視える俺と視えない最強霊媒師

 白い天井と白いカーテンを眺める。天井は古く、ところどころ染みがあって、それを意味もなく数え始める。1つ、2つ……3つ……。

 ──キーンコーン……。

 4つめを探したところで下校を告げるチャイムが鳴り、俺は染みを見るのをやめて息を吐いた。

(結局、全然授業出られなかった)

 白いベッドから上体だけ起こす。ぐらりと眩暈がして、目を閉じてやり過ごした。
 ここは通っている高校の保健室だった。登校してすぐ体調を崩し、こうして下校時間までベッドに横になっていたわけだ。
 ついこの間、担任から出席日数について釘を刺されたばかりなのに、また今日で欠席が増えた。元から皆勤賞からは程遠い出席状況だったが、2年に上がってからさらに体調不良が続いて、このままでは留年もあり得る状態になってしまっている。

善本(よしもと)くん、体調どう? 帰れそう?」

 カーテンが少しだけ開き、保健室の先生が顔を出した。

「……はい。大丈夫です」
「じゃ、利用記録書いてくれるかな」

 バインダーを差し出され、ベッドから出て受け取る。目に入った利用歴はわずかに女子の名前がある他は、俺の名前ばかりだった。不登校児童のような出現率だ。
 掠れた筆跡で『2年1組 善本真(よしもとまこと) 利用開始時刻:9時15分』と書いてある列の横に『利用終了時刻:15時45分』と記入し、テーブルにバインダーを置いて、仕事をしている先生に声をかけた。

「顔、洗っていってもいいですか」
「うん、どうぞ。水も飲んでいったら。顔色まだ悪いよ」

 振り返った先生が心配そうに出したコップを受け取って、俺は洗面台へと向かった。
 台にもたれかかるように手をついて、鏡を見る。鏡に映った粘土みたいな顔色の自分と、それ以外のモノと目が合って、酷い頭痛がした。

(やっぱり、いなくなってないよな~……)

 うなだれた俺の後ろには大きな黒い靄もやがうごめいていた。
 靄は黒いだけではなく、多数の目がいたるところについていて、俺とその周囲をギョロギョロと見回している。コレに気づいた1週間前から毎日体調が悪化していて、このままだと明日から学校を完全に休まざるを得ない状況だった。

「うっ……」

 胃液がせり上がってくるのを感じて、慌てて唾を飲み込んでせき込む。
 ここで吐きでもしたらいよいよ親に連絡が行って、病院送りになるだろう。医者に診てもらったところで体調不良が解決しないのはわかっている。俺がなけなしの気力で鏡を睨むと、靄の目玉たちは嬉しそうに一斉に弧を描いた。
 俺の体調が最悪になった原因は、この黒い靄のせいだった。
 コレが何なのか、正式名称など知らないが、俺は昔からコレを“悪霊”と呼んでいた。