オカ研の夏合宿から数日が経った。
外は相変わらずの晴天で清々しいほどだが、俺は真夏の青空を見ることもせず、なんなら合宿から帰って来てからほとんど外に出ることもなく、静先輩のLINEを開いて文を打っては消してをずっと繰り返していた。
「そろそろ除霊してください、だと偉そうか? そろそろ会いませんか……。これはなんか、恥ずかしいな……」
先輩に恒例の手繋ぎ除霊をしてもらいたかったのだ。ちょっと日が空いたら、弱めの悪霊が憑いてしまい、大したことはないものの気になっていた。
とはいえ、合宿に現れた怨霊の件で菩提寺兄弟の仲がピリついており、オカ研のグループLINEはすっかり動かなくなっていた。都合が合えば菩提寺が参加できるかもしれないという配慮で、普段2人で会う約束もグループLINEで行っていた背景があり、グループを動かすのか個人連絡するのか迷いに迷っていた。我ながら小心者すぎる。
(……自分でどうにかできれば1番いいんだけど)
何か効きそうなものはないかと思い立って、写真フォルダを開いた。ちなみに未だに俺の待ち受けは先輩のままだ。待ち受け変更不可の不具合が続いているのかどうか、最近は確かめていないけど。
フォルダの1番上にあった、湖で撮った先輩の写真を見つけて拡大する。少し遠くを眺める先輩の横顔は、水面の反射を受けて情緒的に染まっていた。
「……カッコいい……」
思わず呟いてしまって、口を押さえる。誰に聞かれたわけでもないのに何を慌てているんだと落ち着こうとすると、家のインターフォンが鳴った。
リビングのソファでだらけていた俺は、その音で転がるように降りて玄関に向かった。本日両親は仕事で不在のため、俺が出るしかない。
父さんがネットのセールで散財していたから宅配だろうと印鑑を用意してドアを開けると、そこには見知った制服姿の男子が立っていた。
「あれ、菩提寺? どしたの」
「急に悪い。今日練習試合ですぐ近くまで来たから、ちょっと話せないかと思って。忙しければ帰る」
「全然暇してたところだよ。暑いでしょ、上がって上がって」
暇だったのは本当なので突然の訪問は嬉しいサプライズだ。菩提寺を家に上げてリビングに通すと、ソファに座った菩提寺は部屋を見渡した。
「今日、親御さんは?」
「どっちも仕事でいなくて。はい、お茶とお菓子」
「ああ、ありがとう……」
菩提寺は少し緊張したように目線を彷徨わせてからお茶を飲んだ。
「今日も試合あったんだ。剣道部忙しいね」
「まぁでも、毎日ってわけじゃないから。勉強時間の配慮はしてもらってる」
「え、偉い……。俺なんてオカ研しかやってないのに勉強もしてないよ。終わってる」
生き様の眩しさに目を細めると、菩提寺がにわかに姿勢を正して頭を下げた。
「合宿のことは本当に悪かった。俺が静と話し合えていれば、善本にあんな怨霊が憑くのを防げたのに」
「いや! 俺ほんとに気にしてないから! 菩提寺が謝ることじゃないよ、そもそも俺の体質がおかしいっていうか」
「謝らないと俺の気が済まない。今日来たのも、このことを謝りたかったからで。本来静と一緒に謝罪に来るべきだったが──」
「待って、待って。わかった。じゃあ俺は菩提寺を許します。だからこの話はもう終わり。今日はポテチ食って喋ろう」
菩提寺の思いつめた様子に、俺はテーブルのポテトチップスを突きつける。
合宿以降怨霊の気配はないし、もし脅威が続くのであれば静先輩が対策案をくれているだろうという信頼もあった。だから、本当に気にしていなかった。
これ以上湿っぽくなるのは嫌で返事も聞かずに突きつけた袋をパーティー開けにすると、菩提寺は俺とポテチを交互に見て迷っていたが、ゆっくりと1枚つまんでくれる。
「これうまくない? かつお出汁味。最近ハマってるんだよね」
「うまい。初めて食った。どこで売ってるんだ」
「ふふ。近所のローカルスーパーにしかない。今度会う時あげるよ」
得意げに言うと、菩提寺は口元を緩めてもう1枚食べた。
仲良くなる前は感情の出ないタイプだと思っていたけど、意外と笑顔になるよなと見ていると、お茶で喉を潤した菩提寺が咳払いをした。
「……前に、好きな人いるかって話したの覚えてるか」
「え、もちろん。菩提寺の好きな人が誰なのかいまだに気になってるよ」
合宿の夜に話を広げようと思ってできなかった恋バナに、俺は身を乗り出した。
「その、好きな人について……善本に言いたいことがある」
「うん。なになに」
好きな人教えてくれるんだと野次馬気分でワクワクしたが、菩提寺は両目で俺を捉えて離さない。その少し思い詰めた表情に、俺は乗り出した体勢のまま動けなくなってしまった。
「……俺は、全然仲良くなかった人に一方的に片想いをしてた。接点もないし遠くから眺めるだけでいいと思ってた。でも、今年仲良くなれたんだ。そしたら……結局、見てるだけじゃ我慢できなくなってきて」
菩提寺が言葉を区切ると部屋は静寂に包まれ、エアコンの風の音しか聞こえない。
いったい何を言われるのか、わからない。いや、わからないというよりも頭が動かなかった。聞きたいような、聞くのが怖いような。
緊張が伝染して、ただ菩提寺を見つめ返すばかりだった。
「だから、気持ちを伝えたいと思ってる。今はまだ、勝機がないかもしれないけど。それでも」
「……菩提寺の、好きな人って……」
外は相変わらずの晴天で清々しいほどだが、俺は真夏の青空を見ることもせず、なんなら合宿から帰って来てからほとんど外に出ることもなく、静先輩のLINEを開いて文を打っては消してをずっと繰り返していた。
「そろそろ除霊してください、だと偉そうか? そろそろ会いませんか……。これはなんか、恥ずかしいな……」
先輩に恒例の手繋ぎ除霊をしてもらいたかったのだ。ちょっと日が空いたら、弱めの悪霊が憑いてしまい、大したことはないものの気になっていた。
とはいえ、合宿に現れた怨霊の件で菩提寺兄弟の仲がピリついており、オカ研のグループLINEはすっかり動かなくなっていた。都合が合えば菩提寺が参加できるかもしれないという配慮で、普段2人で会う約束もグループLINEで行っていた背景があり、グループを動かすのか個人連絡するのか迷いに迷っていた。我ながら小心者すぎる。
(……自分でどうにかできれば1番いいんだけど)
何か効きそうなものはないかと思い立って、写真フォルダを開いた。ちなみに未だに俺の待ち受けは先輩のままだ。待ち受け変更不可の不具合が続いているのかどうか、最近は確かめていないけど。
フォルダの1番上にあった、湖で撮った先輩の写真を見つけて拡大する。少し遠くを眺める先輩の横顔は、水面の反射を受けて情緒的に染まっていた。
「……カッコいい……」
思わず呟いてしまって、口を押さえる。誰に聞かれたわけでもないのに何を慌てているんだと落ち着こうとすると、家のインターフォンが鳴った。
リビングのソファでだらけていた俺は、その音で転がるように降りて玄関に向かった。本日両親は仕事で不在のため、俺が出るしかない。
父さんがネットのセールで散財していたから宅配だろうと印鑑を用意してドアを開けると、そこには見知った制服姿の男子が立っていた。
「あれ、菩提寺? どしたの」
「急に悪い。今日練習試合ですぐ近くまで来たから、ちょっと話せないかと思って。忙しければ帰る」
「全然暇してたところだよ。暑いでしょ、上がって上がって」
暇だったのは本当なので突然の訪問は嬉しいサプライズだ。菩提寺を家に上げてリビングに通すと、ソファに座った菩提寺は部屋を見渡した。
「今日、親御さんは?」
「どっちも仕事でいなくて。はい、お茶とお菓子」
「ああ、ありがとう……」
菩提寺は少し緊張したように目線を彷徨わせてからお茶を飲んだ。
「今日も試合あったんだ。剣道部忙しいね」
「まぁでも、毎日ってわけじゃないから。勉強時間の配慮はしてもらってる」
「え、偉い……。俺なんてオカ研しかやってないのに勉強もしてないよ。終わってる」
生き様の眩しさに目を細めると、菩提寺がにわかに姿勢を正して頭を下げた。
「合宿のことは本当に悪かった。俺が静と話し合えていれば、善本にあんな怨霊が憑くのを防げたのに」
「いや! 俺ほんとに気にしてないから! 菩提寺が謝ることじゃないよ、そもそも俺の体質がおかしいっていうか」
「謝らないと俺の気が済まない。今日来たのも、このことを謝りたかったからで。本来静と一緒に謝罪に来るべきだったが──」
「待って、待って。わかった。じゃあ俺は菩提寺を許します。だからこの話はもう終わり。今日はポテチ食って喋ろう」
菩提寺の思いつめた様子に、俺はテーブルのポテトチップスを突きつける。
合宿以降怨霊の気配はないし、もし脅威が続くのであれば静先輩が対策案をくれているだろうという信頼もあった。だから、本当に気にしていなかった。
これ以上湿っぽくなるのは嫌で返事も聞かずに突きつけた袋をパーティー開けにすると、菩提寺は俺とポテチを交互に見て迷っていたが、ゆっくりと1枚つまんでくれる。
「これうまくない? かつお出汁味。最近ハマってるんだよね」
「うまい。初めて食った。どこで売ってるんだ」
「ふふ。近所のローカルスーパーにしかない。今度会う時あげるよ」
得意げに言うと、菩提寺は口元を緩めてもう1枚食べた。
仲良くなる前は感情の出ないタイプだと思っていたけど、意外と笑顔になるよなと見ていると、お茶で喉を潤した菩提寺が咳払いをした。
「……前に、好きな人いるかって話したの覚えてるか」
「え、もちろん。菩提寺の好きな人が誰なのかいまだに気になってるよ」
合宿の夜に話を広げようと思ってできなかった恋バナに、俺は身を乗り出した。
「その、好きな人について……善本に言いたいことがある」
「うん。なになに」
好きな人教えてくれるんだと野次馬気分でワクワクしたが、菩提寺は両目で俺を捉えて離さない。その少し思い詰めた表情に、俺は乗り出した体勢のまま動けなくなってしまった。
「……俺は、全然仲良くなかった人に一方的に片想いをしてた。接点もないし遠くから眺めるだけでいいと思ってた。でも、今年仲良くなれたんだ。そしたら……結局、見てるだけじゃ我慢できなくなってきて」
菩提寺が言葉を区切ると部屋は静寂に包まれ、エアコンの風の音しか聞こえない。
いったい何を言われるのか、わからない。いや、わからないというよりも頭が動かなかった。聞きたいような、聞くのが怖いような。
緊張が伝染して、ただ菩提寺を見つめ返すばかりだった。
「だから、気持ちを伝えたいと思ってる。今はまだ、勝機がないかもしれないけど。それでも」
「……菩提寺の、好きな人って……」
