コミュニティを出て最初の一日目があっけなく終わろうとしている。明かりのない外は、陽が沈めば見渡す限りの暗闇が広がり、目が慣れると月明かりでさえ眩しく感じるほどだった。
ちょうどいい岩場の陰を見つけ、エディはイライザと共に自然の屋根の下で横になっていた。薪が燃える匂いは、幸運なことに、医務室の匂いに近い。昨日の同じ時間、三人で過ごしていたことを思い出し、鈍い痛みが胸のあたりに広がる。一日中気を張っていたせいかどうも寝付けなかった。
体を起こし、周囲を見渡す。好き放題伸びた雑草の中に点々と咲く花の色は分からない。近くに人が暮らす気配はなく、随分昔に乗り捨てられた車が一台、錆と植物の蔦に覆われていた。少し離れたところに森が広がっていて、目的地はその方向の先だと聞いている。こちらに背中を向けて横になるイライザを一瞥し、エディは岩場の上へと登った。
平らな場所に腰を下ろし、鼻から息を吐きだす。果てしなく広がった星空を見上げると、心の中で何かが噛みあうような音がした。
――結局、三人でこの星空を眺めることはできなかった。
零れ落ちていく涙を拭いもせず、滲んだ視界のまましばらくその痛みに身をゆだねる。
信じられないことに幸福だったのだ。
あのふたりがまだこの空を眺めていると思えることが、そこに居られなかったことなど霞ませるほどに幸福だった。歩いたことのない道の先には、これまで人間が暮らしていた痕跡が残っていて、よく分からない残骸を見かける度、ふたりの顔を思い出す。彼らに見せたらどんな反応をするのか考えるとき、宝物は変わらずそこにあった。
「きみは帰らない」とクレイは言った。その通りだった。
もう二度とあの場所には戻らない。
真実が追いつかない先に宝物を置いてきた。彼らは誰にも奪えない場所にいる。それ以上の幸福など必要なかった。
穏やかな夜風が耳元を過ぎていく。その冷たさにじっくり体温が奪われるのを心地よく感じながら、エディは岩陰に戻る。焚き火が作る影を眺めながら固い地面に横になり、過ぎ去っていく音に耳を澄ませていた。
「エディ」
名前を呼ばれて目を開ける。夜は明けていた。
地面の感触が背中に残ったまま体を起こして視線を上げると、燃え尽きた薪の向こうにイライザが立っていた。エディが目を覚ましたことを見届けると、彼女は無言で荷物をまとめ始める。
無意識に空を見上げると、そこは重そうな灰色の雲に覆われていた。体が軋むのを確かめるように立ち上がり、昨日歩いてきた方向を振り返る。三人で過ごしたあの場所はどこにもない。
「行こう」
自然と声が出ていった。昨日よりもずっとはっきりした声だった。
瞼が腫れた感触を払うように顔を手で拭い、一度も振り返ることなく、彼は歩き出した。
(了)
