精神崩壊

 帰宅路、駅前のコンビニで買った一人分の弁当は、カバンの中で斜めになり、中身の境界線が不格好に混ざり合っていた。かつての僕なら、そんな些細な不規則さも許せなかったはずだ。けれど今は、味が混ざろうが、米が冷え切っていようが、どうでもよかった。
 自室に入り、明かりも点けずにベッドに身を投じる。
 制服を脱ぐことさえ億劫だった。この通信制高校の、誰に誇ることもできない、それでいて「普通」を装うための布切れ。これを着ている限り、僕はまだ社会という数式の中に辛うじて組み込まれていることになっている。
 ふと、枕元に置いていたあの藍色のガラスペンに目をやる。
 窃盗罪という名の刻印。先生との細い、けれど絶対的な絆を切り裂いた凶器。
 僕はそれを手に取り、月明かりの下でかざしてみた。インクはとうに乾き、ペン先はもう、僕たちの歪な愛を綴ることはない。
「ねえ、清水先生。……今、何を見てる?」
 返事はない。
 ただ、遠くで通り過ぎる電車の走行音と、隣の部屋から聞こえてくる母の力ない咳払いだけが、僕の現実を虚しく縁取っている。
 
 星川は今頃、憧れの難関校で、新しい友人と高度な数式を解き明かしているのだろう。
 咲は、もっと派手な世界で、誰かに愛される「正解」を演じ続けているのだろう。
 彼らには未来がある。昨日よりも今日、今日よりも明日が、右肩上がりのグラフのように伸びていくと信じられる特権がある。
 僕にあるのは、停滞だけだ。
 先生という座標を失った僕のグラフは、ゼロの地点で凍りついたまま、一ミリも動くことができない。
 平和だ。
 暴力もない、罵倒もない、監視もない。
 けれど、この底なしの退屈は、先生に首を絞められていたあの瞬間の苦痛よりも、ずっと深く、僕の魂を蝕んでいく。
 僕はガラスペンを強く握りしめた。
 あの日、あのアパートで、あるいはあの雪の廃屋で、僕たちは確かに「完成」したはずだった。
 それなのに、世界は僕たちを無理やり引き剥がし、僕にだけこの「無意味な余生」を押し付けた。
 僕は目を閉じ、暗闇の中に清水先生の鋭い眼光を想起する。
 採点してほしい。……この、壊れきった僕を。