オカ研部長は最強霊媒師なのに幽霊が視えない

 琵琶湖という日本最大の湖は、たくさんの観光客で賑わっていた。着いたところは海のように泳いでもいいエリアらしく、水着姿の人たちも多い。

(まぁ、幽霊も多いけど……)

 水辺に集まるという説の通り、湖のいたるところに黒い靄が揺らめいていた。悪霊らしいものもいるが、先輩と手を繋いでいることもあってどれも近づいてはこない。

「冷たくて気持ちいい~。海水みたいにベタつかないし最高じゃん」
「あ、魚いますよ! 結構大きい!」
「類。マコトくんが魚見たいって。獲ってきて」
「なんで俺が」
「この中で1番魚獲れそうだろ、類が」

 俺たちオカ研部員も、ズボンをたくし上げて浅瀬に入っていた。
 湖に到着するまでは3人で手を繋いでおり、水遊びの準備が整った後にまた3人で律儀に繋ぎ直していた。

「マコトくん、魚間近で見たいよね?」
「見れるなら見たいです。菩提寺、まさか獲れるの……?」
「なんだよ善本まで……。はぁ、わかった。ちょっと行ってくる。静、善本から目を離すなよ」

 俺が静先輩に便乗して煽ると、菩提寺はやれやれと俺を子ども扱いして手を離し、少し深いところまで入っていった。その背中は広く頼もしく、無人島に流されても菩提寺がいたら安心だろうなとよくわからない想像をさせた。

「さてと。僕たちは先に上がって飲み物でも飲もうか」
「え、もういいんですか? 先輩もっと派手に遊ぶタイプだと思ってました」
「遊んでもいいんだけど、プールの時みたいにマコトくんが引きずりこまれたら怖いからね。類が魚獲るまでまったりしよう」

 なんだかんだ俺の安全を考えてくれているらしい先輩は、手を引いて浜に上がるとキッチンカーでレモネードを買った。
 しかし「ストローが可愛いから」とかいう理由で2人用の、つまりカップル用のものを購入しており、俺は忘れていた羞恥を再び思い出した。

「なんでわざわざコレなんですか……」
「可愛いしお得だったし。はい、マコトくんも飲んで」

 浜に並んで座るとピンクのストローを咥えさせられ、冷たい飲み物の魅力に抗えずに飲む。レモネードはおいしくて、結局長めに飲んだ。

「ねえ、あの子たち手繋いでない?」
「ホントだ、かわいい~。てか金髪くんイケメンだ」

 レモネードを先輩に返した時、社会人風の女性たちが通りすがりにそう言っているのが聞こえた。やはり菩提寺の言う通り3人で繋いでいればふざけている集団だが、2人で繋いでいると与える印象がまったく違うようだ。
 周囲に100%誤解されていると思い、重ねていた手を離そうとしたらすぐ追いかけられて捕まった。

「勝手に離しちゃダメだよ、危ない」
「で、でも変な目で見られてますよ……」
「付き合ってるのかな~っていう目? いいじゃん、思わせとけば。僕はマコトくんと付き合ってると思われても全然いいよ。マコトくんは困る?」

 先輩は俺に顔を近づけて、面白そうに口角を上げた。
 間近で見ても滑らかな肌と、笑顔からのぞく歯は白く整っている。困ると返そうとしたが、先輩を見るうちに本当に困るのかわからなくなってしまった。

「……先輩、ほんと顔カッコいいですね」

 思考停止で思ったことをそのまま口に出すと、先輩は笑みを深めた。

「この顔で生まれてきた甲斐があるね。もっとよく見ていいよ」

 おでこがくっつきそうな距離で見つめ合い、これ手を繋ぐよりずっと誤解を生まないか?と頭が動き始めたところで砂を踏む音が近づいてきた。

「おい」

 ドサッと目の前の地面に魚が落ちる。
 30センチはありそうな大物が、ビチビチと元気に跳ね、そしてその後ろには静先輩を見下ろす菩提寺が立っていた。

「俺に魚任せてイチャつくとはいい度胸だな」
「獲るのはや。将来は坊主じゃなくて漁師になったら?」
「すご、ほんとに獲れたんだ! さすが菩提寺、運動神経が伊達じゃないね」

 俺が興奮気味に魚に近づくのが兄弟の発言に被り、言い合いを始めそうだった兄弟はすぐに俺へ視線を移した。

「記念に写真撮ろうよ。菩提寺、魚持って持って」
「じゃあ善本も一緒に写ろう。静、お前カメラ係な」
「いいけど、後で僕もマコトくんと撮ってよ」

 魚を持った菩提寺と並んで写真を撮ってもらう。メンバーを入れ替えてツーショットやワンショットを撮り合い、近くの人に頼んで3人の写真も撮ってもらえた。

(いい写真撮れたな~)

 真ん中で魚を掲げる俺と、その両隣に立つ菩提寺兄弟は自然な笑顔を浮かべている。
 今まで友達と遊ぶ機会が少なく、写真もほとんどなかったので貴重な1枚となった。

「お魚ちゃんのおかげで盛り上がった。ありがとね~」

 先輩がお礼と共に魚を湖へリリースする。魚は元気に泳ぎ出しすぐに見えなくなった。

「さて。そろそろいい時間だし旅館に戻ってご飯にしよう。ご飯のあとはお待ちかねのアレだよ」

 目を輝かせた先輩が俺の手を取り、菩提寺も流れで俺の手を握った。
 来た時と同じように3人で手を繋いで、俺たちは旅館へと戻ったのだった。