。その中から死者または行方不明者に共通の特徴があったものだけピックアップしたんが5枚目」
そのリストには事件、事故の簡単な内容が記載されており、死者も行方不明者もすべてが男性であった。
「共通の特徴っていうのは……兵庫県と男性ってことですか?」
「いや、実はもっと目に見えない共通点があってな。全員過去に犯罪を犯してる」
──ピンポーン。
場にそぐわない明るい音が響いた。
一気に空気が弛緩して、俺と菩提寺は同時に玄関の方を見た。
「ごめん、ちょっと出てくる。宅配かな……!」
緊張と弛緩の高低差に転びそうになりながら立ち上がり、俺は玄関へと急いだ。
今度こそ印鑑を持ってドアを開けると、そこには印鑑に用のない男性2人が立っていた。
「マコトくん、こんにちは~」
「し、静先輩! どうしたんですか」
「ちょっと話したいことあって。今平気? あ、お土産に駅前の水ようかんあるよ」
静先輩が紙袋を持ち上げて笑った。
先輩の隣には、知らない男性が立っていて会釈される。細身で派手な柄シャツを着た、大学生くらいの人だ。
誰だろうと気になってチラチラ見てしまうと、男性は申し訳なさそうに苦笑した。
「ほら、びっくりしてるわ。急に行くのは悪いって言ったよな、オレ」
「でも僕の直感が今だと囁いたから」
そのやり取りと、男性に小突かれた先輩が反応せずにスルーする様が、2人の仲の良さを感じさせた。
(友達……なのかな。先輩の友達、初めて見た)
なんだか落ち着かない気分になっていると、背後に気配がした。
「なんで来たんだよ」
騒ぎを聞きつけた菩提寺が口をへの字にして腕を組んでいる。静先輩も合わせて腕を組み、挑発するように顎を上げた。
「なんでマコトくんちに寄るのに類の許可がいるんだよ。彼氏か?」
「お、類くん。久しぶり~」
まさに苦虫を嚙み潰したという顔をした菩提寺は、男性の挨拶に反応する余裕もなく静先輩に言い返す。
「反省して善本に絡むのやめたんじゃねえのかよ」
「反省はした。でも、それとこれとは別問題。お前こそ僕を悪者にしてマコトくん囲い込むのやめろよ」
「は? 囲い込んでねえよ」
「兄弟喧嘩してんならオレ帰るけど」
男性はため息を吐くと、俺に名刺を差し出して微笑みかけた。
「はじめまして。キミが善本くん? オレは饗庭仁之助いいます。よろしく」
イントネーションがやや関西訛りで、渡された薄い名刺には『調査会社アビア』と書かれている。調査会社というものが、何をする仕事なのかはわからない。
「饗庭さん、はじめまして。俺は善本真です。ここじゃ暑いですし中入ってください。菩提寺と先輩も喧嘩してないで、ほら」
「喧嘩はしてない」
「してないよ」
ピリピリした雰囲気で見合っていた2人は同時に目をそらし、俺は饗庭さんも含めた3人をリビングに案内した。
ソファに座って一息つくと、静先輩が饗庭さんの肩に手を置いた。
「マコトくん、紹介するね。仁は僕の1個上で、元オカ研部長なんだ。色々あって今ではオカルト現象の調査を頼んでる仲でね」
「はしょりすぎやろ。オレは元々関西出身で、親の仕事の都合で高校の時だけこっちに来てまして。その時静と出会って、オカルト研究会作りたいから部長やれって強制されてからの腐れ縁。今は大学行きながら調査会社をやってます」
「社員は仁だけだし客も僕だけだけどね」
「やかましいな。客層拡大狙ってますんで、みなさんお気軽にご依頼ください。なんでも調べますさかい」
わざとらしいコテコテの関西弁でニコニコしている饗庭さんは詐欺師のキツネのような胡散臭さがある。類は友を呼ぶのか、胡散臭さの度合いが静先輩とお似合いだった。
「で、夏休み中の仁がこっち来るっていうから今日会ってたんだ。なんと依頼してた調査に進展があったということで、マコトくんにも共有したくて突然来たわけです」
「なんで調査内容を俺に共有するんですか?」
「合宿の時に現れた怨霊の件だから」
先輩がそう言うと、饗庭さんが鞄を開いて書類ケースを手に取った。
怨霊の話題が出てちらっと菩提寺の顔色を伺うと、無表情ではあったが怒ってはいないようだった。饗庭さんが書類ケースから取り出した資料を受け取って眺めており、俺も同じように書面に目を通す。なかなかに分厚い報告書だ。
「前に気になってるニュース見せたの覚えてる? 不審死とか行方不明の」
「霊が関係してるかもって言ってたやつですか。確か全部兵庫県で起きてるって」
「そうそう。たぶんだけど、合宿の時に来た怨霊が兵庫県で多数の事故を引き起こしてるみたいでね」
急に話が飛躍した。
点と点が線になるのが早すぎて首をかしげると、饗庭さんが資料を指し示す。
「ここにまとまってるのが直近6か月の間に兵庫で起きた殺人以外の不審死と未解決の行方不明事件。その中から死者または行方不明者に共通の特徴があったものだけピックアップしたんが5枚目」
そのリストには事件、事故の簡単な内容が記載されており、死者も行方不明者もすべてが男性であった。
「共通の特徴っていうのは……兵庫県と男性ってことですか?」
「いや、実はもっと目に見えない共通点があってな。全員過去に犯罪を犯してる」
