何をしてる?
後ろから聞こえる声と同じことを頭で繰り返しながら僕は森の中を走っていた。
一体何をしている? 持ってきたのは散弾銃だけだ。ただ、戻れば仲間たちに止められると分かっているからこのまま行くしかない。同時に焦りと恐怖が足元に絡みついてくる。
迷っている暇などない。
僕は片手で顔を庇うようにしながら白く霞んだ先を睨んだ。仲間と合流した地点と、廃屋はさほど離れていない。きっとまだこの近くにいるはずだ。
「ヒース!」
ヒースに自分の居場所を知らせることは、外敵に狙われるリスクも伴う。けれど、そんなことに構っている余裕はない。声は風にかき消され、時折地面に咲き乱れる不気味な花に足を取られそうになりながらひたすら走った。
できるだけ息を大きく吸い、パニックに陥らないよう周囲を見渡す。木々も地面も雪で覆い尽くされていて、歩き慣れた森のはずなのにまるで別世界だった。あの白い花もかき消してしまうこの純白は気味が悪い。
「ヒース! どこにいる!」
何も見えなかった。もう見つからないのかもしれないと頭によぎった途端、体温がさらに奪われたようだった。無意識に呼吸が荒くなり、何の役にも立たない銃だけを強く握りしめる。その手が震えているのが分かった。
「エディ!」
少し離れた場所から声が響き、僕は息をのむ。声の方向が掴めず視線を彷徨わせていると、輪郭が滲むような人影が見えた。
「ヒース、そこにいる?!」
なぜか、先ほど仲間と合流したとき以上の安堵感があった。ただ、力を抜くのはまだ早い。歯を食いしばりながらその人影に向かって歩き出す。
「そっちじゃない! 俺はここだ!」
反対側からはっきりと声が響いて僕は振り返る。そこには風から顔を庇うように手をかざすヒースの姿があった。無意識に笑みが溢れる。
そして圧倒的な違和感に筋肉が硬直した。先ほど見えた人影は――――。
僕は振り向きざまに銃を構える。三メートルほど先にそいつはいた。
吹雪の中でぱっと映える赤色は……血だ。血まみれの服に身を包み、両手をぶら下げながら危うい足取りで歩いている。
咲き誇った紫色の花弁の髪。クリーチャーではない――適合者だ。
「そこで止まれ」
できるだけ動揺を抑えながら、声を低くして威嚇するように声をかける。しかし、相手が立ち止まる気配はない。
「止まれって言ってるだろ!」
無意識に大きな声が出た。適合者はようやく立ち止まる。お互い姿は見えているというのに、息をひそめてそいつの様子を観察した。骨格からして男だろうか。吹雪のせいで視界が悪く、表情がよく見えない。だが、明らかに異様なのは間違いなかった。
少しだけ風向きが変わる。僕は思わず顔を背け――その一瞬の隙に男が距離を詰めてきたのが分かった。虚ろなひとつの視線が僕と重なる。口から涎を垂らし、鮮やかな花びらを揺らしながら駆けてくるその姿はクリーチャーそのものだ。
叫び声が喉で引っかかる。かじかんだ指が引き金を捕らえ損ね、無意識に後ずさった。雪が隠した忌々しい花に足を取られ背中から倒れる。
「走れヒース!!」
僕は叫んだ。手が震え、銃がうまく構えられない。早く早く、早くしろ。早くしろ!
すぐ横をクリーチャーが通り過ぎる。そいつは喉から金切り声を絞り出しながら、迷わずヒースに向かったのだ。僕を助けようと太い枝を手にして前のめりになっていたヒースの表情が歪む。完全に逃げ出すのが遅れている。彼は枝を構え、それで殴りかかろうとした。
「駄目だ!」
全身の細胞がざわめくような感覚に襲われ、気づけば引き金を引いていた。銃声が轟き、クリーチャーの頭が半分ほど吹き飛ぶ。立ち上がり様にもう一発撃ち込み、地面に崩れたそれにもう一発を撃ち込む。粘り気のある真っ赤な塊が地面に散らばり、それは動かなくなった。
肩で息をしながら、顔に飛び散った残骸を拭う。鉄の匂いとその生温かさに震えが止まらない。
ヒースはすぐそばで立ち尽くしていた。そして我に返ったように僕を見る。
「……助かった。ありがとう」
「いや……。とにかく雪を避けられる場所を探さないと」
「クレイは? 彼は無事なのか?」
苦しそうに顔をしかめて訊ねてくる。もっともな心配事だ。
「大丈夫。仲間と合流して任せてきた」
そうか、と短く返事したヒースと共に歩き出す。あの適合者のようなクリーチャーが近くにまだいるかもしれないと思うと、この吹雪以上に恐ろしかった。
「いまのやつ……どうしてきみを襲わなかったんだ」
寒さのためか恐怖のためか、ヒースの声は震えていた。純粋な疑問を口にしただけだろうに、言葉が喉に張り付いて何も出ていかない。
ふと開けた場所が見えてきた。なんとなく見覚えのある木の形に――賭けに出ようと思った。
「あの廃屋の近くじゃないかな……。行こう」
森を出て何もない平野を進む。少しでも風を避けられるようぴたりと寄り添い、お互いの息遣いを聞きながらひたすら歩いた。
まだ動揺がこびりついている。あれは花びらの髪を持つ適合者そのものだった。自分と同じ姿をしたものを迷わず撃ち殺した僕を、ヒースはどう思っただろう。
「エディ」
彼の声につられて顔を上げる。どうしたのか訊ねる前に、あの廃屋が視線の先に見えた。僕らは顔を見合わせ、最後の力を振り絞るようにそこへ駆け出す。
こんな吹雪の中でも、相変わらずあの甘ったるい香りが漂ってきた。今はそれすら恋しい。出入り口から中を確認したが、いつものように鮮やかな花が咲いているだけで危険はないようだった。
僕たちは中に入り、花のそばを避けて部屋の奥に身を寄せる。崩れた壁からは相変わらず冷たい風が入り込み、感染者の死体と一緒ということを入れても、外より随分快適だった。
「……怪我はない?」
両足を抱きしめるようにして隣に座る彼に声をかける。歩き方もしっかりしていたから問題ないはずだと思うのに、彼が頷いて返事するのを見て、ようやく胸にのしかかっていた重いものが消えた。ヒースは顔を伏せて悔しそうに呟く。
「俺が迷ったせいだ。本当にごめん」
「僕が勝手に探しにきただけだよ」
「……感謝してる。俺ひとりだったら死んでた」
先ほどの光景がフラッシュバックし、僕は思わず目を閉じた。息を大きく吸えばあの甘すぎる匂いに胸焼けがする。
「あのクリーチャーみたいなのが彷徨っているのを見かけて……気を取られたら道が分からなくなってたんだ。あれは……なんだと思う?」
「分からない。でも、あの動き方はクリーチャーと同じだった」
「ああ……。けど、適合者の姿をしたクリーチャーなんて……」
会話はすぐに途切れてしまう。間違いなく言えるのは、あれはもう人間ではなかった。
僕らは沈黙の中で、廃屋が風に頼りなく軋む耳障りな音をひたすら聴く。
「ここは……クレイとよく来てたの?」
僕は訊ねた。黙っているよりはずっといい。むしろ、こんな時くらいしか、彼としっかり話ができないような気がした。
「……ああ。夜に抜け出して、ここから星を観察してた」
「きみが? 信じられない」
可笑しくなって笑ってしまう。ヒースは鼻を鳴らしたけれど、気を悪くする元気もないのだろう。
「ここが安全区域だった頃の話だ。周りを遮るものがないから……彼がハンターを探すならここだと思った」
「……やっぱりきみには話すべきだったよ。ごめんね」
家畜小屋での会話でクレイがやっていることを打ち明けていれば、こんな場所で寒さに震えることなんてなかったかもしれない。ただ、意外にもヒースは穏やかだった。
「どうせ俺が知っていたところで、彼はやりたいようにするさ。だから俺も好きなように動いた」
気遣いなのか本音なのかは分からない。ただ、改めてふたりの絆というのが鬱陶しく、それでいていうらやましいと思う。
「……どうしてあれが襲ってこなかったのかって訊いたよね」
彼も気になっていたことなのか、ヒースの視線がこちらを向いた。いつもはこちらを見るのすら嫌がっているのに複雑な気分だ。
「僕にも分からないけど、適合者になってからずっとそうなんだ」
「それ……ほかに知ってるやつはいるのか?」
「話したのはきみが初めてだよ」
少しだけ眉が動いたそれを、戸惑いと受け取った。構わずに僕は続ける。
「だから、前にいたコミュニティでは……発芽し始めた感染者を外に追放するのが仕事だったんだ。開花してクリーチャー化しても、僕なら襲われないからね」
僕が外に連れて行ったやつらは、みんな全身から花を咲かせて死んだ。僕はそれを見届け、町に戻るだけ。ただ、クリーチャー化する感染者は恐ろしくて見れたものじゃない。だからその時は、人間の意識を保ったままのそれを撃ち殺す。
言葉にすると意識だけが過去に戻っていくようで――まるで夢を見てるような気分になる。
「……なぜそんな話を俺に?」
口元がひきつる感覚があった。嫌悪でも慰めでもない言葉が彼らしい。
「なぜって……そんなの……」
あれほど饒舌だったことが嘘みたいだ。クレイのように心配してもらえると思ったわけではない。思ったわけないのに、いつの間にか顔を伏せていたことに気づき、羞恥心が沸き上がる。
「……これについて、僕が役に立てそうなことがあったら言ってよ。今度は力になるから」
言葉にすればするほど焦燥感が増す。自分は特別だと思っていたんだろうか。
風の音が少しだけ静かになる。どうせならもっと騒がしくなればいいのに。茎の感触を確かめるように髪を撫で――明らかに風とは違う何かの音を聞いた。
僕たちは息をのみ、立ち上がって耳を澄ませる。荒々しい足音……生き物が動く音だ。
「ま――」
声を上げるのがすっかり遅れ、ほとんど倒れこむようにして何者かが小屋の中に入ってきた。慌てて銃を構える。荒い呼吸のまま床にうずくまるそれは人間の形をしているが、適合者でもない。そしてクリーチャーでもない。
どこにも植物に侵されていない――人間だった。
後ろから聞こえる声と同じことを頭で繰り返しながら僕は森の中を走っていた。
一体何をしている? 持ってきたのは散弾銃だけだ。ただ、戻れば仲間たちに止められると分かっているからこのまま行くしかない。同時に焦りと恐怖が足元に絡みついてくる。
迷っている暇などない。
僕は片手で顔を庇うようにしながら白く霞んだ先を睨んだ。仲間と合流した地点と、廃屋はさほど離れていない。きっとまだこの近くにいるはずだ。
「ヒース!」
ヒースに自分の居場所を知らせることは、外敵に狙われるリスクも伴う。けれど、そんなことに構っている余裕はない。声は風にかき消され、時折地面に咲き乱れる不気味な花に足を取られそうになりながらひたすら走った。
できるだけ息を大きく吸い、パニックに陥らないよう周囲を見渡す。木々も地面も雪で覆い尽くされていて、歩き慣れた森のはずなのにまるで別世界だった。あの白い花もかき消してしまうこの純白は気味が悪い。
「ヒース! どこにいる!」
何も見えなかった。もう見つからないのかもしれないと頭によぎった途端、体温がさらに奪われたようだった。無意識に呼吸が荒くなり、何の役にも立たない銃だけを強く握りしめる。その手が震えているのが分かった。
「エディ!」
少し離れた場所から声が響き、僕は息をのむ。声の方向が掴めず視線を彷徨わせていると、輪郭が滲むような人影が見えた。
「ヒース、そこにいる?!」
なぜか、先ほど仲間と合流したとき以上の安堵感があった。ただ、力を抜くのはまだ早い。歯を食いしばりながらその人影に向かって歩き出す。
「そっちじゃない! 俺はここだ!」
反対側からはっきりと声が響いて僕は振り返る。そこには風から顔を庇うように手をかざすヒースの姿があった。無意識に笑みが溢れる。
そして圧倒的な違和感に筋肉が硬直した。先ほど見えた人影は――――。
僕は振り向きざまに銃を構える。三メートルほど先にそいつはいた。
吹雪の中でぱっと映える赤色は……血だ。血まみれの服に身を包み、両手をぶら下げながら危うい足取りで歩いている。
咲き誇った紫色の花弁の髪。クリーチャーではない――適合者だ。
「そこで止まれ」
できるだけ動揺を抑えながら、声を低くして威嚇するように声をかける。しかし、相手が立ち止まる気配はない。
「止まれって言ってるだろ!」
無意識に大きな声が出た。適合者はようやく立ち止まる。お互い姿は見えているというのに、息をひそめてそいつの様子を観察した。骨格からして男だろうか。吹雪のせいで視界が悪く、表情がよく見えない。だが、明らかに異様なのは間違いなかった。
少しだけ風向きが変わる。僕は思わず顔を背け――その一瞬の隙に男が距離を詰めてきたのが分かった。虚ろなひとつの視線が僕と重なる。口から涎を垂らし、鮮やかな花びらを揺らしながら駆けてくるその姿はクリーチャーそのものだ。
叫び声が喉で引っかかる。かじかんだ指が引き金を捕らえ損ね、無意識に後ずさった。雪が隠した忌々しい花に足を取られ背中から倒れる。
「走れヒース!!」
僕は叫んだ。手が震え、銃がうまく構えられない。早く早く、早くしろ。早くしろ!
すぐ横をクリーチャーが通り過ぎる。そいつは喉から金切り声を絞り出しながら、迷わずヒースに向かったのだ。僕を助けようと太い枝を手にして前のめりになっていたヒースの表情が歪む。完全に逃げ出すのが遅れている。彼は枝を構え、それで殴りかかろうとした。
「駄目だ!」
全身の細胞がざわめくような感覚に襲われ、気づけば引き金を引いていた。銃声が轟き、クリーチャーの頭が半分ほど吹き飛ぶ。立ち上がり様にもう一発撃ち込み、地面に崩れたそれにもう一発を撃ち込む。粘り気のある真っ赤な塊が地面に散らばり、それは動かなくなった。
肩で息をしながら、顔に飛び散った残骸を拭う。鉄の匂いとその生温かさに震えが止まらない。
ヒースはすぐそばで立ち尽くしていた。そして我に返ったように僕を見る。
「……助かった。ありがとう」
「いや……。とにかく雪を避けられる場所を探さないと」
「クレイは? 彼は無事なのか?」
苦しそうに顔をしかめて訊ねてくる。もっともな心配事だ。
「大丈夫。仲間と合流して任せてきた」
そうか、と短く返事したヒースと共に歩き出す。あの適合者のようなクリーチャーが近くにまだいるかもしれないと思うと、この吹雪以上に恐ろしかった。
「いまのやつ……どうしてきみを襲わなかったんだ」
寒さのためか恐怖のためか、ヒースの声は震えていた。純粋な疑問を口にしただけだろうに、言葉が喉に張り付いて何も出ていかない。
ふと開けた場所が見えてきた。なんとなく見覚えのある木の形に――賭けに出ようと思った。
「あの廃屋の近くじゃないかな……。行こう」
森を出て何もない平野を進む。少しでも風を避けられるようぴたりと寄り添い、お互いの息遣いを聞きながらひたすら歩いた。
まだ動揺がこびりついている。あれは花びらの髪を持つ適合者そのものだった。自分と同じ姿をしたものを迷わず撃ち殺した僕を、ヒースはどう思っただろう。
「エディ」
彼の声につられて顔を上げる。どうしたのか訊ねる前に、あの廃屋が視線の先に見えた。僕らは顔を見合わせ、最後の力を振り絞るようにそこへ駆け出す。
こんな吹雪の中でも、相変わらずあの甘ったるい香りが漂ってきた。今はそれすら恋しい。出入り口から中を確認したが、いつものように鮮やかな花が咲いているだけで危険はないようだった。
僕たちは中に入り、花のそばを避けて部屋の奥に身を寄せる。崩れた壁からは相変わらず冷たい風が入り込み、感染者の死体と一緒ということを入れても、外より随分快適だった。
「……怪我はない?」
両足を抱きしめるようにして隣に座る彼に声をかける。歩き方もしっかりしていたから問題ないはずだと思うのに、彼が頷いて返事するのを見て、ようやく胸にのしかかっていた重いものが消えた。ヒースは顔を伏せて悔しそうに呟く。
「俺が迷ったせいだ。本当にごめん」
「僕が勝手に探しにきただけだよ」
「……感謝してる。俺ひとりだったら死んでた」
先ほどの光景がフラッシュバックし、僕は思わず目を閉じた。息を大きく吸えばあの甘すぎる匂いに胸焼けがする。
「あのクリーチャーみたいなのが彷徨っているのを見かけて……気を取られたら道が分からなくなってたんだ。あれは……なんだと思う?」
「分からない。でも、あの動き方はクリーチャーと同じだった」
「ああ……。けど、適合者の姿をしたクリーチャーなんて……」
会話はすぐに途切れてしまう。間違いなく言えるのは、あれはもう人間ではなかった。
僕らは沈黙の中で、廃屋が風に頼りなく軋む耳障りな音をひたすら聴く。
「ここは……クレイとよく来てたの?」
僕は訊ねた。黙っているよりはずっといい。むしろ、こんな時くらいしか、彼としっかり話ができないような気がした。
「……ああ。夜に抜け出して、ここから星を観察してた」
「きみが? 信じられない」
可笑しくなって笑ってしまう。ヒースは鼻を鳴らしたけれど、気を悪くする元気もないのだろう。
「ここが安全区域だった頃の話だ。周りを遮るものがないから……彼がハンターを探すならここだと思った」
「……やっぱりきみには話すべきだったよ。ごめんね」
家畜小屋での会話でクレイがやっていることを打ち明けていれば、こんな場所で寒さに震えることなんてなかったかもしれない。ただ、意外にもヒースは穏やかだった。
「どうせ俺が知っていたところで、彼はやりたいようにするさ。だから俺も好きなように動いた」
気遣いなのか本音なのかは分からない。ただ、改めてふたりの絆というのが鬱陶しく、それでいていうらやましいと思う。
「……どうしてあれが襲ってこなかったのかって訊いたよね」
彼も気になっていたことなのか、ヒースの視線がこちらを向いた。いつもはこちらを見るのすら嫌がっているのに複雑な気分だ。
「僕にも分からないけど、適合者になってからずっとそうなんだ」
「それ……ほかに知ってるやつはいるのか?」
「話したのはきみが初めてだよ」
少しだけ眉が動いたそれを、戸惑いと受け取った。構わずに僕は続ける。
「だから、前にいたコミュニティでは……発芽し始めた感染者を外に追放するのが仕事だったんだ。開花してクリーチャー化しても、僕なら襲われないからね」
僕が外に連れて行ったやつらは、みんな全身から花を咲かせて死んだ。僕はそれを見届け、町に戻るだけ。ただ、クリーチャー化する感染者は恐ろしくて見れたものじゃない。だからその時は、人間の意識を保ったままのそれを撃ち殺す。
言葉にすると意識だけが過去に戻っていくようで――まるで夢を見てるような気分になる。
「……なぜそんな話を俺に?」
口元がひきつる感覚があった。嫌悪でも慰めでもない言葉が彼らしい。
「なぜって……そんなの……」
あれほど饒舌だったことが嘘みたいだ。クレイのように心配してもらえると思ったわけではない。思ったわけないのに、いつの間にか顔を伏せていたことに気づき、羞恥心が沸き上がる。
「……これについて、僕が役に立てそうなことがあったら言ってよ。今度は力になるから」
言葉にすればするほど焦燥感が増す。自分は特別だと思っていたんだろうか。
風の音が少しだけ静かになる。どうせならもっと騒がしくなればいいのに。茎の感触を確かめるように髪を撫で――明らかに風とは違う何かの音を聞いた。
僕たちは息をのみ、立ち上がって耳を澄ませる。荒々しい足音……生き物が動く音だ。
「ま――」
声を上げるのがすっかり遅れ、ほとんど倒れこむようにして何者かが小屋の中に入ってきた。慌てて銃を構える。荒い呼吸のまま床にうずくまるそれは人間の形をしているが、適合者でもない。そしてクリーチャーでもない。
どこにも植物に侵されていない――人間だった。
