幼馴染が俺の好みに寄せてくるんだが

 ここは勝手知ったる我が家の次くらいに勝手を知っている親友兼幼馴染の部屋。ローテーブルにはパーティー開けのスナック菓子、そしてペットボトルのお茶とジュースが並んでいる。
 充実した休日を過ごすには、特別なものは必要ない。好きなお菓子と飲み物、面白い漫画、それに気の置けない幼馴染がいれば十分だ。
「なあ、これの続きある?」
「上から二段目だよ」
 読み終わった漫画を閉じて声をかければ、すぐに答えが返ってきた。言われた通りに、漫画と参考書が整然と並んだ本棚に目をやる。目当ての単行本を手に取り、クッションに再度腰を下ろした。
 最近話題になっているファンタジー漫画は面白くて、ページを捲る手が止まらない。絵も上手いしキャラクターも魅力的だし、人気があるのも納得だ。
誠矢(せいや)が買ってる漫画って面白いのばっかりだよなぁ」
 幼馴染の誠矢は昔から頭が良くて真面目だけど、意外とたくさん漫画を持っている。しかも俺好みの作品が多い。誠矢はどこか嬉しそうに笑うと、机の上にあった手提げ袋の中身を出した。
潤太(じゅんた)、これ昨日最新刊が出たんだ。先に読んでいいよ」
「え、いいの? ありがとう」
 めちゃくちゃ気が利くいい奴だ。ついつい甘えてしまう。
 俺たちの腐れ縁は幼稚園の頃から始まった。母親同士が仲良くなり、二人で遊ぶ機会が増え、小学校から中学校まで学区が同じ。俺が第一志望の高校に落ちたせいで進路は分かれたが、今でも休みの日にはどちらかの家で遊ぶことが習慣になっている。他の友達の家にはこんなに頻繁に行かないけれど、誠矢となら一緒にいると落ち着けるし、楽しいのだ。
 俺は単行本を受け取りつつ、部屋の隅にある大きな紙袋に目線を移した。
「あれはホワイトデーの分?」
「ああ、うん」
「相変わらずすごい量だな」
 誠矢は顔がいい。昔からいい。色素の薄い髪と瞳に、思春期でもニキビひとつできない綺麗な肌、高い鼻筋に薄い唇……容姿の良さを上げればきりがない。当然のごとくモテまくるので、バレンタインには学校の伝説を作るほど大量のチョコレートをもらう。ちなみに俺は甘いものが苦手な誠矢に代わってチョコレートを食べる係である。
「毎年大変だろ。断ればいいのに」
「一応断ってるんだけど……どうしてもって言われると断りきれなくて」
 優しすぎて損をするタイプだ。しかも律儀にお返しを用意するものだから、金銭的にも負担が大きいと思う。
「いっそ彼女でも作れば? 彼女がいればみんな諦めるだろ」
「……うーん……」
 誠矢は整った眉を寄せた。この反応は想定内だ。誠矢は恋愛話が苦手でいつも言葉を濁すし、今までに誰かと付き合ったこともない。これだけモテるのにもったいないな。
「告白してくる子の中に好みのタイプいないの?」
「好みのタイプ……」
 誠矢の目がちらりと俺を見て、すぐ逸らされる。
「潤太は、その……どんな人が、好みなの?」
「ええ、そうだなぁ……」
 こういう話題を誠矢から振ってくるのは珍しい。俺の好みなんて聞いても仕方ないと思うが、とりあえず考えてみる。
「やっぱり優しくて明るくて、元気な感じがいいな」
「……あとは?」
「うーん……できれば同い年か年下で……髪がきれいな子もいいな。ほら、サラサラの黒髪ってなんか憧れるじゃん」
「……」
「あ、あとはスイーツが好きだったら嬉しいかな。一緒においしいもの食べられたら楽しそうだし」
「……」
「……誠矢、聞いてる?」
 一人でべらべら語っていたら恥ずかしくなってきた。せめて何かリアクションとかツッコミとか入れてくれよ。誠矢ははっと我に返ったように顔を上げると、何回も頷いた。
「分かった、ありがとう。参考にする」
「……何の?」
 俺の問いに答えはなく、誠矢は神妙な顔をしながら考え込んでしまった。なんなんだよ、一体……。